自転車ヘルメットビジネスの勃興
都市化と自転車
人口が都市に集中し、そして、モビリティが重要になる。人びとは絶え間なく都市のなかを移動し、人に会い刺激を受け、情報を交換し文化を創り上げていく。そう予想したのは、鬼才の故・黒川紀章さんだった。情報化が進むと、逆説的に人との出会いが重要となり、小刻みに移動できるツールが必要となる。
もちろん自動車は重要なモビリティツールとなる。しかし、都会でクルマを持つのは駐車場代が重くのしかかる。移動先でもおなじだ。都市を走るクルマの2割は、駐車場を探しているとするひともいる。セグウェイもなかなか実際には使用が難しい。そうなると、自転車に注目せざるをえない。六本木ヒルズと東京ミッドタウンはオープン当時、広い駐輪場を有することで話題になった。休日などに六本木ヒルズの駐輪場を覗くと、その駐輪台数に驚く。自転車は古くて新しいモビリティツールだ。
実際に自転車の国内保有台数は、少子高齢化にもかかわらず、右肩上がりになっている。都市化が進むヨーロッパの国々では、自転車の普及率が日本以上になっている。日本でも、まだ普及の進む余地があるだろう。
自転車事故の状況
ところで、警察庁「自転車施策をとりまく環境」によれば、世界的にみて高い自転車乗用中事故の割合が指摘されている。
しかも年齢別を見ると、若年層の比率が群を抜いている(もちろん外に出る時間が多い側面はある)。
自転車事故とヘルメット
全体の交通事故死は減少傾向にあるのは周知のとおりだ。しかし、自転車に限っていえば、自転車常用中の死傷者は減っていないことが指摘されている。これはかなり意外な事実ではないだろうか。死亡の多くは、頭部を損傷したものであり、その比率は他を圧倒する。公益財団法人・交通事故総合分析センターでは、ヘルメットの有効性を説き、不幸をなくすために、ヘルメットの着用を強く勧めている。
上記から、自転車のヘルメット需要が高まってくると予想される。平成19年(2007年)には道路交通法の改正により、普通自転車の歩道通行に関する規定、乗車用ヘルメットに関する規定が加わった。また、小学生の自転車乗用時のヘルメット着用が努力義務となっている。また、広報活動等も盛んになった。
自転車ヘルメットビジネス
自転車に乗る人が増え、さらに安全上の要請からヘルメットが必要となる。そのときに、ヘルメットは他者に「見せるもの」としても意味を持つ。そこで、一見すると、麦わら帽子のように見えるヘルメットが各社から発売されている。また、持ち運びが容易になるように、半分に折りたためるヘルメットなどがあり、販売は好調だ。
というのも、これまで販売されているヘルメットが「かっこよくない」といった理由で敬遠された背景があるからだ。もちろん、大人であれば、それも自己責任といえるかもしれない。ただ、子どもにも同様の理由でヘルメットを装着させないのは、やや問題があるのではないだろうか。
研究誌「交通科学」Vol42に掲載された、渡邊ひとみさん・内山伊知郎さんによる論文「幼児のヘルメット着用と保護者の意識との関連」によると、児童にヘルメットを着用させないことがあると回答した保護者の理由としては「行き先がすぐ近くだから」らしい。
また、財団法人日本交通管理技術協会の「自転車に同乗する幼児の安全対策及び乗車定員に関する調査研究報告書」では、児童にヘルメットを着用させない保護者の理由について、さらに興味深い結果をあげている。上から順に、こうだ。
●1位「幼児用ヘルメットがあることを知らなかった」
●2位「面倒だから」
●3位「荷物になる」
●4位「どこで販売しているのか知らなかった」
●5位「怪我をするような運転はしない」
こう見ると、1位「幼児用ヘルメットがあることを知らなかった」、4位「どこで販売しているのか知らなかった」など、認知の問題が大きいと思われる。必要性は感じても、それを購買活動までは結びつけていないのだ。
このような状況が、逆にいえば、ヘルメットビジネスの萌芽を感じさせる点だ。
児童用の自転車ヘルメット
現時点で「子ども ヘルメット」と検索しても、専門店はほとんど出てこない。「楽天」「アマゾン」「Helmet Kids」「イオン」などがかろうじてヒットするていどだ。
冒頭で故・黒川紀章さんの予言を書いた。もちろんモビリティの観点からは、自転車ではなく、セグウェイをさらに改良したような新しいツールかもしれない。しかし、セグウェイがそうであったように、ヘルメット着用の重要性は変わらない。
それと最後に。ヘルメット市場うんぬんも重要だが、単純に、ヘルメット着用していない児童は危険なので、帰り道にでも自転車屋で児童用のヘルメットを買い求めてほしいと思う。