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本物の「金正恩の娘」の登場で一度ならず、二度も北朝鮮から情報能力を嘲笑われた韓国

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金総書記の娘(右)と「娘」と騒がれた少女(朝鮮中央TVから筆者キャプチャー)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が新型大陸間弾道ミサイル「火星17」の発射実験にまだ9歳の娘を立ち会わせた理由を巡って様々な憶測が飛び交っているが、「核・ミサイルは子供らの未来のために絶対に手放さない」との意思表示以外にも同時に韓国の情報能力を嘲笑するという一石二鳥を狙った可能性も捨てきれない。

 朝鮮中央テレビが11月19日正午、建国74周年慶祝行事の舞台が背景に入った音楽編集物「党よ、貴方のおかげで」と題した映像を放映し、午後にはこれを再編集した映像を放送していたことがわかった。

 この音楽編集物が建国記念日行事の一環として9月に放映された際、出演者の少女の一人を英国の新聞「デイリーメール」(9月23日付)が中国の専門家の話として「金総書記の娘」と報じたことを発端に韓国でもこの少女が別の出演者とは違って▲髪を束ねておらず短い髪型であった▲唯一白い靴下を履いていた▲舞台の中央に立ち目立っていた▲映像でクローズアップされていた▲李雪主(リ・ソルジュ)夫人が彼女を見つめ、寄り添っていた▲年恰好も第二子の「キム・ジュエ」に近いなどもっともらしい理由を盾に「金正恩の娘ではないか」と大騒ぎしていた。北朝鮮専門部署の統一部が全面否定せず、「確認できない」とコメントしたこともあって北朝鮮専門家の間では真偽論争も起きていた。

 ところが、今月19日正午に放映された映像には「金総書記の娘」と騒がれた少年団員の赤いネクタイをしたこの少女はまだ映っていたが、午後5時に再放送された映像からは消されていた。折しもその2時間前に朝鮮中央テレビが18日に行われた新型大陸間弾道ミサイル「火星17」の発射場に「金総書記が愛する娘と夫人と共に出向いた」と報道し、「証拠写真」というわけではないが、白いダウンジャケットを着た娘とのツーショット写真を何枚も公開していた。これにより「赤いネクタイの女の子」は金総書記の子供でないことが判明した。

 今回の件で「デイリーメール」は誤報を流したことを詫びたとも伝えられているが、韓国のメディアはまたもやガセネタに翻弄され、未確認情報をそのまま垂れ流してしまった。仮に、北朝鮮が今回、実の娘を披露しなければ韓国はおそらく北朝鮮が公開するまで「赤いネクタイの女の子」を「ジュエ」と思い込み続けたのではないだろうか。北朝鮮が子弟の情報を公開したことで結果として韓国の北朝鮮情報収集能力が嘲笑われたと言えなくもない。

 思えば、今年8月にも同じようなことがあった。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が8月15日の「光復節」演説で打ち出した北朝鮮向けの「大胆な提案」を金総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)党副部長が3日後(18日)に発表した談話で「愚かさの極地」と愚弄したが、談話の最後で前日(17日)に発射した巡航ミサイル2発の発射場所について韓国軍当局が「午前未明に平安南道の温泉から発射された」と発表したことをおちょくっていたのである。

 談話で与正副部長は「最後に一言付け足しておく。本当に申し訳ないと思うが、一日前に行われた我々の兵器試射地点は南朝鮮(韓国)当局が慌てふためき軽々しく発表した(平安南道)温泉一帯からではなく、平安南道安州市の『クムソン橋』であったことを明らかにする。事あるごとに米韓間の緊密な共助下での追跡監視と確固たる備えを口癖のように言ってきたのにどうして発射時間と地点ひとつまともに明らかにすることができないのか?兵器システムの諸元をどうして公開できないのか実に気になる。諸元と飛行軌道が判明すれば、南側はとても当惑し、怖気づくことになるが、そのことを自らの国民にどう弁明するのか、実に楽しみな見物になるであろう」と韓国軍の情報能力を揶揄していたのである。

 韓国軍当局は与正副部長の談話は虚偽情報で、韓国を揺さぶるための心理作戦の一環であるとして発射場については今も温泉に固執しているが、北朝鮮はそれまで4月16日の新型戦術誘導兵器2発を最後にミサイル発射の事実を一切公表していなかった。

 北朝鮮が沈黙を破って発射の事実を4か月ぶりに公にしただけに与正副部長の発言もあながち嘘とも思えない。事実、北朝鮮はその後も9月から10月9日まで行われた計6回のミサイル発射事実の公表を伏せ、10月10日になって初めて「金総書記の立ち会いの下」発射していた事実を公表していた。

(参考資料:ICBM発射に同行した少女は第2子の「キム・ジュエ」? 韓国情報機関の「分析」を検証する!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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