44歳まで広がる若者支援、その課題とは。
無業の若者がそのまま40代となる、いわゆる「高齢化」に対して、これまで多くの若者を支援してきた政策の対象年齢39歳を44歳にまで広げることになるようだ。
共同通信:ひきこもり就労支援拡充、厚労省 高年齢化、40~44歳も対象に
おそらく、関係者にはそれほど驚くニュースではないだろう。以前から議論されてきたものであり、少なくとも数年後には若者支援における政策対象年齢が44歳に広がることは規定路線でもあった。
私も、昨年末のNEWSPICKS 2017大予測のなかで、若者支援の対象年齢について触れている。
若者支援が始まった2000年代初頭では、その政策対象年齢が15歳から概ね34歳であった。その後に39歳までと広がったが、その時点から上限としての44歳という年齢は関係者間では共通認識であった。もちろん、当初から「30代後半や40代となったひとはどうするのか」という提言はあったものの、その時点でも、もしかすると現時点でも、特に20代後半から30代前半までの経験値で支援活動をしていた民間団体にとって、40代以降の支援というのはほとんど経験がなかった。
ただ、若者支援が社会的に動き始めて15年ほどで社会の変化とともに民間活動も変化してきた。そこには支援団体だけではなく、地域活動や当事者間での活動もあり、多様性を帯びている。44歳までが若者支援になったとしても大きな問題ではないというところも少なからずあるだろう。
今回は「地域若者サポートステーション」という若者支援政策が対象年齢の拡張にあたるという。そもそも地域若者サポートステーションは、共同通信のヘッドラインにあるよう「ひきこもり」状態の若者のための就労支援政策でないため、ややミスリードな感はぬぐえず、ひきこもり状態であっても、そうでなくても、“無業状態”の若者であれば活用可能だ。
まずは地域若者サポートステーションのモデル事業からスタートするとあるが、国の若者支援政策がその対象年齢を広げれば、各自治体の政策も影響を受けることになるため、ここでは対象年齢の拡張に対して想定される課題と解決方法を提示したい。
1. 統一のデータベース活用によるケースの集積と分析
一般企業であれば当然のごとく行われているクラウド活用による一元的な顧客管理は、国が全国の企業やNPOなどに広く委託する事業においてはほとんどなされていない。Excelなどでシートが配布され、現場で起こった日々の出来事をタイプして提出する。各事業がどこまでの情報範囲を提出しているかは把握できないが、私がかかわった範囲では情報分析よりは実績管理のための情報収集という認識である。
しかしながら、これまで政策対象でなかった若者が来られるとき、それが認知されるタイムラグを考えると、一か所で多くの方が利用されるとは考えづらく、各所に来られた若者のケース集積と分析のために、各所が統一のクラウド型データベースを活用することで少ないモデル地域の情報が「個別のケース」共有に留まってしまう課題を越え、各自治体を含めて広く知見が共有され、運用しやすい仕様書が生まれる「モデル」を作ってほしい。
2. 個人とチームに対する十分な研修機会
記事では、広がる対象年齢に「専任スタッフ」設置での対応をすると言っている。これは対象属性の拡張に対して政策的拡充を「人員」で行うパターンであるが、どれくらいの人数を対応するのかわからず、また受け入れる範囲が広い場合は、その人材にすべての負担がかかり得る。しかしながら、支援はチームで行うものであるため、専任であれば相当な知識と経験のある人材を配置するとともに、チームとして各ケースに対応できるようにしていかなければならない。
昨今、年齢や性別にとらわれない「全方位」支援の政策も増えてきており、ひとを選ばない、誰でも受け止める理念は賛同するものである。一方、それが機能するためには、「多様な専門家が十分な人数配置できる予算」、それが難しければ、「少ない人数でも全方位で対応可能なスペシャリティーの高い人材の確保」。それも難しいなら「個人とチームに対する十分な研修機会」が必要である。
具体的には、開かれたセミナーや研修に参加することに加え、専門性の高い講師または対象属性の当事者など講師を招くこと。そして何より、これから広げていこうとする領域の支援をすでに行っている団体や機関に数か月から一年出向することが早い。行政と民間企業やNPOへの相互出向が進む流れに合わせて、より効率的、効果的に良質な知見を個人およびチームが獲得するためには、先駆的な取り組みをしている場所に身を置くことである。追加的には、専門人材を配置することではなく、すでに専門性をもって活動している個人および組織に“外注”することも非常に効率的である。
3. 新しいKPIの設定
これまで39歳未満の若者やその家族への支援をしてきたことは、この年齢の範囲での支援経験を蓄積しているということである。それはアウトリーチと呼ばれる、情報を届け、足を運んでいただく。または、こちらから足を運ぶケースワークなどを通じて「出会う」までのプロセスである。
アウトリーチがなければ、支援対象者との接点を持つことができない。設定されたKPIが登録者数でも、延べ利用者数でも、就職や進学など進路決定者数(率)であっても、どれくらいアウトリーチができるかによってKPIの達成可能性が変わる。今回のように対象が拡張することは、これまでのアウトリーチの有効性の検証も必要となり、同じKPIの範囲での実績管理は最適とは言えない。そのため、新しい取り組みに対しては、既存KPIとは切り分けた新しいKPIの設定が必要である。
40歳から44歳の若者は、若者支援政策の拡張文脈において、どのような支援コンテンツ、どのようなアウトリーチ、どのような人材がよいのか、をこれから検証するモデル事業であれば、それを明らかにするための新しいKPIを設定していただきたい。
育て上げネットで運営する母親支援の会「結」では、40代以降のわが子のことで心を痛める母親の相談がある。60代から80代となる母親も、わが子の将来を心配している。そこには正社員で働くことや、何らかの形で就労してほしいという”社会が望む”ものばかりではなく、「自分たちの残せる財産の範囲で生きていけるようにするためにはどうしたらいいか」や「わが子がいまの状況でも生活をすることができる制度や政策はないだろうか」というものもある。子どもや若者支援において、家族への支援も通常業務の範囲であるが、年齢を上に広げるということはご家族の年齢も相応にあがるということで、そのニーズも変化することを付け加えたい。