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伊藤みどりが国際大会で優勝「50代になった人生と喜びを表現」

野口美恵スポーツライター
ドイツで開催された国際アダルト競技会で、53歳の伊藤みどりが優勝した

 アルベールビル五輪銀メダリストの伊藤みどり(53)の笑顔が氷上に戻ってきた。伊藤は5月20日、ドイツ・オーベルストドルフで開催された国際スケート連盟主催・国際アダルト競技会に出場し、マスターエリートのアーティスティック部門で優勝した。

「50代になった自分の人生そのものを表現したプログラム。滑る楽しさ、風を切る心地よさ、そしてアダルトスケーターとして仲間に囲まれながら演技する幸せを感じました」

公式練習では大きなシングルアクセルを決めた

 伊藤が出場したのは、表現力やスケーティング技術を評価する演技構成点だけを競う「アーティスティック」のカテゴリー。ジャンプは1回転だけが許可されている。アクセルジャンプは1回転半のため演技に入れることはできないが、自身の代名詞として練習を積み重ねていった。

 現地入してからは、旧知のアダルトスケーター達と交流。伊藤が出場したマスターエリートクラスは、過去に選手として実績のあるスケーターで、50代、60代となっても滑りの美しい人ばかり。年齢と共に変化していく体と相談しながら氷上に乗り続ける仲間との再会は、伊藤の刺激になった。

本番朝の公式練習でもアクセルを披露した
本番朝の公式練習でもアクセルを披露した

 本番では、直前の4分間練習でいきなり2度のアクセルジャンプを披露。本番のプログラムに入れる技を練習するのが通例だが、度肝を抜くアクセルに、大きな拍手が起きた。

「私にとってアクセルは調子のバロメーター。4分間練習を始めたときは体が全然動かなくてどうしよう!と思いましたが、あえてアクセルを跳ぶことでアドレナリンを出して、体を温めていきました。その作戦が良かったと思います」

 本番では、ピアニストの福間洸太朗さんによる演奏の『シャンソンメドレー』の音色が鳴り響くと、しっとりと滑り出す。デイビッド・ウィルソンが振り付けた、流れとスピード感のあるプログラムを全身で滑り抜いた。途中、『マイウェイ』のメロディで力強いランジを決めると、歓声が伊藤の耳に届いた。

「演技中にすごい歓声が聞こえて、ああ私の『マイウェイ』をみんなが感じとってくれたのかなと思って、自分も盛り上がりました」

 最後はスピード感溢れるイーグルと、フライングキャメル。ダイナミックに締めくくった。得点は、コンポジション7.33点、プレゼンテーション7.33点、スケート技術7.42点で、合計22.08点。滑りのスピード感とエッジワーク、そして全身で曲を表現する滑りに高い評価を得ての優勝だった。

「50代になってからは今までとは全く違う体調になり、出場を決めてからも何度も悩みました。48歳までは軽々とダブルアクセルを跳んでいたけれど、今は質の良いシングルアクセルを跳ぶ、というのが精一杯。でも自分なりにやれることはやったので、今回は満足です」

 満面の笑みで、スケートへの愛を胸に刻んだ。

大会が行われたオーベルストドルフのスケート場
大会が行われたオーベルストドルフのスケート場

スポーツライター

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

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