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久保建英が突き進む「世界最高峰への道」。ブラジル代表ロドリゴとは違う選択

小宮良之スポーツライター・小説家
マジョルカで成長を続ける久保建英(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 2月21日、セビージャ。ホームですこぶる強いベティスを相手に、久保建英(18歳、マジョルカ)は集まった大観衆を一撃で黙らせている。敵陣で奪ったボールを、力強く前に運ぶ。一人を交わした後、前をディフェンスに遮られ、利き足の左で撃つコースを切られる。パスする選択肢もあったが、足を出させる大きなモーションから開いた股の間へ、右足シュートを打ち込む。GKが必死に出した手を突き破って、ネットを揺らした。

 久保はこの試合、1点目につながるシュートを打ち、2点目は左サイドを切り裂いてアシストを記録。チームの3得点、すべてに絡んだ。

「久保は大丈夫なのか?」

 5試合連続途中出場だったことで、危惧する声が出ていた。

 しかし久保は限界でも、不振でもない。途中出場はチーム事情で、久保本人のパフォーマンスは決して悪くはなかった。ゴール前に駆け上がる精度や強度は恐るべきレベルに達しつつある。

 久保は、マジョルカで「世界最高峰への正しい道」を突き進んでいる。レアル・マドリーに復帰し、世界に冠たるクラブの主力として活躍する未来だ。

ロドリゴのケース

「レアル・マドリーにとどまるべきだった」

 久保が1部マジョルカへの期限付き移籍を決めた時、少なからずそういう意見は出た。辛抱強く機会を待つべきで、必ずそれはやってくるはずだと。確かに、回り道には映る。

 実際、同じような立場でマドリーに残留したブラジル代表ロドリゴ・ゴエス(19歳)は、昨年9月末に早くもトップで出場機会を与えられ、オサスナ戦で得点を記録。10月、チャンピオンズリーグのガラタサライ戦ではハットトリックで一気に名を高めた。一時は、同胞のヴィニシウス・ジュニオールを上回る破竹の勢いだった。

 しかし、ロドリゴはルーキーだけにプレーの波が激しい。試合を重ねることで、むしろ消耗していった。そして今年2月に入ってからはリーグ戦3試合連続でベンチ外(ベルギー代表エデン・アザールがけがから復帰したのもあるだろう)。2月22日には、とうとうカスティージャ(マドリーのBチーム)に”降格”し、2部Bリーグの試合に回った(サンセとの試合で、2-0の勝利に貢献。実力差を見せつけ、1点目は起点に、2点目は爆走でスーパーゴールを決めた。しかし直後の侮辱的ゴールパフォーマンスで退場に)。

マドリーで活躍する近道

 マドリーで十代にしてポジションを確保するのは、すべての条件がそろわないといけない。ラウール・ゴンサレスやイケル・カシージャスのように、恐るべきメンタルと実力を兼ね備えた上、地元育ちであることが望ましく、理解者というべき監督の存在、なにより同ポジションの人材を欠いているのも必須。タイミングや運が必要なのだ。

 競争力を高めるには、他のクラブでプレーヤーとしての経験を積む方が得策だろう。実際、かつてカスティージャに在籍したダニエル・カルバハル、フェデリコ・バルベルデ、ルーカス・バスケス、カゼミーロは、トップに執着しなかった。他のチームでの”武者修行”によって一人前になり、今もマドリーで活躍している。

 才能だけでは、ロドリゴのように疲弊してしまうのだ。

「どんなチームでも、自分のプレーが通用するように」

 久保はそう言って、昇格したばかりのマジョルカを新天地に選んでいる。劣勢は覚悟の上だろう。真の実力を身につけるためで、ブランドにしがみつかなかった。その点、18歳とは思えないほど腹を括っている。

<殻を破る>

 久保はまさにプレーするたび、変身を遂げつつある。

想像を超える久保の成長曲線

 マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督や一部幹部は、久保のポジションをインサイドハーフと考えているともいう。久保は小柄だが俊敏で、ボール扱いに長け、コンビネーションも生み出せるからだろう。クロアチア代表MFルカ・モドリッチのバックアッパーと言ったところか。

 もっとも、久保はその枠には収まっていない。

 マジョルカでは、自らのひと蹴りで勝負をものにする攻撃力を見せつつある。カウンターでの凄みも、目に見えて増した。ひ弱さが一切見えない。リーグの中の弱小チームで、主軸として勝負を左右する技量の高さを見せ、それはマドリー幹部の想像を超えるものだろう。もしマジョルカを1部に残すことができたら、それは奇跡に近く、その価値はマーケットでも急騰するはずだ。

今後の久保

 久保の成長曲線を考えた場合、来シーズンはマジョルカを”卒業”し、1部上位クラブでプレーするのが望ましい。攻撃的なサッカーを信奉するレアル・ソシエダは、一つの選択肢になるだろう。実際、ノルウェー代表マルティン・ウーデゴールはレアル・ソシエダでの活躍が認められ、マドリー復帰がささやかれている。

 しかし久保は、とにかく想定を超える男だ。

 2019年シーズン、所属していたFC東京では1月時点で4,5番手のFWに過ぎなかったにもかかわらず、プレシーズンで違いを示して開幕スタメンをつかんでいる。そこから主力、エースと瞬く間に上り詰め、燦然と日本代表に選ばれ、6月末にマドリーへ移籍。たった半年足らずで、これだけのことをやってのけた。

 世界最高峰は、手が届かないところにはない。東京五輪も開催される2020年、東京世代の久保がどのようにはばたくのか――。それは多くのサッカーファンにとっての浪漫である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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