「内省」とは何か? そんなに内省しないと自分を発見できないのか?
●「内省」と「反省」の違い
「内省」という言葉を聞いたことがありますか? 「反省」とは少し異なるニュアンスだと私は考えています。反省は「点」であり、内省は「線」ではないか、と思うのです。
反省は、自分がした過去の言動についてかえりみること。「あのシチュエーションで、お客様にあの提案をするのは良くなかった」「先週、上司に一度ぐらいは報告・連絡・相談をしたほうが良かった」といった、個別具体的な事案に関するのが「反省」だと思います。だから「点」だと表現しました。
いっぽう内省は、もう少し長い時間をかえりみることではないでしょうか。「入社してちょうど10年が経過した。本当に自分は会社のために貢献しているだろうか」「子どもが成長して家を出ていった。これまでの夫婦のあり方は正しかったのだろうか。この機会に振り返ってみたい」などと。
反省よりも内省のほうが、長い歴史を振り返るため、かえりみて得ることも「抽象度」が高い内容になるはずです。
反省することで得る内容が、
「お客様の状況を、財務、市場、製品ラインアップの観点でもっと詳しく調査してから提案していたら、我々が作った提案書はもっとお客様の心に響いていたはずだ」
……このような具体的な行動になるのに比べ、内省して得る内容は、
「この20年、自分なりにお客様と向き合ってきたつもりだが、まだまだ足りないと思う。誠心誠意、真心をもってお客様のために心を尽くそう。明日からまたゼロからのスタートだ」
という自分の考え方や価値観を改めることです。内省とよく似た言葉で「内観」という表現もあります。どちらかというと、内省よりもさらに自分の深い部分にアクセスし、「自我」とは何か? 自分が本当に大切にしているものは何なのか? を問い掛ける行為と言えるでしょう。
● キャリアコンサルタントが使う「内省」は必要か?
私は現場に入って、目標を絶対達成させるコンサルタントです。年間の売上や利益目標を達成させる支援をしていますから、どちらかというと「線」というより「点」で物事を考えてもらいます。
「お客様に真心をもって接するようにします」
という抽象的な心構えを宣言してもらうのではなく、
「月に1度、お客様に定期接触し、3つの事柄の情報収集を続けます」
といった具体的な行動をしてもらうのです。精神論ばかりだと、成果につながる行動かどうかの検証ができないからです。
自分のキャリアデザインをする際に、よく使われる言葉が「内省」です。キャリアコンサルタントが言う「十分な内省に基づくキャリアプランを作成しなければなりません」は常套句です。
自分の価値観と他人の価値観は異なる。自分は何が好きなのか、何を大事にしているのか。何を許せないと思っているのか……。他人の価値観があたかも自分の価値観と同じだと受け止めると、他人の思考にひきずられてしまう。だからしっかりと時間をかけて「内省」すべきだ。
自我、自分自身の価値観、自分が大切にしているもの……などは、自分特有のものであり、何が自分らしさなのか、自分の深い部分に問い掛けてみないと、自分でもわからないはず。
「本当の自分」を発見しないことには、自分のキャリアを見間違えてしまうから――。これがキャリアコンサルタントたちの発想です。
その通りだと私も思います。私も内省をしたことがありますが、とても良い経験となりました。ただ、こうも思いました。「内省を通じて得られることは、誰もがほぼ同じである」ということです。
●若者に「内省」は必要ない
どんなに個別具体的な事柄でも、抽象度が高ければ高いほど、同じような意味合いに収束していくものです。東京にいようが、名古屋にいようが、ニューヨークにいようが、上海にいようが、バクダッドにいようが、高いところへ高いところへと到達すれば、出発点はどこであろうと、青い空に向かっていくのです。
どんなに内省を繰り返しても、内省して見つかる「本当の自分」「自分だけの価値観」というものは、多くの人が期待しているような自分にしかないものではなく、誰もが同じようなものになるはずなのです。
特に、仕事に対する価値観は、それなりに10年、20年働いていれば、だいたいが同じになるものです。少しぐらい曲がっていても、たわんでいても、「線」は長ければ長いほど、同じようにまっすぐな「線」を描くものです。
意識すべきはお客様の価値観です。価格が安いものを好むのか、それとも価格よりも性能を優先するのか、快適さを求めるのか、機能性を追求するのか……こういった「お客様の価値観」は、事業を行ううえで常日ごろから考えておくべきです。
長く働いていない若者に「内省」する意味はありません。労働に費やした歴史、つまり「線」が短すぎるからです。すべきことは、日ごろの仕事の振り返り……つまり「反省」です。社会に出たばかりの若者にキャリアデザインの研修は早すぎることが多いので、気を付ける必要があります。