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自殺防止の大原則:自殺の予期ができなくても:岩手中2自殺、担任「文章と行動に差…予期できなかった」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

自殺の予期ができてもできなくても、自殺のサインに対する大原則があります。

■岩手中2自殺問題

生徒は、自殺の「サイン」をはっきり出していました。しかし、そのサインを受け止めてもらうことは、できませんでした。私は、この担任教師が、愛がないとかやる気がないとは思いません。しかし、もう少し自殺予防に関する知識があれば、結果は違っていたかもしれません。自殺予防に関する知識が、自殺を防止する力になります。

クラス担任の女性教諭が学校側の調査に対し、村松さんが生活記録ノートに書いた自殺をほのめかす文章と、教室での村松さんの言葉や表情にギャップを感じ、本当に自殺するとまでは予期できなかったとの趣旨の説明をしていることが分かった。こうした認識が、同僚教諭らとの情報共有をはばむ一因になった可能性〜担任は給食の後、村松さんを呼んで状態を尋ねたところ、「大丈夫です」「心配しないでください」という趣旨の言葉が返ってきた。

出典:<岩手中2自殺>担任「文章と行動に差…予期できなかった」 毎日新聞 7月25日

生徒は「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどね」と書きましたが、担任は「明日からの研修 たのしみましょうね」と翌日からの学校行事(合宿)に関して書いて返答するだけでした。

その後のやりとりでは、

「ここだけの話。〜氏(死)んでいいですか(たぶんさいきんおきるかな)」との生徒の言葉に対して、担任は「どうしたの? テストのことが心配? クラス? ××(この生徒の名前)の笑顔は私の元気の源です」と答えています。

「どうしたの?」とは、返してしるのですが、実質的には生徒の話が聞けませんでした。

「大丈夫?」ときいて、「大丈夫」と答える人は、大抵の場合、大丈夫ではありません。

■子どもの自殺の予期

子どもの自殺の予期は、簡単ではありません。はっきりした自殺予期など、できないと言えるかもしれません。青年、大人の自殺でも予期は難しいのですが、子どもの自殺は小さな理由で衝動的に行ってしまうので、なおさら難しいでしょう。しかし、自殺防止ができないわけではありません。

■自殺のサイン

自殺のサインは、様々です。「消えたい」「やめたい」「遠くに行きたい」「生きる意味ってなんだろう」。これらは、自殺のサインと言える言葉です。「死にたい」「死に場所は決まっている」「楽に死ねる方法を教えてください」。これらは、はっきりとした自殺のサインです。

リストカットなどの自傷行為、安全をわきまえない乱暴な行動、成績の急激な低下、元気のない様子。これらが自殺のサインになるときもあります。

しかし、ときには今までふさぎこんでいた人が、急に元気になるのも、自殺のサインの場合があります。

何か大切なものを失ったときも、自殺の危険性が高くなります。

■自殺の「サイン」を見つけたとき:死ぬ死ぬという人は死なないのか

「死にたい」とノートに書きながら、教室では元気であることは、普通のことです。自殺は、青い顔をしてふさぎこんでいる人だけが実行するわけではありません。

「『死ぬ死ぬ』という人に限って死なない」という言葉があります。たしかに、「死ぬ死ぬ」という人のほとんどは死にません。「死ぬ死ぬ」と語り続けている間は、死なないでしょう。語り続けることは大切です。ただし自殺予防の観点に立てば、「死ぬ」と語る人は、十分に死ぬ可能性があると考えることが大切です。

実際に自殺してしまう確率は高くはないと思いますが、自殺を実行する可能性を考えて、周囲が見守ることが必要です。相手が「死にたい」などの自殺のサインを出したときには、はぐらかさず、また正論を押し付けるのでもなく、「どうしたの?」「何があったの?」と言葉をかけ、相手の話を十分に聞くことが大原則です。

■自殺の予期はできないが

今の子どもたちは、簡単に死を口にすると思います。「死ね」「死にたい」。そんな言葉は、日常茶飯事です。その言葉からすぐに自殺を予期できないとしても、無理はありません。けれど、その言葉、ある自殺のサインから、直接的に自殺を予期する必要はありません。自殺をするのか、しないのか、その正確な予期をする必要などはないのです。

ただ、「どうしたの?」と話を聞けば良いと思います。それが、結果的に自殺予防につながります。自殺の予期ができてもできなくても、ともかく「死にたい」といった言葉や文章に対しては、きちんと向き合って、「何かあったの?」と聞いて会話しましょう。

■自殺のサインへのもう一つの大原則

自殺のサインへの一番目の大原則は、大騒ぎせず、無視もせず、「どうしたの?」と話を聞くことです。

もう一つの大原則が、自殺の予期ができてもできなくても、ノートに「死にたい」などの言葉を見つけたときには、必ず上司に報告することです。学年主任、教頭、校長に報告です。スクールカウンセラーや養護教諭にも、ぜひ報告して欲しいと思います。

多くの人の目で、その生徒を見守りたいと思います。私はスクールカウンセラーとして、その生徒と個別面談もします。自殺への思いがどの程度切迫しているのかを確認することもあります。

自殺の予期ができてもできなくても、この2つの大原則をしっかり学びたいと思います。全ての親、全ての教師、全ての学校で、この大原則を守ることが、自殺予防にとってとても大切なことでしょう。

自殺を予期できなかったことは、責められないと思います。ただ、自殺のサインが出たときの大原則を守れなこったことは、残念でなりません。

報道によれば、担任対応の「判断ミス」を学校側は認めています(7月24日)。しかし、どの程度この担任の判断ミスなのか、あるいは学校全体に情報共有がしにくい雰囲気があったのではないかなど、まだよくわかりません。

■関連ページ

いじめによる自殺を防ぐ具体的方法(岩手中2自殺報道から)

自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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