あおり殴打事件の心理学:人はなぜあおり運転し暴言暴力をふるうのか
<怒りっぽい乱暴な人は、被害者意識を持っている。肥大した不安定な自己を持っている。プライドが傷つくと、相手を攻撃し、自分の強さ正しさを示さずにはいられない。>
■あおり殴打事件
あおり運転を行い、さらに殴りかかったとされる事件が大きく報道されています。
「進行妨害され頭にきて追いかけた」あおり運転 逮捕の男(NHK)
あおり殴打事件で逮捕の男「相手の運転マナーが悪かった」(ライブドアニュース)
■ひとはなぜあおり運転をするのか
自動車の運転は、普段からイライラやストレスがたまりやいものです。さらに自動車という鉄の鎧を着ているために、普段は乱暴などしない人ですら、あおり運転という相手への攻撃が生まれやすくなります。
■どんな人が、あおり運転や暴言暴力をしやすいか
気をつけないと、誰もがあおり運転をしてしまう危険性があります。しかし、特にあおり運転や乱暴をしやすい人がいます。
怒りっぽい乱暴な人は、一般に被害者意識を持っています。攻撃してくる人は、自分なりの理由を持っているのです。
あおり運転をする人の中には、自分があおられたとか、相手の運転マナーが悪い、前の車が遅くて自分が妨害されたと感じる人も多いでしょう。
世の中には、すぐに怒り、怒りを暴言暴力などの攻撃に表しやすい人々がいます。
彼らは肥大した不安定な自己を持っています。現実離れした奇妙な自信、歪んだプライドを持っているのですが、ただしその自信は不安定です。だから、自分の自信やプライドを守るために必死の努力をします。
物事が上手くいかないことは、誰にでもあります。穏やかな人は、その問題解決を考えます。
前の車が遅ければ、スムーズに追い越せば良いですし、もしもちょっとぶつけられたのなら、冷静に話し合って適切に弁償してもらえば良いでしょう。
しかし、彼らは自分を特別だと感じ、自分の利益の確保と拡大を常に望んでいます。そして、その望みがかなわないと傷つき、相手を自分の評価を下げる脅威と感じて、問題解決より攻撃を優先してしまうのです。
つまり、問題解決は横に置き、暴言暴力をしないではいられなくなります。そうして、自分の正しさ強さを示さないではいられないのです。「弱い犬ほどよくほえる」の心理です。
怒りっぽい人は、実は傷つきやすい人なのです。ただ、傷ついた時に泣いたり隠れたりしないで、怒鳴ったり殴ったりしてきます。
歩いていて、肩がぶつかっただけで相手に怒鳴るような人です。肩は、権威の象徴なので、腹が立ちます。
また彼らは、認知(ものの考え方、とらえ方)が歪んでいて、相手の敵意を感じやすくなっています(敵意的認知)。ただ目が合っただけなのに、「ガン付けたな!」と腹を立てます。普通の人はそう感じないのですが、彼らはそう感じやすいのです。
こんなことが路上で起きれば、周囲の自動車は次々と「敵」になり、攻撃の対象となってしまうのです。
■女性の存在と男らしさの誤解
今回の事件では、女性同乗者がいて、この女性も逮捕されています。2017年に発生した東名高速あおり運転夫婦死亡事故でも、加害者側の自動車に女性が同乗していました。
異性が存在すると、人は男性性、女性性が刺激されます。同性だけのときより、男らしく、女らしくふるまうようになります。男性なら、女性に良いところを見せようとしたり、勇気を出して女性を守ろうとしたりするでしょう。
その気持ちが正しい行動に向えば良いのですが、男らしさを誤解している人もいます。
男らしさとは、乱暴や大声のことだと思ってしまうのです。ただ一緒にいる女性が穏やかな人ならば、そんな男のことは嫌うでしょう。店員を怒鳴りつけたり、危険なあおり運転をする男性などとは、交際しようと思わないでしょう。
ところが、女性のなかには、乱暴な男を好意的に見てしまう人もいます。こんな男女が一緒にいれば、乱暴な行動がエスカレートしてしまうのです。
■2種類の攻撃
攻撃には、二つの種類があります。一つは、感情的な敵意的攻撃です。冷静さはなくなって、相手に制裁を加えたいと感じています。威張っているのに、実は心の底で不安定さや弱さを抱えている人の行動です。
もう一つの攻撃は、道具的な攻撃です。相手から金を取ろうとしたり、相手の席を奪おうとするなど、何か目的があって、攻撃を道具として使っています。この場合は、すごんだり脅したりしますが、冷静です。目的達成の手段として攻撃を使っています。この攻撃は、弱さではなく、ずる賢さの攻撃でしょう。
■怒りと攻撃を越えて
個々の出来事の事情は様々です。適正な怒りも、正しい攻撃もあるでしょう。しかし怒りと攻撃をコントロールできなければ、自分と相手の一生を台無しにしかねません。
調査によれば、運転時にイライラしたことがある人は、90パーセントを超えています。さらにその中の40パーセントが、あおり運転をした(または可能性がある)と回答しています(日本アンガーマネジメント協会)。
他の車の運転に対して、カッとなって挑発的な運転をしそうになったことがある人が37パーセントという調査もあります(チューリッヒ生命)。
悪に対して悪で報いてはいけません。善をもって悪に勝たなければなりません(聖書:ローマ人への手紙)。
相手が悪いと感じやすい人がいます。また実際に相手が悪いとしても、やられたらやり返すを路上で行えば、事故につながります。イギリスの研究によれば、交通事故の85パーセントは怒りの結果です。
人間関係では威嚇が効果的なこともあります。正しい怒りもあります(正しい怒り方の心理学:反撃できない自分の守り方:Yahoo!ニュース個人有料)。
しかし、道路上では危険です。「金持ちケンカせず」、「君子危うきに近寄らず」です。
運転では、自分は運転が上手いと思っている人ほど、要注意です。カーレーサーは、路上では安全運転ですし、ボクサーや空手家はケンカをしません。
怒りの感情は、相手から意図的に不当な行為をされたと感じたときにわいてくる感情です。相手から、わざとひどいことをされたと感じれば、カッとなることもあるでしょう。
私達は、被害自体に怒るのではなく、被害をわざと与えた相手に怒ります。誰かに水をかけられたら怒りを爆発させる人も、雨に降られたときは怒りません(古典落語『天災』:「何事も天から降りかかったものと思えば諦めがつく」)。
私達の認知(考え方)を変えることは大切です。運転していて他の運転者にカチンと来たときに、そのことを考えすぎると怒りの感情が増幅します。ラジオを聴くなどして、他のことで気を紛らわしましょう。
自動車の機械の故障が事故を招き、整備不良は危険をもたらします。同じように、私達ドライバーの心を整えることこそが、事故とトラブルの予防になるでしょう。
<どんな自動車があおられやすいか:路上激怒・路怒症:あおり運転と攻撃の心理>
あおられやすい車は、ズバリ、白の軽!
BOOKS
「バイオレンス:攻撃と怒りの臨床社会心理学」(北大路書房)
「交通事故学」(新潮新書)
「交通心理学が教える事故を起こさない20の方法:ドライバーズ・ハンドブック」(新潟日報事業社)