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あおられやすい車とは:路上激怒・路怒症:あおり運転と攻撃の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

<どんな人でも、弱い相手を見ると攻撃したくなる? あおられやすい車とは。ズバリ、白の軽!>

■道路上での攻撃行動:あおり、威嚇、クラクション

攻撃行動とは、「他者に対して危害を加えようと意図して行われる行動」と社会心理学では定義されます。

うっかり誰かの足を踏むのは、意図的ではないので攻撃ではありません。外科医がメスで患者を切るのは、危害を加えようとしているのではないので、攻撃ではありません。

殴る蹴るはもちろん攻撃ですし、言葉で相手を侮辱するのも、心に危害を加えようとしている攻撃です。

道路上の攻撃としては、幅寄せや、クラクションを強く長く鳴らすなどの行動があり、総称してあおり運転と呼ばれたりします。

■あおり運転とは

危険運転とは異なり、あおり運転には明確な法的定義はないのですが、一般にあおり運転とは、車間距離を詰める、幅寄せ、蛇行運転、前に回り込んでの急ブレーキ、クラクションでの威嚇、必要のないハイビームやパッシングなどの運転のことです。

「煽る(あおる)」とは、「風を起こして火の勢いを強める」とか「風が物をばたつかせる」などの意味ですが、そこから「他人を刺激してある行動に駆り立てたりする」という意味にもなります(大辞林)。

あおり運転をなぜするのか:危険運転の心理

■あおり運転しやすい人

共感性が低い、衝動性が高い、運転に自信があるなどの人は、危険です。

根拠のない不安定で歪んだプライドを持っている人は危険です。そのプライドが傷つき、イライラしている時などが、要注意です。

あおり殴打事件の心理学:人はなぜあおり運転し暴言暴力をふるうのか

■あおられやすい車とは、攻撃されやすい自動車の車種、特徴

攻撃行動に関する有名な研究が、かつてアメリカの道路上で行われました。

この実験では、赤信号で先頭の車が止まります。青信号になります。しかしすぐには発進しません。その時に後ろの車がクラクションを鳴らすのかどうかが、攻撃行動の指標(物差し)とされた実験です。

さて、その実験の結果は、

まず、小さな車が攻撃されやすい(クラクションを鳴らされやすい)ことがわかりました。小さくて安そうな車は、攻撃されやすいのです。

実験では、自動車の後ろにライフル銃が積まれているのが見えるようにしておくと、クラクションが鳴らされにくいこともわかりました。

自動車に怖そうなステッカーが貼ってあると、攻撃行動を受けにくいこもとわかりました。

人は、どういう相手を攻撃しやすいのか、それは弱い相手(弱そうに見える相手)です。これは、ちょっと情けない結果ですね。

でも、あなたならどうでしょうか。同じ状況になった時に、会社の社長やどこかの親分が乗ってそうな、大きくて高級な黒い自動車にクラクションを鳴らすでしょうか。

自動車の横っ腹に「夜露死苦(よろしく)」なんて書いてある派手な改造車にクラクションを鳴らすでしょうか。

多分、しないでしょう。人間は、そんなものです。

チューリッヒ生命の最近の調査でも、あおられやすい車は、半数以上が軽自動車、色は白と報告されています。

白は、全体数が多いのに加えて、大人しそうな色だと判断されるのでしょう。ちなみに、この調査によると、あおりやすい車は黒い車だそうです。

*上記の研究は、統計的な研究で、「〜の人が多い」ということです。中には、大きなトラックにあおり運転をする人もいますが、例外的で、特異な性格の持ち主でしょう。

■クラクション

同じクラクションも、威嚇的と感じる時と感じにくい時があります。何かを知らせようとするクラクションは、多くの場合、0.1秒以下です。ほんの軽く、プっと押すクラクションです。

一方、威嚇的なクラクションは0.5秒以上鳴らされています。ブーっと強く鳴らされるクラクションです。

■「道路上の激怒(roadrage:ロードレージ)」「路怒症」

欧米の研究でも、道路上でいつも怒っていて、強いクラクションを鳴らしやすい人が一定数いることがわかっています。この「道路上の激怒(ロードレージ)」が交通トラブルのもとになります。

中国の人々は、道路上で激怒して乱暴な運転をするドライバーを「路怒症」と呼んでいます。

道路上は公共の場で、様々な自動車、自転車、歩行者が行き来しています。その中で安全でスムーズな運転をするためには、自動車の動きの特徴とともに、人間の心の動きの特徴を知ることも必要です。

研究によると、自動車の中の人が見える方が、見えない時よりもクラクションを鳴らしにくくなることもわかっています。相手が見えて、相手の心に共感できれば、普通の人は攻撃を抑えやすくなるのでしょう。

自動車の運転は、道路上のコミュニケーションです。互いに良い運転ができれば、気持ちよくドライブできるでしょう。

■強気に出られて傷ついた時

「金持ちケンカせず」と余裕が持てればいいのですが、不安、悲しみ、悔しさから、不適切な行動が生まれることもあります。「自分は間違っていないという自信を持ちましょう」(正しい怒り方の心理学:反撃できない自分の守り方:Yahoo!ニュース個人有料)。

乱暴な人には「自分は正しいと傲慢にはならないで」と言いたいところですが、道路上の弱者には「自分は正しいと信じて心の余裕を持って」と言いたいものです。

■心を知ろう

自分やパートナーが、怒りっぽい人ならば、その特徴を知って、感情のコントロールに努めましょう。怒りっぽい人ではなくても、攻撃しやすい状況があることを知りましょう。

あおり運転ではありませんが、交差点で自分が右折するタイミングを待っている時に、対向車線の直進車の種類によって右折のタイミングが変わるという研究もあります。

相手が大きな自動車だと自分が待つタイミングでも、相手が小さな50CCのバイクだと、強引に右折してしまう場合があります。万が一ぶつかっても自分の被害が少ないと感じる面もありますが、小さい存在の方が遠くにあると誤解しやすい(錯視が起きる)という面もあります。

相手が、小さい、弱いと感じると、強気になってしまうのが普通の人間です。自分だけは大丈夫と思わず、安全運転をしたいものです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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