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台風で時速380キロの風を観測したのは12月

饒村曜気象予報士
熱帯海域の雲(12月15日8時30分)

現在の熱帯域

 今年に限った話ではありませんが、一般的に、年末年始を利用してグアム島やフィリピン南部に旅行される方は、台風情報をチェックする必要があります。

 熱帯域の台風シーズンが終わっていない可能性があるからです。

 しかも、希ですが、記録的に発達し、夏~秋の台風以上の強い風が吹くことがあります。

 現時点で、赤道すぐ北の熱帯域では、ところどころに積乱雲が密集している海域がありますが、この積乱雲が密集している海域から熱帯低気圧が発生し、台風にまで発達するには時間がかかりそうです(タイトル画像参照)。

 色々な台風があった令和元年(2019年)は、5月から始まっていますので、現時点で台風の発生数は26個で、あと1個発生するかしないかと思われます。

 平成31年(2019年)は4月までですが、この間の台風発生数は2個です。

 したがって、今年(2019年)の台風発生は28個という可能性が高そうです。

グアム島を襲った平成9年12月の台風

 日本から南へ飛行機で約3時間、そこに長さ52キロメートル、幅6~16キロメートルの細長い島、グアム島があります。

 世界一周の航海中のマゼランの発見以後スペイン領となり、アメリカ・スペイン戦争の結果、明治31年(1898年)からアメリカ領となっています。

 基地の島であると同時に、サンゴ礁で囲まれた美しい熱帯の島であり、年末年始などに日本から多くの観光客が訪れています。

 このグアム島で、最大瞬間風速が毎秒105メートルという記録的な風を観測しています。時速にすると380キロ、新幹線より早い速度です。

 これは、平成9年(1997年)12月16日にグアム島のすぐ北を時速15キロメートル位の速さで、台風28号が西進したからです(図1)。

図1 グアム島と台風28号の経路(ハッチは標高150メートル以上の地域)
図1 グアム島と台風28号の経路(ハッチは標高150メートル以上の地域)

 グアム島にある米軍のアンダーソン基地では、15時31分に最大瞬間風速205ノット(毎秒105メートル)を観測しています(表1)。

表1 グアム島のアンダーソン基地における気象観測(平成9年(1997年)12月16日)
表1 グアム島のアンダーソン基地における気象観測(平成9年(1997年)12月16日)

 アンダーソン基地の風速計は、グアム島北部にある2つの小高い丘のうち、東側の標高162メートルのところにありますが、ここで105メートルの風を観測し、通報したのです。

 このため、日本などで「世界で初めて毎秒105メートルの瞬間風速を観測した」という報道がなされました。

 グアム島では、この台風28号により、突風で割れたガラス片などで約20人が負傷した他、家屋倒壊や停電、農作物被害がありました。

 クリスマス直前の閑散期とはいえ、数千人の日本人観光客が訪れており、日本人旅行者にも重軽傷者がでたほか、日本とグアムを結ぶ全航空便が欠航したために、多くの人が日程の延長をしいられています。

 台風28号は、12月22日9時にフィリピンの東海上で熱帯低気圧にかわり、日本やフィリピンへの影響はありませんでした(図2)。

図2 平成9年(1997年)の台風28号の経路(白丸は9時の位置)
図2 平成9年(1997年)の台風28号の経路(白丸は9時の位置)

グアム島と台風

 グアム島に接近する台風を月別、方向別に見たのが表2です。

表2 グアム島から180カイリ(約330キロ)以内に接近した台風(昭和22年(1947年)から昭和48年(1973年)の資料をもとにS.Brand等が調査)
表2 グアム島から180カイリ(約330キロ)以内に接近した台風(昭和22年(1947年)から昭和48年(1973年)の資料をもとにS.Brand等が調査)

 グアム島から180カイリ(約330キロ)以内に接近する台風は1年間に約4個あり、大部分は7月から11月ですが、12月の接近も、ほぼ10年に1回くらいはあります。

 方向別では、東海上からの接近が全体の3分の1以上を占め、南東海上からの接近がこれに次いでいます。

 なお、南東海上からの接近が多いのは夏であり、秋から冬に多い接近は、ほとんどが東海上からです。

 時速380キロ(毎秒105メートル)の風が最初に観測された、平成9年(1997年)の台風28号も、東海上からの接近でした。

フィリピンでも時速380キロの風

 一般的に、猛烈な風になればなるほど、ものすごい破壊力のために風速計を設置した塔が傾いたり、風速計自身が損傷しますので、正確な観測値を求めるには非常な困難が伴います。

 毎秒105メートルという風は、平成25年(2013年)11月8日早朝にフィリピン中部に上陸した台風30号でも観測しています。

 この台風30号は、従来の台風のように上陸後に勢力は殆ど弱まらずおよそ900 ヘクトパスカルの勢力を約一日半維持し、その間フィリピン中部の島々は毎秒60メートル以上の強風と、台風による局地的な低圧部による高潮に長時間襲われました。

 このとき、アメリカ軍の合同台風警報センター(JTWC)では、衛星などの観測からフィリピン上陸時の最大瞬間風速205ノット(毎秒105メートル)と推定しています。

日本では毎秒100メートルを超える風は観測していない

 日本では、昭和41年9月25日に台風第23号により、富士山頂で毎秒91.0メートルの最大瞬間風速を観測しています。

 また、平地では、昭和41年9月5日に第2宮古島台風により宮古島で毎秒85.3メートル、昭和36年9月16日に第2室戸台風により室戸岬で毎秒84.5メートル以上を観測しています。

 ここで、室戸岬での観測が「以上」となっているのは、途中で風速計が損傷したためです。これ以上の風が吹いていたかもしれませんが、以上としか言いようがありません。

 とはいえ、日本では毎秒100メートルを超えた風は観測していません。

 グアム島やフィリピンでは、私たちの想像以上の強い風が吹くことがあるのです。

 それも初冬にです。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図2、表1、表2の出典:饒村曜(平成10年(1998年))、グアム島で最大瞬間風速の極値を観測か?、月刊誌「気象」、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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