ドワンゴの「ゆっくり実況」出願への拒絶理由通知は悪いニュースではない
「”ゆっくり実況”などの商標出願に拒絶通知 ドワンゴが”誰も登録できないと明らかにする”と出願」というニュースがありました。歴史的な知財関連炎上事件とも言える「ゆっくり茶番劇」の勝手出願(関連過去記事)の再発を防ぐために、ドワンゴが出願していた「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり劇場」に対して、特許庁が拒絶理由(いわば、暫定的拒絶)を通知していたという話です。現在の商標制度では、「パブリックドメイン」(誰でも使える商標)といった概念はないので、勝手出願を防ぐためには、信頼できる誰かが出願してみて、登録されれば自由にライセンスするという手法を採らざるを得ません(関連過去記事)。
拒絶理由は3件とも同一で、商標法3条1項3号(と4条1項16号)および3条1項6号によるものです。
3条1項3号(と4条1項16号)は、商品や役務の特性そのまんまという拒絶理由です。以下、拒絶理由通知からの引用です。
3条1項6号は「様々な理由により識別力がない商標」という包括的規定で、先日記事化した「童貞を殺すセーター」と同じパターンです。ネットでミーム(自然発生的な流行語)化して、既に様々な人々に使われている商標は3条1項6号で拒絶するという最近の特許庁の運用に合致したものです。
ところで、上で別掲として挙げられている文献の1つとして「ピクシブ百科事典」が使われています(これは、「童貞を殺す~」の時も同じ)が、ネット用語の権威ある出典として扱われるようになったのだなあと思いました。
ドワンゴは、この拒絶理由に対して反論することはできますが、「ゆっくり実況」等がドワンゴの商標として周知になっていることを立証する必要があり、かなりハードモードです。しかし、冒頭引用記事にもあるように、仮にこのまま拒絶が確定しても、それは、誰が出願しても拒絶されることがほぼ確実になったことを意味するので、関係ない第三者による勝手出願を防止するという元々の目的は達成されることを意味します。したがって、登録されるにせよ、拒絶されるにせよ、ドワンゴの目論見通りということになります。
ところで、ここで、「ほぼ確実」と書いたのは、特許庁の審査官は独立して審査を行うことができると定められており、他の審査の結果に必ずしも拘束されないからです。たとえば、他人の氏名を含むことを理由(4条1項8号)にして拒絶された場合に「過去に他人の氏名を含む商標はたくさん登録されてるのに」と反論しても、審査官はほぼ定型的に「具体的事案の判断においては過去の判断に拘束されることなく判断されるべきである」と応答して一蹴します(「よそはよそ うちはうち」という大阪のおかんのような対応です)。
しかし、今回のケースについて言えば、「ゆっくり~」のパターンの出願で既にネットで広く使用されている言葉はどの審査官も拒絶するでしょう(さすがに審査官も競業秩序を乱すような商標をわざわざ登録査定するようなことはありません)。まずは一件落着ということです。今回の事件におけるプラットフォーム提供者としてのドワンゴの責任ある行動については評価されるべきでしょう。