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内定連発の“就活エリート”ほど、使いモノにならない?

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著作者:M.Facci

厳しい就職戦線を戦い抜いてきた新入社員がそれぞれの配属先の部署で、始めての夏休みを迎える時期となった。

「今年の新人たちはどうしているのか?」と思いきや、どうにもよく分からない表現を、某大企業の部長から聞いたのだった。

「新しい働き方が出てきたよ!」

「え? 新しい働き方って、仕事は二の次で、プライベートを充実させる働き方?」

「違う、違う。そんなの今じゃ、当たり前」

「じゃあ、どんな新しい働き方なの? またまた新種が登場したってことなわけ?」

「そうだよ。信じられない新種だよ。は・た・ら・か・な・い、って働き方!」

「????」

部長である彼の下に配属された3人の新入社員のうち、1人が4日で会社を辞めた。他の部署でも、1人の新入社員が1週間で会社に来なくなった。

他にも、遅刻はするわ、提出書類は出さないわ、やるべき仕事を平気で放棄するわで、既に“問題児”呼ばわりされている新入社員もいて、上司たちは頭を抱えているのだという。

そんな(上司たちから見れば)“期待はずれ”の新人たちは、いずれも実家から通っていて、連絡を取ろうとすると母親が出る。

「彼らは辞めても生活もできるし、母親が代弁者になるし、ちっとも困らない」。そんな状況を、友人は「働かない働き方」と表現したのだった。

「問題になっている3人とも、5回ある採用面接で、すべてA評価。うちの会社も厳選採用を徹底するために、面接に力を入れて、人物重視の優秀な人材を採用しているはずなんだけど、誰1人として、彼らの“正体”を見抜くことができなかったってことなんだろうね」

「配属になった部署がイヤで、グレた可能性はある。でも、それで会社辞めちゃったり、会社に来なくなるのって、どうなんだろう。せっかく厳しい採用試験を乗り越えてきているわけだし、僕だったら、もったいなくてそんなにすぐには辞められない。これって、新しい働き方としか思えないんだよね~」

人が人を評価するのは難しい──。採用を担当した経験がある人なら、誰もがそう感じたことはあるだろうし、「本当に自分の評価で、間違っていなかっただろうか」と心配になったこともあるだろう。

だからこそ、採用する側も、「面接を繰り返し行って、何人もの面接官で評価すれば、人物像は見抜けるはず」とばかりに、個人面接だけでなく、集団面接、グル―プ・ディスカッションと対策を講じている。

特に厳選採用を徹底している企業ほど、段階を踏んだ面接を行い、それぞれ“何”を見極めるかを詳細に分類している。

友人の勤める会社も5回の面接で、15人まで絞り込んだ。ところが、そのすべての面接で、A評価を受けた人材が、現場に配属になった途端、萎えてしまったのだ。

大学のキャリア教育においても就職活動の面接対策は最重要課題に位置づけられ、書店に行けば、「これでもか!」というくらい、面接のハウツー本が並んでいる。現に大学によっては、キャリア教育と称して「グループ・ディスカッション対策講座」なるものを実施しているところも珍しくない。優勝な学生ほど、面接対策講座に積極的に出る。

時代は、まさしく面接の時代、だ。

だが、しょせんはイタチごっこ。

企業がグループ・ディスカッションで、何を見ているのかが分かれば、学生の側だってそれ相応の対策を講じてくる。

論理に基づいて設けられた仕組みは、論理で打破できる。

「コミュニケーション能力、協調性、問題解決能力の高い人物を見極めるためには、どうしたらいいか?」と散々考えた結果、グループ・ディスカッションがいいだろう、という結論に至ったとしたら、

「コミュニケーション能力、協調性、問題解決能力の高い人物と評価するためには、どうしたらいいか?」というスキルを、さまざまな角度から論理的に分析し、試験にパスするためのスキルを向上させるための、ハウツーを論理的に構築すればいい。

しょせんは人間が考えることなのだから、プロの手を借りればどうにでもなる。いわゆる、「面接の達人」を生み出す土壌が整えられていくのだ。

おまけに、世の中には相手が何を聞き出そうとしているか、相手が何を自分に望んでいるのかを、うまく察知し、求められている“自分”をうまく演じる力の高い人がいる。

例えば、私も調査研究などを行う際に、「半構造化面接」という、あらかじめ定められた枠組みを守りながらも、面接の細部に関しては柔軟な対応をする手法を用いて、インタビューを行うことがある。これがなかなか難しい。

「きっとこういうふうに答えた方が、喜ぶはずだ」。察知する能力の高い人は、こちらの質問に合わせてうまく答える傾向が強い。『自分』を見せるのではなく、そこで求められている人物を演じるのだ。完璧に自分のストーリーを組み立てる。結果、本当に見極めたい部分が曖昧になり、言葉は悪いがだまされてしまうこともある。

面接は相手のことが分かる最良の手段であるとともに、演技を真実と受け取ってしまいかねないリスクもはらむ手法なのだ。

もちろん面接は大切ではある。だが、面接はやった方の満足感を高めるので、気がつかないうちに、面接で受けた印象に支配されるので、過信は禁物。だいたい、長年、付き合っている相手だって、本当の人物像などよく分からないわけで。相手の人となりを知るのは、意外とちょっとした無駄話だったり、会社の外で偶然会った時だったりする。

それに、へなちょこに見えた人ほど、一大事にはしぶといことだってある

それに「我が社でやりたいことは?」なんて質問をすることが多いが、どんな仕事であれ、仕事の9割は好むと好まざるとに関係なく、やらなければならない仕事の繰り返しである。自分のやりたい仕事というものは、何年もキャリアを重ねた結果、やっとたどり着けるもの。

入社して早々、やりたいことができる会社なんて滅多にないことを“オトナ”たちは経験から知っているはずだ。なのに、誰もそのことを学生たちに教えることなく、「やりたいこと」を見極めろと自己分析を徹底させる。

当然ながら学生たちは、「やりたいことをやらせてもらえる」と錯覚を起こす。内定をたくさんもらい自信を高めた“優秀”な学生ほど、その“錯覚度”は高いかもしれない。

そんな自分の思い込みと折り合いをつけるためには、「やりたいことをさせてくれない会社が悪い」、「自分の能力を発揮させる場を与えない上司が悪い」と、他人や環境のせいにしたり、会社をボイコットしたり、辞めてしまったりするしかない。

完全なる悪循環だ。

企業にとっても、新卒社会人にとっても、大切なことは、組織に適応することである。組織への適応、すなわち、「組織社会化(organizational socialization)」は、入社前から始まり、最低でも3年、長い場合は10年近くかかることもある。組織社会化に成功した個人は、その後は順調なキャリアを重ねることができる。

つまり、採用する過程は、自分たちの組織に適応できる人物かどうか、相性の良い相手かどうかを見極めなくてはならない。

今どきの若者は使えない―ー。そう嘆く前に、

本当に自分たちが求めている人材は、どういう人材なのか?

自分たちの企業で求められる優秀な人材とは、どういう人物なのか?

そういった人物を見つけるには、どうしたらいいのか?

をトコトン考える。

単に、コミュニケーション能力、協調性、問題解決能力に優れた、「優秀な学生」を探すのではなく、「自分たちと、自分たちの会社が大切にしていること」に共感する学生を、とりあえず「採用」するのではなく、自分たちのやり方で手間ヒマかけて探すしかない。

そして、採用する人の“熱意”と、覚悟が学生に伝わった時、入社前の組織社会化が成功するのである。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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