薬物問題のジャッジメントは先送り。ネリが11月4日ノンタイトル戦
相手はフィリピン人ランカー
日本で山中慎介(帝拳)から王座を奪った後、ドーピング検査で違反薬物ジルパテロールが発見され、渦中のさなかにあるWBC世界バンタム級王者ルイス・ネリ(メキシコ)がリングに立つ。11月4日、地元ティファナの野球場、エスタディオ・ガスマート。ネリのメキシコのプロモーター、サンフェル・プロモーションズ(以下サンフェルと記す)が17日、メディアに伝えた。相手はフィリピンのランカー、アーサー・ビジャヌエバが務める。
薬物問題の決断を下すWBCのマウリシオ・スライマン会長はちょうどこの時期、処分の公式アナウンスを行うと発言していた。だが同会長の発表はまだなく、ノンタイトル戦といえども試合までわずか半月の時点で、ネリ陣営は試合を強行することになった。発表会見にはネリとサンフェルのフェルナンド・ベルトラン代表、同氏の右腕ギエルモ・ブリト重役、ガスマート・スタジアムを本拠地にする地元チームの代表、そして同日リングに上がる男女ホープ各1人が出席した。
“キング”のニックネームを持つビジャヌエバは現在WBCランキングで8位を占め、タイトル挑戦資格は十分ある。だが試合はネリのベルトは争われない。試合まで日数がないこともあるが、タイトルマッチになるとドーピング検査が厳しくなる――と勘ぐるのは的外れだろうか。
ホームメイド
ネリは会見で「試合の道を開いてくれたスライマン会長に感謝したい」と真っ先に語った。普段の陽気なメキシカンぶりから比べると緊張した表情だったが、これは状況から仕方あるまい。とにかくグリーンライトが点り安堵していた。「(薬物問題に関する)WBCの結論を我々は待ち望んでいる。どんな決断が下ろうとも、それをリスペクトする。同時にネリの試合を発表できるのは喜ばしいこと。ネリは問題なくクリーンなボクサーだ」とベルトラン氏。この罪悪感のなさはどう説明したらいいのだろうか。自分たちに処分が降りかかるとは微塵も思っていない。
米国では明らかな地元判定や不可解なストップで試合が決まると、ホームクッキング(家庭料理)という言葉が使われる。今回のネリ陣営とWBCの行動、処置はまさにその典型といえるだろう。ネリ自身にも「今さえよければいい、自分さえよければ満足」といった刹那主義が見え隠れする。
そして「山中とのリマッチは、こちらも望むところ。でも彼は引退するかもしれないと言っているし、準備が整っていないのでは。だから選択防衛戦やノンタイトル戦に傾いてしまう」とネリ。今回の試合締結が身の潔白の証明だと言いたげだ。
どんでん返しはあるのか?
再検査、Bサンプル(検体)も陽性と報じられながら、しらを切るネリ陣営。メキシコの関係者は「ネリはサンフェルのお抱え選手で、ベルトランとマウリシオはお互いに利用し合う間柄。(薬物が)偶然、食べ物に入っていたというのは信じがく、リング外の政治力が影響した」と解説。そして「中にはドクターと共謀している者もいる」というから恐ろしい。
ベルトラン氏が最初に育てたチャンピオン、4階級制覇王者エリク・モラレス(メキシコ)はダニー・ガルシア(米)との第2戦の2日前、ネリから見つかったものとほぼ同等の物質が発見され、試合は挙行されたが、管轄のニューヨーク州コミッションからサスペンドされた。今回のネリもリングに登場したものの、その後処分が言い渡されるケースもないとは言えない。
この時期、一気に解決を見るかに思えたネリの疑惑は、やや予想外の結末で幕を降ろした。ひとまずメキシコ側に押し切られる形となったが、この状況を踏まえて山中の闘志がリベンジに向け点火することを期待したい。