ゴール転倒 典型的な事故 学校特有の事情から考える
■2013年にも死亡事故
13日、福岡県大川市立の小学校で、4年男児がハンドボール用ゴールの下敷きになって死亡するという事故が起きた。学校施設・設備の事故としては典型的な事故であり、その防止策もすでに明らかになっている。だが、事故はくり返された。学校特有の事情から、事故の背景を探りたい。
事故は、体育の授業でサッカーをしているときに起きた。男児はゴールキーパーで、自分のチームが得点したことに喜び、ゴールネットにぶら下がり、倒れたゴールの下敷きになったという(デジタル毎日 1/13)
この種の事故は、2013年に死亡事故が2件起きているほか、いくつかの報道がある。
●2016年、神奈川県、小6女子、スタジアムのイベント、負傷
■事故パタンは2つ
サッカーやハンドボールのゴールが転倒し、その下敷きになり重傷となる。学校の施設・設備に関連する事故のなかでは、ゴール転倒による事故はよく知られていて、事故の発生パタンから防止策まで、すでに十分に検討し尽くされてきたとさえ言える。
ネット上には、「子どもの不注意」「運が悪かった」という声もあるが、ゴール転倒の事故は予見可能であり、防止できる事故である。
学校管理下に限定していうと、2001~2015年度までにゴールの転倒による死亡と障害の事故が計18件計17件(各事例の概要は本記事下部に掲載)起きている。
これらの事例からは、事故の発生パタンは大きく2つに分けられる。一つが、ゴールにぶら下がってその重みでゴールが転倒する場合で、これが事例の大半を占める。もう一つが、強風によりゴールが転倒する場合である。
■事故原因は1つ
そして、事故の直接的な原因は、ゴールの転倒防止策が不十分だったことに尽きる。
サッカーやハンドボールのゴールは、近年でこそアルミ製のゴールが普及しつつあるものの、学校現場ではまだまだ鉄製のものが多い。鉄製の場合、重量は100kgを超え、今回のハンドボールのゴールでも、約130kg(デジタル毎日 1/13)とのことだ。
ここで重要なのが、その重量がゴールの枠に偏っているという点である。「ポスト(前面の両脇のバー)とクロスバー(上のバー)が全重量の過半を占めているため、一度バランスを崩すと思わぬ速さで前方に倒れる不安定な構造」(日本スポーツ振興センター「気をつけよう!ゴールポストの事故」)にある。そのためゴールは、上部に人がぶら下がったり、強風にあおられたりすると、重さのわりに簡単に倒れてしまうのだ。
学校の現況を踏まえるならば、具体的な転倒防止策としては、ゴールと地面を何らかの方法で固定するという対策以外には、取りようがない。そして、その対策が不十分なのである。今回の事案でも、5箇所ある転倒防止の杭やひもが使用されていなかったという(産経WEST 1/14)。
■学校特有の事情 ゴールの頻繁な移動
文部科学省は、上記千葉県の死亡事故(2013年)を受けて、通知「サッカーゴール等のゴールポストの転倒による事故防止について」を発出し、また日本スポーツ振興センターも、2010年、2012年、2014年の各12月に、ゴールの転倒について図解資料を公開してきた。
事故の物理的な防止策は、すでに明らかになっている。しかもそれはけっして実行が難しいわけでもない。単にゴールを固定すればよいだけのはずだ。では、なぜその転倒防止策が、不十分になってしまうのか。
今回の事案の詳細はこれからの検証を待たねばならないものの、一般に学校においては、ゴールを一箇所に固定できない特別な事情がある。
先述した千葉県の死亡事故の報告資料には、次のような説明がある。
この高校では、死亡事故の半年前に同じゴールが転倒して生徒が指を負傷し、そのために一度は転倒防止策を講じるようになったという。それにもかかわらず、「ゴールの移動が頻繁」になったために、ついには転倒防止策を怠るようになったのである。
■日常業務のなかで誰が管理するのか?
学校のグラウンドは、体育の授業や、部活動、学校行事などさまざまな用途に使われる。そうすると、年中同じ場所にゴールを固定することができない。日常的に生じる移動のために、転倒防止策が軽視されてしまう。
学校は、転倒防止策を「知らない」のではなく、多忙な日常業務のなかで、いちいち「やっていられない」のだ。だが、そうは言ってもこれは命に関わることであるし、やるべきことも明確である。だからまずもって、学校側の管理体制が問い直されるべきである。
他方で、こういった学校施設・設備の安全管理を、はたして誰が担うべきかに議論を進めることも必要であろう。教員は、授業の専門家ではあるが、施設管理の専門家ではない。
もちろん、仮に体育の授業に限定すれば、授業で使用する施設・設備の安全管理くらいは、専門家としてできて当然という考え方もあるだろう。だが、ゴールが転倒するのは体育の時間帯に限られない。教員の多忙化が問題視される今日、これ以上教員の負担を増やすこともできない。
学校現場に、安全管理の徹底をお願いするとき、それに合わせて学校にどのような支援が必要なのかを考えなければならない。
子どもの命を守るために、やるべきことは、すでにわかっている。「子どもの不注意」のせいでもなく、かといって単純な学校批判でもないかたちでの、建設的な議論が求められる。