金属バット父親殺害事件の犯罪心理学:すれちがう父と息子
■父親を金属バットで殺害した容疑で22歳無職男逮捕 自ら通報
■親殺しの心理学
一般に、青少年の親殺しは先進国の中流以上の家庭で起きる。第三世界の貧しい状況では、親子が協力しなければ生活できず、親殺しは起きにくい。
親殺しを考える場合の一つが、「暴君殺し」だ。激しい虐待など、あまりにもひどい親の殺害を考えることがある。しかし、先進国中流家庭でもっと一般的なのは、決してそれほどひどくはない親への殺意である。
客観的にはひどい親ではないのだが、子どもとしては親が自分を押しつぶす巨大な岩のように感じることがある。通常、親への反感は、口答えとか、非行に走るとか、家出するといった形であらわれる。
しかし、その程度の反発ではこの巨大な岩を退けられないと感じるとき、殺意がわく。
■逃げない親殺し加害者
普通の殺人者は、何とか自分の犯行を隠そうとする。しかし親殺しの加害者は、しばしば逃げようとはしない。何か大きなことを成し遂げた感覚を持つ子どももおり、殺害現場で悠々と飲食をしていたケースもある。
そもそも青少年が親を殺しても、良いことはないだろう。悪い子どもなら、親にせびり、親のスネをかじって生きていこうとするだろう。それが、ある意味真面目であり、心理的に追い詰められた末の犯罪であるために、犯行後は逃げようとはしないこともあるのだろう。
■父親と息子と不登校・無職・ニート・引きこもり
一般に、父親は息子に頑張って欲しいと願っている。勉強でもスポーツでも、息子の頑張っている姿を見るのは、父親としてはとても嬉しいだろう。だから、頑張っていないように見える息子を見ると、父親は時折キレてしまう。
グズグズいっている子どもに向かって、「そんなことを言うなら、学校なんてやめちまえ!」といったセリフを吐くのは、多くの家庭で見られることだろう。
ましてや、子どもが不登校、ニート、引きこもり、無職などの状況になれば、父親はイラつく。イラつきが態度に出る。子どもと顔をあわせるたびに、説教や子どもへの侮辱を行ってしまう父親もいる。それは、実は子どもへの愛から出た行動なのだが、子どもはそんな父親にイラつく。
こうして父子の関係が悪化していくことはよくあることだろう。
父として子どもを厳しく教育することは、大切だ。しかし、必要以上に子どもをイラつかせても、良いことは起きないだろう。
■金属バットと青少年支援
一般に、金属バットを最初から凶器として購入する子どもなどは、まずいない。野球のために買ったはずだ。誰かと一緒に野球をしようと思えるほどの、健康的な心身を持っていたはずなのに、どこかで道が歪んでいくことはとても残念だ。
犯罪が起きてしまえば、逮捕、裁判、刑罰ということになるのだが、大切なのは予防だろう。犯罪にまでは至らなくても、苦しんでいる家庭は多い。父と子の愛が空回りしている不器用な親子も多い。
子どもの不登校で悩んでいる家庭は多いが、義務教育が終わった後の問題は、さらに深刻度が増す(「大人のひきこもり」平均22年、支援途絶える:読売新聞1/23)。
不登校、ニート、引きこもり、無職青年らをどう支援していくかは、私たちの社会の大きな課題だ。