「代行輸送は行いません。」 列車運転不能時の鉄道会社の取り扱いについて
今夜からこの冬最大級の寒波の襲来による大雪の予報が出ています。
交通機関の乱れや運転中止などが予想されていますが、列車が運行できなくなった場合に鉄道会社はどのような対応を取るのか。またその場合の補償はどうなっているのか、簡単にまとめてみました。
まず、鉄道会社は旅客営業規則というのを定めています。これは国鉄時代から続くもので各社によって若干の違いはあるものの、基本的にはだいたい同じような内容で、列車が運行不能となった場合に次のような取り扱いをすることになります。
1)切符(運賃・料金)の払い戻し
2)有効期間の延長
3)出発地までの無賃送還
4)自社線内他経路乗車
5)別途旅行(自社線以外を利用しての旅行)
1)は所持している切符を払い戻す規定です。通常切符の払い戻しには所定の手数料が課されますが、この場合は手数料無料で払い戻しとなります。
2)有効期間の延長については運転不能となった期間分の有効期間を延長するもので、当日限り有効の乗車券でも運転再開後に使用できるようにしたり、定期券の期間延長などが含まれます。
3)旅行を開始して途中まで来た段階で運行不能となった場合、旅客の希望に応じて出発駅まで無賃で送還します。
4)例えば東京から青森へ行く場合、東北本線の乗車券でより距離の長い羽越本線や奥羽本線を経由して旅行することができる取り扱いです。
5)別の交通機関を利用して旅行する場合。
例えば東北本線の郡山ー福島間で輸送障害が発生している場合、東京から仙台までの旅客が郡山ー福島間を別の交通機関(バスなど)で福島に向かい、福島から鉄道旅行を再開する等が該当しますが、この場合は郡山ー福島間に相当する金額が払い戻しになります。(バスなど「別途旅行」の費用負担はありません。)
列車が運行不能になった場合には、鉄道会社は以上のような取り扱いとなりますが、逆に言うと、旅行途中で足止めを食らったり、自宅に戻れなくなったりした場合でも、ホテルや食事の手配など、通常運転ならば発生しなかった費用はお客様ご本人のご負担となり、運送約款上は補償されるものではありませんのでご注意いただきたいと思います。
振替輸送について
鉄道会社は列車が運転不能となった場合にはその区間の切符(乗車券類)の発売を停止します。
上記1)~5)の取り扱いはすでに切符を持っている人に対して適用されるものであり、切符を持っていない人には適用されませんので、迂回や他経路乗車など、列車が通常運転していれば掛からなかった余計な費用が掛かったとしても、お客様の請求に応じることができません。
すでに乗車券をお持ちの方で旅行を開始されていらっしゃるお客様については、目的地までの迂回乗車の一例として、他社線やバスなどの他の交通機関を利用することが一部区間で認められます。
これが振替輸送と呼ばれるもので、運転不能となった駅からバスで他社線の駅まで向かい、そこで他社線に乗り換えて本来の目的地へ向かうなど、別途迂回分の運賃を支払うことなく所持している乗車券でそのまま他社線、あるいは他の交通機関に乗車して本来の目的地へ向かうことができます。
振替乗車は鉄道会社やバス会社などであらかじめ契約が定められている会社や区間のみ適用になりますので、たとえ並行する他の鉄道路線やバス路線があったとしても、会社間で振替輸送契約を取り交わしていない場合は適用になりません。振替輸送をするかどうかは鉄道会社の判断によりますので、旅客が勝手に自分の意志で迂回乗車をすることを振替輸送とは言いませんのでご注意ください。
また、IC乗車券などは入場した段階では目的地が定められておらず、会社と旅客の間で運送契約が結ばれたと考えることができないため、一部を除いて振替輸送の対象とはなりません。
あくまでもすでに切符をお持ちの方、つまり、運転不能時に運転不能区間を経由して目的地までの運送契約が締結されている方のみが振替輸送の対象となりますので、旅行(目的地までの移動)をしようと思って駅へ行ったら運転していなかった場合などは振替輸送の対象にはなりません。
その場合の迂回乗車に関しては本来の迂回区間の運賃料金はお客様ご本人の負担となります。
青春18きっぷなどのフリー乗車券類に書かれている「運転不能時の払い戻し不可」といったご案内は、目的地が定かでありませんので当該区間に関して運送契約が締結されていないという扱いになると考えることができます。
旅客救済について
すでに旅行開始後のお客様については、目的地へ到着できるよう最大限の努力をしますが、列車が途中で運転を取りやめた場合などは、上記1)~5)の取り扱いが適用となります。
ただし、乗客が駅や列車内で足止めになっている場合は、救済処置としてバスやタクシーによる輸送や宿泊の手配(列車内宿泊など、いわゆる列車ホテルを含む)などを行う場合があります。
救済措置はあくまでも人道上の対応策であり、運送約款上定められているものではありませんが、鉄道会社は最大限の努力をします。
ただし、乗車券をお持ちでない方(運送契約を締結されていない方)についてはこの限りではありません。
「駅へ行ったら列車が動いていなかった。どうしてくれるんだ。」というクレームに対して費用負担や輸送手配などは行いませんのでご了承ください。
代行輸送について
昨今、列車が運行不能となった場合等で駅構内の掲示板や各社のホームページで「代行輸送は行いません。」と表示されているのを見かけます。
この代行輸送というのは振替輸送と基本的な部分で大きく異なります。
振替輸送はすでに旅行を開始されていらっしゃる方が途中で足止めされた場合などの救済策であるのに対して、代行輸送というのは列車が運転不能になっている区間をバスなど他の交通機関で補完して運転するということになります。
通常、代行輸送が行われる場合、鉄道会社はこの区間が開通したと見なして乗車券の発売を再開します。
これが代行輸送であり、バスで行われる場合はバス代行として列車に準じた扱いとなります。
これが振替輸送と代行輸送の大きな違いであり、鉄道会社が「代行輸送は行いません。」と表示してあるのは、「この区間は開通しませんのでご旅行は中止してください。」という《旅行中止の慫慂(しょうよう:お勧めすること)》であるとご理解いただきたいと思います。
昨今の状況
近年、局地的な豪雨や豪雪が短時間で発生することが多くなってきました。鉄道会社では途中で運転できなくなった列車の中にお客様が閉じ込められるなどの事象を防ぐため、あらかじめ悪天候が予想されるときなどでは早めに列車の運転を取りやめる決断をすることも多くなっています。
テレビなどで「不要不急の外出は避けてください。」と言っているのは、出かけたものの帰ってくることができなくなるなど、天候の急変による交通機関の乱れに対応するためのご注意とご理解いただければと考えます。
本来動くはずの鉄道やバスが運転中止となった場合、迂回乗車や宿泊などお客様負担となる余計な費用が掛かるのはもちろんですが、身の安全の確保という点からもお客様ご自身に大きなリスクが発生します。
今夜から全国的な悪天候が予想されますので、皆様十分にご注意ください。
※本文は旅客営業規則(運送約款)から抜粋したものを一般の皆様方にわかりやすく解説したものです。一部文言に関しては言い方を変えて表現している部分があります。
また、旅客営業規則はおおむね各社共通となっていますが、IC乗車券の取り扱いや振替輸送の対応など、会社によって異なる部分があります。詳細に関しては各社の旅客営業規則、運送約款にてご確認ください。
参考 JR東日本の旅客営業規則