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中国当局、100万人を強制収容所に-新疆ウイグル自治区での「民族抹殺」、生還者らが告発

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
中国当局の強制収容所での体験を語るオムルさん。筆者撮影。

 中国政府から抑圧されている同国の少数民族ウイグル人。近年、彼らへの迫害はますます苛烈なものとなっている。国連人種差別撤廃委員会によれば、ウイグル人や他の少数民族の人々、約100万人が、強制収容所に拘束されているというのだ。その収容所から奇跡的に生還した男性が来日、日本のウイグル研究者とともに、深刻な人権状況について語った。

◯ウイグル自治区での人権侵害

 中国西部の新疆ウイグル自治区では、約2300万人の人口のおよそ半数ほどが、この地域に古くから住むウイグル人である。彼らはテュルク系*の民族でイスラム教徒であるなど、中国のマジョリティーである漢民族とは、その文化やルーツが大きく異なる。中国政府が漢民族を優遇し、新疆ウイグル自治区への入植を進めたため、ウイグル人達にはこれに反発、独立を求める声が高まった。だが、中国政府は抑圧を一層強化。昨年3月には、「脱過激化条例」が制定され、イスラム教やウイグルについての、宗教的・文化的な言動が取り締まりの対象とされ、テロとは無縁な著名な学者、スポーツ選手や人気歌手までもが収容所送りとされているのだという。

  • テュルク系民族:トルコ語及び同系の諸言語を母語とする民族。

◯強制収容所の生還者の告発

 先月、人権団体「アムネスティ・インターナショナル日本」の招きで来日した、オムルベク・アリさん(本名 オムル・ベカリさん)は強制収容所からの数少ない生還者の一人だ。オムルさんは、ウイグル人とカザフ人の両親の間に生まれ、カザフスタン国籍を持つ。去年3月に新疆ウイグル自治区中部トルファン市にいる両親を訪ねたところ、中国当局の武装警官に拘束され、強制収容所に連行されたのだという。オムルさんは収容所での生活を「地獄のようだった」と語る。

 「7ヶ月間、私は両手両足に鎖の枷をつけられていました。寝る時も食事の時も、1日24時間、ずっとその状態でした」(オムルさん)。

 オムルさん達被収容者達は、朝早くから夜遅くまで、共産党の政策についての「学習」や、中国政府を称える歌を歌うこと等を強いられた。狭い部屋に数十人が押し込まれ、食事は中身のない粗末で小さな中華饅一つ、薄い野菜スープのみ。少しでも反抗的な態度を見せれば、被収容者達は拷問されたという。

 「壁の前で24時間立ち続けさせられたり、真冬に氷の上に立たされて、冷たい水をかけられたり。天井から逆さに吊るされたり、鉄の椅子に縛り付けられて棒で殴られ続けたり…様々な拷問が行われていました」(同)。

 過酷な環境の中、被収容者の人々は衰弱していき、オムルさんは自身の眼の前で二人の被収容者が息絶えた、と語る。当時を振り返りながら、言葉につまり、涙を流すオムルさん。彼自身、8ヶ月間の拘束中、40キロも体重が落ちたという。

◯解放後も脅威は消えず

 カザフスタン国籍を持つオムルさんは、同国の外交官らの中国当局への働きかけにより、拘束から8ヶ月後にして、ようやく解放された。「しかし、他のウイグル人達は一度、収容所に拘束されたが最後、そのほとんどが解放されることはありません」とオムルさんは言う。

 解放後も、オムルさんの苦難は続く。「各メディアの取材に対し、私が収容所の実態について証言した後、新疆ウイグル自治区にいる家族が次々に拘束されました。私の父は、今年9月に収容所内で死亡し、遺体も引き渡されませんでした」(同)。オムルさん自身への脅迫も続き、トルコへ亡命せざるを得なかったのだという。

◯「職業訓練の施設」という中国側の苦しい弁明

人権団体が都内で主催した集会で語る、オムルさんや水谷さん。筆者撮影
人権団体が都内で主催した集会で語る、オムルさんや水谷さん。筆者撮影

 

 強制収容所の存在がメディアを通じて知られ、国際社会からの高まる批判に対し、中国当局は「少数民族に職業訓練や中国語の学習のための施設だ」と弁明している。だが、水谷尚子・明治大学兼任講師(中国現代史が専門)は「中国語を流暢に話し、高名な学者である等、職業訓練など必要のない人々も次々に拘束されています」と指摘する

 「新疆医科大学の元学長で民族医学病院の院長ハリムラット・グプル教授も、今年になってから行方不明になりました。ハリムラット教授は、数々の受賞歴があり、中国最優秀の研究者の一人に選ばれた人でしたが、収容所に連行され、そこで死亡したと観られています」(水谷さん)。

 文化人やスポーツ選手も拘束されている。「多数の文学作品を著しているウイグル文学者で、新疆師範大学教授でもあるアブドゥカディリ・ジャラリディン教授も今年1月に公安警察に拘束され、ウルムチ市内の収容所に収監されています。『ウイグルのジャスティン・ビーバー』と欧米メディアに紹介された人気歌手アブラジャン・アユップ氏や、(中国のマジョリティーである)漢人にも人気のサッカー選手のエリバン・ヘズムジャン氏も収容所に収監されています」(同)。

◯中国はナチスのような歴史的汚点を残す

 水谷さんは「研究者として、言葉使いは慎重にしたいのですが、今、ウイグルで起きていることは、エスノサイド*だと言えます」と語る。「社会的影響力や経済力を持ち、ウイグル人の手本とされてきた人々が次々に拘束されています。彼らは『過激なイスラム思想』とも反政府運動とも無縁であるにもかかわらず。人々が生きてく希望を根底から奪っているにも等しく、このような政策が続けば、ウイグル人社会は経済的にも文化的にも破綻します」(同)。

*エスノサイド:民族の文化的アイデンティティの破壊政策、文化的抹殺のこと。

 水谷さんは「ウイグル人拘束や強制収容所の実態を告発している漢人達も多い」と、中国に心ある漢人達がいることも強調する。「日本にいる漢人達も、ウイグル人への人権侵害をやめるべきだと声を上げてほしい。このままでは、中国はその歴史にナチスのような汚点を残すことになります」(同)。

 日本にとっても、今や中国は最大の貿易相手。その中国で起きている人権侵害について、日本の人々も無関心ではいけないのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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