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中谷正義(井岡)が話題のプロスペクト、テオフィモ・ロペス(米国)とほぼ互角の戦いも、惜しくも判定負け

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams / Top Rank

7月19日 

メリーランド州オクソン・ヒル MGMナショナルハーバー

IBF世界ライト級挑戦者決定戦12回戦

テオフィモ・ロペス(アメリカ/21歳/14勝(11KO))

3-0判定(118-110, 118-110, 119-109)

中谷正義(井岡/30歳/18勝(12KO)1敗)

 

米国期待のプロスペクトが思わぬ苦戦

 ジャッジの採点はワンサイドだったが、実際にはほぼ互角の好ファイトだった。

 米国最大級のプロスペクトと呼ばれるようになったロペスに対し、身長で大きく上回る中谷はジャブ、左ボディ、右ストレートで対抗。この日のロペスは動きに切れを欠いた感は否めず、自慢のタイミング良い強打は最後まで爆発しなかった。

 それでも随所に見栄えの良い左フックをカウンターで打ち込んだ21歳は、最後はフットワークも駆使してポイントを確保。「(陣営は)僕が12ラウンドを戦うことを望み、それをやり遂げた。気分は良いよ。自分が王者であるかのように感じている」と試合後のリング上でも強気を保った。これまで7回以上を戦ったことがなかったロペスが、タフネスとフルラウンドを戦い抜けるだけのスタミナを証明したことはポジティブな材料と言える。

 ただ、ESPN+で生配信された初メインイベントで、ロペスは2100人の観衆をエキサイトさせることは叶わなかった。筆者の周囲には、”ドローか中谷の勝利”と採点したものが少なからずいたことも付け加えておきたい。

 コンテンダー対決で多くの課題を露呈し、大きくなる一方だったハイプ(誇大宣伝)も一段落するだろう。野心的な本人もそれに気づいていたに違いない。試合直後こそ前述通りに傍若無人だったが、移動のエレベーターの中では、いつも威勢のいいロペスが結婚したばかりの夫人の肩で泣き崩れていた。

ロマチェンコ戦はどうなるのか

 今回綺麗な勝ち方ができなかった後でも、トップランクは11月の次戦でロペスをIBF王者リチャード・カミー(ガーナ)に挑ませる予定という。182cmというライト級離れした長身の中谷と比べ、175cmのカミーにはやり難さはないはず。それでもガーナ人王者は一撃必倒のパンチャーだけに、気の抜けない試合になるはずだ。

 中谷、カミーの後には、現役最強と称されるWBA、WBO同級王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)との統一戦に臨むのがロペス本人&トップランクのプランだと喧伝された。しかし、中谷戦後、ロペスに近いある関係者は「ライト級ではあと1戦かもしれない」と筆者に述べている。その背景には、まだ身体が大きくなり続けているロペスの減量苦がある。

 4月のエディス・タトリ(フィンランド)戦でのロペスは減量に苦しみ、キャンセルを真剣に考えたほどだったとか。試合直後に結婚したフィアンセの励ましで、何とか踏み止まったというエピソードが残っている。

 その後、栄養士をチームに加え、今回は0.6lbsアンダーと余裕を持ってライト級リミットをクリア。ただ、肝心の動きは精彩を欠き、終了後、メディア対応のためにフロアに降りてきた際には足が痙攣して一時座り込む場面もあった。それらを見る限り、やはりライト級で戦うのは厳しいのだろう。

 そんな状況下で、ロペスと陣営はどんな選択をするか。カミーに勝ったとして、大敗のリスクも大きいロマチェンコ戦を本当に強行するのか。それともライト級であと1戦を戦い、スーパーライト級に新天地を求めるか。おそらくはカミー戦での体調と試合内容次第だが、「The Takeover(乗っ取り)」をキャッチコピーに売り出されてきた新鋭の今後が気になるところだ。

Photo By Mikey Williams / Top Rank
Photo By Mikey Williams / Top Rank

評価を上げた中谷

 「中谷はタフでスキルも備えている。ランキングトップ10に入る選手の多くを打ち破れるだけの実力者だったよ」

 試合後、ロペス陣営のある人間は中谷への賞賛を惜しまなかった。

 無敗のままこの日を迎えた東洋太平洋王者だったが、世界レベルでの実力は未知数で、戦前はロペスKO勝ちの予想が圧倒的に多かった。ある関係者は、匿名を条件にロペスにも油断があったことを認めていた。

 しかし、 MGMナショナルハーバーのリングに立ったのは、技術、打たれ強さ、ハートを備えた世界レベルのファイターだった。特に左ボディが有効で、相手に持ち前の奔放なボクシングを許さなかった。10回には強烈な右ストレートをヒットするなど、ダメージはロペスも大きかったはずである。

 中谷とそのチームは潔く敗戦を受け入れていたが、実際は採点に文句を言ってもおかしくはないほどのクロスファイト。最近は米国内の興行で日本人選手の負けが続いており、ここでも連敗は止まらなかったが、それでも中谷の評価と知名度は間違いなく上がった。中谷本人さえ望めば、トップランクの興行に再びお呼びがかかることも十分あり得るのではないか。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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