グリーンモンスターと眠れる森の美女=真冬の昆虫芸術⑥
グリーンモンスターとスリーピングビューティー(眠れる森の美女)の物語と言うと、まるでおとぎ話のようだが、これは植物(クズ)と昆虫(オジロアシナガゾウムシ)の物語だ。根が葛餅(くずもち)の原料になったことで知られるクズは、大きな樹木を覆い尽くして枯らしてしまうこともある生命力の強いマメ科のツル植物。木々を緑の怪物のように包み込む姿から、米国ではグリーンモンスターとも呼ばれているらしい。
そのクズを主食にするのがオジロアシナガゾウムシ(白黒なので愛称はパンダゾウムシ)という可愛い虫。その幼虫は、クズの茎の中で育ち、虫こぶ(ゴール)を作る。このゴールが目立つのは、葉が落ちる冬だ。晩秋や初冬にゴールを開いてみると、オジロアシナガゾウムシの幼虫や蛹が出てくることがある。
特に蛹は、揺りかごの中で静かに眠る王女様のように見える(などと思うのは恐らく昆虫記者だけ)。荒れ果てたクズの茂みに隠された揺りかごの中で眠る王女様と言えば、まさに茨の中に埋もれた城で100年間眠り続けたスリーピングビューティーではないか。
この王女様を、揺りかごごと自宅に持ち帰ると、しばらくしてオジロアシナガゾウムシの成虫が出てくる。
オジロアシナガゾウムシは成虫越冬もできる虫なので、その後はどこか寒さをしのげる場所で越冬するのだろう。よほど寒さに強い虫とみえて、厳冬期にクズの茎にしがみ付いてじっとしている姿を見かけることもある。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)