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島根1区補選は、候補者ではなく岸田首相の“惨敗”、立民党も「勝利」と誤解してはならない

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:アフロ)

 4月28日投開票の衆議院補欠選挙は、自民党派閥政治資金パーティー裏金問題表面化以降、初めての国政選挙であり、そのうち唯一、自民党と野党の対決となった島根1区は、自民党岸田文雄首相の今後の解散戦略にも影響を及ぼし、政権の命運を握るものと言われた。

 私は、検察捜査実務経験も踏まえ、政治資金規正法の制度論を展開してきた立場から、【「ザル法の真ん中に空いた大穴」で処罰を免れた“裏金受領議員”は議員辞職!民間主導で政治資金改革を!】をはじめ、本欄でも多くの記事を投稿し、今回の「裏金問題」の本質と政治資金規正法の改革の方向性を論じてきた。

 今回の選挙結果が、そのような政治資金制度論にも大きな影響を与えることは必至だと思えた。

 選挙結果は、立憲民主党公認の亀井亜紀子氏が 8万2691票、自民党公認の錦織功政氏が5万7897票であり、錦織氏の惜敗率(57897÷82691)は70.0%だった。亀井氏が自民党公認の故細田博之氏と戦って敗れ、比例復活できなかった前回の2021年総選挙での惜敗率73.75%をも下回る、“壊滅的敗北”だといえる。

 「保守王国島根で、初めて立憲民主党候補が自民党候補を破った」という点に注目が集まっているが、私は、今回の結果は、次のようにとらえるべきと考えている。

(1)自民党公認の「候補者」が負けたのではなく、「岸田首相」の惨敗である
(2)岸田自民の「敗北」であり、立憲民主党の「勝利」ではない

この2つの点を踏まえて、今後の国会での政治資金規正法改革をめぐる論争の行方を考える必要がある。

島根1区をめぐる情勢と私自身の関与

 私は、島根県の松江市生まれ、県立松江南高校卒業であり、島根1区は私の郷里の選挙区であることもあり、3月22日には、YouTube《郷原信郎の「日本の権力を斬る!」》で亀井氏をゲストに招いて対談を行いアップする(【岸田政権の命運がかかる「島根の戦い」、挑む亀井亜紀子氏と「政治と金」を語る】)など、この選挙での岸田政権と野党との「島根の戦い」には当初から注目してきた。

 補欠選挙の告示後、各社の情勢調査で「亀井氏先行、錦織氏追う」と報じられていたが、過去に自民党が小選挙区で負けたことがない圧倒的な保守地盤だけに、過去の当選実績もある亀井氏と比較して知名度がない自民党新人の錦織氏が出遅れているだけで、終盤での逆転の可能性も十分にあると考えていた。

 選挙戦後半に入り、島根県の知人、友人等から情報収集すると、

「裏金問題での自民党批判は強く、自民党には投票したくないが、野党にはアレルギーがあり、投票に行かないと言っている人も多い」

という話だった。最終盤で自民党が組織を固めてきた場合には、自民錦織候補の逆転もあり得るとの危機感から、島根1区の安来市と松江市で亀井氏応援の街頭演説に赴くことにした。

安来市での街頭演説後、岸田首相、選挙戦最終日再度の島根入り知らせ

 4月26日金曜日の夕方、私の母の実家がある安来市での街頭演説に臨んだ。

【島根1区での岸田自民との戦い、4月26日安来市で応援演説!】

 その夜、選挙戦最終日の翌27日に、岸田首相が2回目の応援に入るとの情報が入った。現職総理が、特定の小選挙区への2回目の応援、しかも投票日前日、というのは異例であり、相応の「勝算」があるからだろうと思えた。期日前の投票率は前回をかなり下回っているとされており、低投票率になると、自民党の組織固めの選挙戦術が功を奏してくる可能性は十分にある。

 私は、SNS(X:旧ツイッター)で、

《現状は「自民劣勢」ではない。期日前投票率等から、低投票率で「勝てる」と考え、投票日直前の応援に入るのだろう。私は、今日、その松江市で、島根人を舐めている岸田首相を迎え撃つ》
《「島根の戦い」本番は、明日の選挙戦最終日午前11時半~、松江・みしまや上乃木店前です。上乃木は、私が幼少期、中高生時代を過ごした地です。明日は、岸田首相も2回目の自民候補応援に松江市に入るとのこと、私がこれまで続けてきた「岸田氏猛批判」の街頭演説で迎え撃ちます。》

と投稿し、翌27日の松江市での街頭演説に臨んだ。

 街頭演説を直接聞いてもらえる数はせいぜい100名程度だが、その街頭演説をただちにYouTubeにアップし、松江市、安来市の市民に向けて拡散を図れば、相当な数の有権者に視聴してもらうことも可能だと思った。

「本番」と位置付けた松江市での街頭演説

 翌日の街頭演説では、「みしまや上乃木店」前で亀井氏本人と辻元清美立憲民主党代表代行と合流し、私が最初に演説を行った。私の持ち時間は10分だった。

最初に、

明日の島根1区の補欠選挙は、岸田首相が国民に判断を仰ぐとしている「唯一の選挙」であり全国民が注目する審判。その投票券はドジャース大谷翔平の開幕戦同様のプレミアムチケット。ゆめゆめ無駄にしてはいけません。必ず投票を!

と話した後、審判を受ける岸田首相について、

安倍元首相の国葬の強行、旧統一教会と自民党との関係について十分な調査も行なわなかった。長男翔太郎氏を秘書官にするなど権力を私物化し、「首相公邸忘年会問題」でも国民に謝罪もしていない。「裏金問題」、自民党による実態解明をほとんど行わず、裏金議員は税金すら払わないのに、岸田首相は、「検察の厳正な捜査を踏まえて議員個人が納税を考えるべき」と言うだけ、自分への処分も行わない、などとこのようなデタラメな対応を続けた末に、全く意味のない政治資金規正法の改正案を出した直後に行われるのが島根1区補選、これまでの岸田首相の所業全体に対して国民を代表して判断を下す場がこの島根1区の補欠選挙。

と、その「所業」を徹底批判した後、候補者本人について、

亀井亜紀子氏は、決して単なる「世襲政治家」ではない。世襲政治家というのは、親から地盤と政治資金等の政治基盤をぬくぬくと受け継いできた安倍氏や岸田氏のような政治家のことを言う。亀井亜紀子さんは、郵政民営化など新自由主義と戦ってきた亀井久興氏から使命を受け継ぎ、地方を大切にする真の保守政治家、自民党と島根で戦ってきた人。
そういう亀井亜紀子さんに、岸田自民党を倒してもらいたい。島根1区の皆さんに、自民党に強烈なノーを突き付けてもらいたい。小泉進次郎氏が来て、動画で「逆転の錦織」などと言っている。しかも、岸田首相は、選挙運動最終日にも島根入りし、間違いなく「勝ちに来ている」、もし万が一、ここで岸田自民を勝たせるようなことになれば、島根県の歴史に残る恥になる。島根県に生まれた者としてそのようなことには絶対になってほしくない。今回の投票を、「亀井亜紀子」で埋め尽くし、岸田自民に圧倒的な「NO!」を。

と述べた。

 すると、ちょうど「岸田首相批判」の最中に、最前列にいた高齢の男性の、

「亀井にしゃべらせろ!」

と叫ぶ声が聞こえた。その声の主を見ると、こちらを敵意のこもった表情でにらみつけていた。

 私の隣に立っていた亀井氏は、とっさに、「後で話します」と言ったが、明らかに動揺していた。私は、構わず演説を続けたが、「亀井にしゃべらせろ」という声に亀井氏が動揺している様子を見て、その後の話を当初の予定より短くして終えた。

 次に応援演説を行った辻元氏は、自分が優勢と報じられた選挙で落選した経験を踏まえ、

「最後の最後まで、知り合いに声をかける等の応援をお願いしたい」

という「選挙応援のお願い」が中心で、本来の持ち味の「政権批判」は殆ど聞かれなかった。

 そして、最後にマイクを握った亀井亜紀子氏、前日の安来では、裏金問題への批判も含め切れ味があり、裏金問題への不満を募らせている聴衆の反応も良好だったが、この時は「批判的なトーン」は殆どなく、全体的に地味な内容だった。

 「亀井にしゃべらせろ!」の影響は相当大きかったように思えた。

2021年衆院選の際の「かめいあきこ」事件

 その日の街頭演説は、亀井氏側が、時間と場所、そこで私と辻元代表代行が演説することを事前に公表している。当然亀井氏本人も演説するので、「亀井にしゃべらせろ」と言われる筋合いはない。しかも、その声の主は、どう見ても、亀井氏の話を聞きに来ているようには思えない、反亀井の立場の人間だと思えた。しかし、それでも、聴衆のど真ん中で、そのようなことを大声で言われると演説する側への心理的影響は大きい。

 反対陣営の嫌がらせと思える事態に、私は、前回の2021年衆院選で亀井氏が受けた「かめいあきこ」立候補による妨害のことを思い出した。

 この選挙には、「亀井彰子」(かめいあきこ)氏が突然立候補し、氏名の読みが同じになる候補の出現に、亀井亜紀子陣営は、投票日直前になって選挙ポスターを全部変更することを余儀なくされるなど、大きな不利益を被った。

 この「亀井彰子氏」は、選挙運動を全く行わなかったばかりか、公職選挙法上提出が義務付けられている選挙運動費用収支報告書も提出しなかったため、公選法違反で告発され、供託金300万円を誰が拠出したのかも未だに不明である。

 2021年の選挙では、2017年の衆院選で亀井亜紀子氏に比例復活された細田氏が、衆議院議長に向けて選挙結果を自民党内でアピールするため、対立候補の亀井亜紀子氏が比例復活できないような「完全勝利」をめざしていると言われていた。

 実際に、細田氏は圧勝し、亀井亜紀子氏を比例復活できない落選に追い込み、その後、衆議院議長に就任した。「亀井彰子」氏を立候補させるという明らかな選挙妨害行為が、自民党・細田陣営側から、或いは細田氏を支持する宗教団体等によるものなのかはわからない。しかし、細田氏の対立候補だった亀井亜紀子氏が、そのような卑劣なやり方で妨害を受けた過去があることは事実である。

 今回、自民党候補の陣営は、どのような手段で亀井氏の当選を阻もうとしているか、想像がつかなかった。

岸田首相、投票日前日再度の応援演説を迎え撃つ

 みしまや上乃木店前で11時半からの街頭演説の模様は、その後すぐに編集し、午後3時にアップした。

【島根1区、松江市での戦い 岸田自民を”討つ”!!】

 そして、以下のようにSNS投稿で拡散した。

《故郷島根の人達への私の心からの訴えです。今日の夜12時まで、SNSでの拡散が可能です。島根1区の方々の間で、そして、他地域でも島根1区にお知り合いがいる方、是非、拡散をお願いします。この「島根の戦い」に岸田政権の命運がかかっています。》

 この街頭演説では「亀井にしゃべらせろ」の大声もあって、割愛した部分があった。それを、投稿に、以下のように付け加えた。

 時間の関係で少し割愛しました。一回目の島根1区の応援演説で、岸田首相は「私は出身がお隣の広島県でして、小さい頃よく連れてきてもらった思い出の場所です」と言いました。岸田首相は、東京生まれ、東京育ち、広島には居住していません。通常は、「広島を選挙区とする」と言い、「広島出身」とは決して言わないのに、島根では、こういうことを平然と言ってのける。それこそ、「岸田首相が、島根を舐めている」端的な証拠です。今回も、「島根人なら自分に勝たせてくれる」と甘いことを考えている。そういう岸田首相が、今日、2回目の島根入り。厚かましく「勝ちに来ている」、島根人として絶対に「ノー」を突き付けてほしい!

 岸田氏が「広島出身」というのは、明らかにウソだった。そのウソ話から始まって、「島根を思い出の場所」「偉大な政治家を輩出した地」というような形で組み立てた岸田首相の演説は、あまりに島根人を舐めている、ということを、私の街頭演説の真ん中当たりで強調し、岸田首相に対する不満・反発を一層高めようと考えていた。それを、SNS投稿で追加する程度にせざるを得なかったのは残念だった。

岸田首相、錦織候補の「最終演説会」で最後の演説

 その日、錦織陣営がSNSで公表していた街頭演説スケジュールによれば、錦織候補は、午後に、岸田首相とともに2か所で街頭演説を行った後、午後6時半から、松江市の中心部の宍道湖温泉駅のロータリーで最後の演説での訴えに臨むことになっていた。

 私が宿泊していたホテルがすぐ近くだったので、「最後の街頭演説」の様子を見に行った。

 岸田首相来訪ということで、スーツ姿の男性らが数十人かそれ以上いて、会場に集まった市民を誘導したり、歩道での立ち見を制限したり、演説中も鋭い目つきで市民の方を見渡すなど、演説会場の管理を徹底していた。大きな警察犬2頭が会場を歩き回るなど、ものものしい警戒態勢が敷かれていて、聴衆は少なくとも数百人に上っていた。

 自民党島根県連会長をはじめ、支援する政治家が次々と挨拶を行っている最中に、岸田首相が黒塗りの車で到着し、大型街宣車の車上に上った。しかし、すぐには講演せず、錦織候補の横に立って手を振っていた。

 錦織候補本人の「最後の訴え」は、日に焼けた顔で、声をからし、「郷土のために働きたい」と必死に訴え、立候補表明から日がないなかで、多くの人に支えられて戦い続けてこれたことへの心からの感謝を述べるもので、好印象だった。地元松江北高出身者の錦織氏だけに、島根人の心をとらえる演説だった。

 その後に、岸田首相の演説が始まった。普通、選挙戦の最後の演説は候補者本人がやるものだと思うが、現職首相、自民党総裁の応援だからか、「大トリ」は岸田首相、どんな演説をするのか注目したが、全くダメだった。

 その直前に私がSNSで投稿していたように、「私は隣の広島の出身」から始まり、「島根は偉大な政治家を輩出してきた地」につなぐというワンパターンだった。内容がなく、集まった聴衆の心に響くものではなかった。岸田首相の2回目の選挙応援での島根入りは、全く逆効果で、錦織氏の票を減らすものでしかなかったように思えた。

 翌日の投票日、私は、島根の知人、友人、親戚などの話を聞いたが、さすがの岩盤保守も、今回ばかりは、「裏金問題」による自民党への反発はすさまじく、特に、岸田首相に対するイメージが最悪だと感じた。親戚の一人は、「岸田さんが出てくるとテレビを消す」とまで言っていた。

 補選での亀井氏の圧勝を確信したところで午後8時開票速報が始まり、同時に亀井氏に当選確実が出た。

島根1区補選での「惨敗」をどう見るべきか

 今回の選挙の最終盤、現地にいて強く感じたのは、この選挙で「惨敗」したのは、「錦織候補」でも、「島根の自民党」でもなく、自民党総裁の「岸田首相」だということだ。

 ところが、岸田首相には、選挙後の言動を見る限り、その「自覚」は全くないように思える。

 現職首相が、公務の合間に特定の選挙区に2回も応援に入る、しかも、最終日の最後の訴えに加わる、通常は、選挙結果に相当な自信がなければ行い得ないことだ。しかし、岸田首相は、それを敢えて行い、結果は惨敗だった。そこに、岸田首相の状況判断能力、戦略的センスの欠如が露骨に表れている。

 国内経済情勢、国際情勢も厳しさを増す中、こういう人物が国のトップの首相を務めているという「恐ろしい現実」を、国民全体が共有する必要がある。一日も早く、岸田首相には退陣してもらいたい。

 一方の立憲民主党も、今回の島根1区補選の結果を、「立民勝利」と勘違いしてはならない。

 島根1区の有権者は、立民の政策を支持したわけでも、その政権獲得に期待したわけでもない。岸田自民に怒り、その自民党と戦ってきた「保守政治家」の亀井亜紀子氏の「自民党との戦い」に期待しただけだ。この点を立民幹部が勘違いすると、次の選挙で「惨敗」するのは立民党ということになりかねない。

 それは、今回の補選全体に言えることだ。「立民3勝」というのは、所詮「裏金問題への国民の怒り」という「風頼み」だった。

 2021年夏、横浜市長選挙から秋の衆議院総選挙までの流れを想起すべきであろう。

 当時、菅義偉首相は、東京五輪優先で、感染拡大のための抜本的な対策を何一つ講ずることができず、神奈川県の一日の新型コロナ新規感染者数が3000人に迫るという感染爆発を引き起こし、提供されるべき医療も提供されない膨大な数の「自宅放置」を生じさせていた。国民の命を危険に晒している菅政権への批判が、横浜市長選挙で、菅首相が全面支援する小此木八郎候補に「強烈な逆風」となり、小此木陣営は、開票を待つまでもなく、選挙での勝利をほとんど諦めざるを得ない状況に追い込まれた。

 一方で、立憲民主党が、江田憲司代表代行中心に強引に擁立した山中竹春氏は、横浜市立大学医学部教授であったこと、新型コロナの中和抗体の研究成果の発表を行ったことから、「コロナの専門家」であるとして前面に打ち出す選挙戦略で臨み(山中氏は医師ではなく、臨床研究等の統計処理の専門家であって、コロナ医療あるいは感染症の専門家でもない。)、新型コロナ感染急拡大による自民党・菅政権への「逆風」が、そのまま山中氏への「追い風」につながった。「横浜IR反対」で共産党とも共闘した選挙結果は、8時に「山中氏当確」が出る圧勝だった。

 地元横浜での市長選挙惨敗は、菅氏にとって強烈な打撃となり、結局、菅首相は、その直後の9月の総裁選への出馬を断念、岸田氏が総裁に選出された。

 そして、10月に行われた衆議院総選挙の時点では、山中市長が実は医師ではなかったとわかり、他の経歴詐称等も問題化していた。立憲民主党は、横浜市の小選挙区で一転して逆風に見舞われた。総選挙の結果全体でも大きく議席を減らした結果、枝野幸男代表、福山哲郎幹事長が辞任に追い込まれた。

 「風頼み」の選挙で勝ったことを、有権者に支持されて勝ったと勘違いしたことによる咎めは大きなものだった。

 今後の国会の最大の焦点は、政治資金規正法改正である。

 「派閥政治資金パーティーをめぐる問題の再発防止策」を強調する自民党案が全く評価できないことは言うまでもない。そもそも、今回の「裏金問題」、検察は裏金の実態を何一つ解明せず、すべて「政治資金収支報告書不記載事件」で片づけてしまい、自民党の調査でも裏金の実態は何一つ明らかになっていない。事件の中身も不明のまま「再発防止策」など論じても意味がない。

 自民党案では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけたうえで、会計責任者が虚偽の記載などで処罰された場合、内容を確かめずに作成していれば公民権を停止する、という措置を「連座制」と称しているが、そもそも、政治資金規正法違反の問題が生じる場合も、収支報告書の外形は整っているのであり、それを会計責任者から説明させて「確認」しただけでは何もわからない。「内容を確かめずに作成」の場合に公民権停止と言っても、どの程度に確かめたらよいのかが不明確であれば実効性はない。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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