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トナカイさんへ伝える話(64)SNSでの二次加害はバレます〜告発されたときやってはいけないこと

小川たまかライター
はんつ遠藤さんのブログより

 ラーメン店経営者の女性がSNS上で「ラーメン評論家」から受けたセクハラを告発。イニシャルで示された「評論家」のひとりであるフードジャーナリストの男性が、自らセクハラ行為を認めるブログを公開して非常に悪い意味で話題になっています。

 フードジャーナリストの男性とは直接面識はないですが、ああいう「真剣な告発を茶化して無効化しようとする個人とそれに同調する空気」に怒りを通り越して呆れる……と書きたいところだけれど、これまでずっと呆れた人たちが口をつぐんで注意せずそっと離れてきた結果の今回なのだと思う。だからただ呆れていてはいけないな、と。

 眉をひそめる人がいづらい雰囲気を作り、茶化す人、なあなあにする人、まあまあと収める人だけが残った結果、これだけ世間との乖離ができてしまったのでは。時代の流れから完全に取り残されてる。2年前の週刊SPA!の大炎上からあなたは何も学ばなかったのですかと。

 この件について何も知らない、ラーメン評論家、何だそりゃって感じの人のためにざっくりと経緯をまとめると……。

9月27日、「バイトAKB」として活動していたこともあるラーメン店経営者の梅澤愛優香さんが、ツイッター上で「ラーメン評論家から受けたセクハラ一部をまとめましたので見て下さい」と投稿。過去に初対面のラーメン評論家「H」から「顔は写さないから身体だけ撮らせて」などと言われたことを告発する。

 ※梅澤さんは「反社とつながっている」というデマを取引先に流した男性を名誉毀損・業務妨害で民事提訴、警察へ被害届を出したことが9月前半に報じられているが、その件とこちらは別件。

9月28日午前1時頃、フードライターのはんつ遠藤さんが、「H」とは自分と認めるブログを公開。この文章が見るものすべてを凍らせる寒さで、謝罪どころか「梅澤さんの件は、まだまだ良い方ですよ。他の女性とか、もっとひどい」と余罪をなぜか自慢げに語る。トレンドに「はんつ遠藤」が入り、はてブは1800超え

 当然、魚拓が取られまくるものの、本人は「効いてない」ムーブでその後もツイッター&ブログ更新。

はんつ遠藤さんのFacebook上でははんつさんが擁護され「ハニートラップの売名」「結局お店の宣伝」など、セカンドハラスメントにあたる言葉が書き込まれていたことが明らかに。このFacebook投稿は全体公開では見られなくなっている。

9月28日公開のインタビュー記事で、梅澤さんがはんつさんや他のラーメン評論家から、悪評を流されそうになった経緯を語る。

9月29日、はんつさんのブログを読んだ感想を梅澤さんが語った記事が公開される。

9月29日午後JALの運営サイト内で公開されていたはんつさんの過去記事が公開停止になったことが報じられる。

 もうさまざまな人が批判しているので繰り返したくないけれど、はんつ遠藤さんとその周囲の人のFacebookでの反応は醜悪の一言。はんつさんのその後のブログ、ツイッター更新の内容もひどい。

 「こういう大人になっちゃいけない」とか書くと、今度は「こういう大人になっちゃいけないって言われました〜(歓喜)」「最高の褒め言葉www」とか書くんだろうなあっていう徒労感がある。先生を困らせたい中学生かよ。

 Facebook投稿、ご本人としてもコメント欄の方々としても「こんなの大したことじゃないよね」アピールなのかもしれないし、ライター業の人の一部にあるキモい自意識で「こうやって茶化しちゃうクールさwww 他の業界ではできないっしょwww自営業の醍醐味www」ぐらい思ってるのかもしれないのですが、ハラスメントが告発された側の人が自分のコミュニティの中で愚痴るor何らかの報告に対して身内がかばい被害者を攻撃するのは、典型的なパターンです。

 それバレるからやめよう。

 以下に書くのは、私がここ数年で実際に見聞きしてきた例です。

 こういうときに身内でふざけあって醜態晒してしまうのは前例があり、今回みたいに大ごとにならずとも、多くの場合、被害者サイドはガッツリ確認しています。そして修復しがたい局面に突入します。

 Facebookであっても全体公開であれば、話題の人物の投稿には多くの人が見にきます。鍵をかけていたとしても、何百人とお友達がいれば、その中の誰かが「被害者」サイドに間違いなく伝えます。「加害者」の関係者が、具体名を出さず、なんとなくほのめかして告発を腐すぐらいならバレないと思いきやバレます。

 有料のオンラインサロンなら大丈夫だろうと思っていても、そこには文春の記者がいたりします

 ましてやツイッターのリプライで陰口叩いてたら当然スクショ撮られてます。

 「加害者」と親しい人たちだけの小規模なやりとりをSlackでやるぐらいならと思うでしょうか。そこで交わされている内容が「被害者」への中傷、攻撃であった場合、居心地が悪くなった内部通報者が密告を行います。

 「加害者」側の代理人がツイッター上でどんな投稿に「いいね」したかも、もちろん確認されています。代理人が「加害者」擁護&「被害者」批判の投稿にいいね連打。どうなんでしょうね。いいねに法的責任を問うのはなかなか難しいでしょうが、「被害者」側の不信を煽り、交渉を難航させるだけなのになぜわざわざやるのかなと思います。

 大事なお友達を悪く思いたくないとか、たとえ悪いことをしていても味方が必要だと思う気持ちはわかります。けれどそれを、全世界に見える場所でやる必要はないし、ある程度鍵をかけてもオンライン上であればそれは透明なガラス程度のセキュリティです。そしてそれを見てしまった人は、「もっと閉鎖的な場所ではもっとひどいことを言ってるんだろうな」と予想してしまいます。

 誰にとっても一つも得はありません。やめましょう。

 以下の有料部分では、フードライターはんつ遠藤さんがなんであんな世間と乖離したブログを書いてしまったのか、同じような業界にいる者として考えてみます。

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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