強まるエルニーニョ 世界に影響
かみ合わないエルニーニョ
ちょうど一年前、世の中は5年ぶりに発生するエルニーニョ現象の話題で持ちきりでした。いつもならば天気にさほど関心のない園芸雑誌の編集者から、エルニーニョと冷夏というテーマで記事をお願いしますといわれ、驚いた記憶があります。
しかし、昨年、エルニーニョ現象はうやむやのまま夏が過ぎました。世の中の興味がうすれた12月になって、エルニーニョ現象は発生していましたと発表があったものの、ほとんどニュースにはならず。これほど世の中の興味と気象現象がかみ合わなかった例も珍しい。
そもそも、エルニーニョ現象は、変化が緩慢な海洋と大気の現象なので、人の感覚とズレが大きくなりやすいのかもしれません。
典型的なエルニーニョ
それが今年3月頃から、再び強まり始め、現在では大気との関係もはっきりとした典型的なエルニーニョ現象まで発達しています。
では、昨年と今年はどのように違うのでしょう?一番は海洋と大気との関係です。
エルニーニョ現象はペルー沖の海面水温が平常時よりも高くなる現象ですが、それに伴って赤道付近の東風(貿易風)が弱まります。
昨年はペルー沖の海面水温は平常時を上回ったものの、東風(貿易風)が弱まらず、海洋と大気がうまくかみ合いませんでした。
下記の図は平常時とエルニーニョ現象時の海洋と大気の関係を図式したものです。
海洋と大気は密接に関連しています。いつもより暖かい海の場所が変わると、それに伴い雲の発生する場所も動き、これに伴い空気の大きな循環も動き、結果、高気圧や低気圧の位置がずれて、いつもと違う天候が現れるのです。
「風が吹けば桶屋が儲かる」のような関係ともいえるかもしれませんが、この関係を世界で初めて発見したのは英気象学者でインド気象局長官だったウォーカー卿(Sir Gilbert Walker 1868-1958)です。
きっかけは1877年、南アジアとアフリカを襲った悲惨な干ばつです。飢饉により2千万人以上が死亡したと伝えられています。ウォーカー卿はインドの干ばつを研究する過程で、1920年代にインド・オーストラリアと南米との間で、海面気圧がシーソーのように変化することを発見しました。大規模な海洋と大気の関係が理解できるようになったのは、そう古い話でもないのです。
影響広がるエルニーニョ
日本の気象庁、そして各国の気象機関はともに、この秋、冬にかけ、エルニーニョ現象が強まる可能性が高いと予測しています。
実際、東南アジアでは気温が高く、雨が少ないという影響が出始めています。また、米海洋大気庁によると、今シーズンの大西洋のハリケーンは不活発になる可能性が高いとしています。
日本は今のところ、はっきりとした影響はみられません。
しかし、梅雨後半は梅雨前線の北上が遅れ、平年よりも雨の日が多くなる、また、7月ー8月の盛夏時期も、くもりや雨の日が多くなる可能性が高いと思われます。
今後、天候が安定しないおそれがあるわけですが、必ずしも気温が低くなるとは言えません。温暖化の影響で、これまでよりも冷夏になりにくくなっているのです。
細菌学者ルイス・パスツールは「チャンスは準備された心に降り立つ(Chance favors the prepared minds)」といいました。本格化するエルニーニョ現象の影響をいち早くキャッチする目を持ちたいと思います。
【参考資料】
エルニーニョ監視速報(No.273),気象庁,2015年6月10日
EL NINO/SOUTHERN OSCILLATION (ENSO) DIAGNOSTIC DISCUSSION,NOAA,11 June 2015
What is ENSO?,IRI(International Research Institute of Climate and Society)
The three phases of the El Nino-Southern Oscillation (ENSO),Australian Goverment Bureau of Meteorology
Understanding Weather,Julian Mayes and Karel Hughes,Oxford University Press Inc.,2004