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【東京都台東区】11/4迄!上野・国立科学博物館の企画展「高山植物」で「高嶺の花」に思いをはせる

デヤブロウ街歩きWebライター(東京都台東区)

 この記事では国立科学博物館にて開催中の企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」を紹介いたします。
 「高嶺の花」は「自分には縁遠い憧れの対象」といった意味の慣用句ですが、もともとは山を彩る高山植物のこと。この企画展では、普段はお近づきになりづらい高山植物達の独特な姿・生態を手軽に見学できます。11月4日(月・休)まで開催されているので、高地や山間部への旅行前に訪れてみてはいかがでしょうか。

◆科博で山登りと高山植物観察を疑似体験

企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」ポスター①
企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」ポスター①

 企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」は、過酷な環境下で生きる高山植物の独自の生態、日本の高山植物の特色、日本国内での研究の歩み、環境問題と保全活動、高山植物のおすすめ観察スポットを幅広く紹介。全5章に分かれて、それぞれのテーマに基づいた展示が行われています。

 来場者は、植物がいかにして厳しい自然環境に適応しているのか、その研究と保全活動の重要性についても深く理解できる内容となっています。

 会場内は高山の通行路やログハウスやビジターセンターに似せたインテリアになっており、そのあちこちに高山植物のアクリル樹脂標本や模型がセッティング。さながら実際に高山を登って植物観察をするような疑似体験ができます。

◆寒い&貧しい&風強いのギリギリ過ぎる環境に適応した植物

 第一章「高山植物とは」では、導入として高山植物の定義や特徴が解説されます。

 高山植物の定義はやや曖昧な点もありますが、狭義では高木が育たず森林を作れなくなる標高(森林限界)を超えた場所に生育する植物群のこと。低温&強風&乾燥&紫外線&土壌貧弱という五重苦の極限環境で生き抜くために、特異な形態や生態を進化させてきました。

 例えばコマクサチシマギキョウといった代表的な高山植物は、風の影響を最小限に抑えるため背丈を抑え、逆に根を非常に深く張る特徴を持っています。特にコマクサの根は、なんと1メートル程に達するとのこと!

コマクサ(写真:国立科学博物館)
コマクサ(写真:国立科学博物館)

 また、本体の茎・葉はコンパクトでありながら、花部は外へ目立つよう大きく発達。これが高山植物の華やかさを演出するとともに、限られた生育期間の中で昆虫たちを惹き寄せて受粉するための戦略ともなっています。

 加えて、高山植物の多くは多年草。冬期は地上部を枯らしつつ根に栄養を蓄え、次の年に再び芽を出す準備をしています。強風や雪の重みに耐え、寒冷地特有の厳しい環境にも適応すべく、幾重もの生存戦略がなされているのです。

 こうして高山地帯に多様な生態系を築いてきた高山植物も、現在はその多くが減少・絶滅の危機に晒されています。それは同時に、高山植物と共生するライチョウやウスバキチョウといった鳥類・昆虫も危機に陥るということ。こうした問題は第四章で深堀り解説されます。

◆山ひとつ隔てたら高山植物の種類が様変わり

 第二章「日本の高山植物の多様性」では、南北に長く起伏に富んだ地形と多様な気候を持つ、日本列島独自の高山植物が紹介されます。

 日本列島の高山植物は数万年前~1万年前の氷河時代に大陸から移動し、その後の温暖化によって列島に取り残され、現在の形に進化したと考えられています。北海道から本州中部にかけて、多くの固有種が見られるのはこのためです。

 また、日本は数多くの高山が群島のように点々としているので、平地~低地が温暖になるに伴って高山植物が高地~山頂に取り残され、山ごとに別々の固有種として細分化した例も少なくないそうです。

キタダケソウ(写真:国立科学博物館)
キタダケソウ(写真:国立科学博物館)

 例えば山梨・長野県境にある八ヶ岳ツクモグサという固有の絶滅危惧種が生育しておりますが、そこから近い北岳にはキタダケソウといった固有種が見られ、距離はさほど離れていないにも関わらず植生は大きく変化。こうした多様性の豊かさも日本の高山植物の魅力と言えます

 また、展示では高山植物の地質学的な関わりも示され、石灰岩や蛇紋岩といった特殊地質に特有の高山植物が紹介されています。気候変化に地質にと様々な条件と偶然が合わさって、日本列島は多様な高山植物を育むようになったのです。

◆明治の偉人達が支えた日本の高山植物研究

 第三章「高山植物の研究」では、日本における高山植物研究の歴史と現在について紹介されます。

 明治時代より、数多くの研究者達が日本国内でフィールドワークや標本収集に励み、日本の高山植物への理解を深めるべく励み続けてきました。とりわけ、札幌農学校の教授や北海道大学植物園の初代園長を務めた宮部金吾(みやべ・きんご)氏の功績は偉大です。

 宮部氏は米ハーバード大学に留学して学位取得したほか、学術的に「高山植物」という単語を初めて用いた人物として知られ、宮部氏の功績によって日本の高山植物研究は本格始動したと言えるでしょう。

 ほかにもロシアの植物学者マキシモヴィッチ氏をサポートした須川長之助(すがわ・ちょうのすけ)氏、白馬岳や八ヶ岳などさまざまな山域で調査を行った志村烏嶺(しむら・うれい)氏など、明治時代には多くの優れた研究者が現れました。

 NHKの連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルとなった牧野富太郎(まきの・とみたろう)氏が活躍したのもこの時代です。こうした偉人達の成果を礎に、日本の高山植物研究は発展してきました。

 近年ではDNA解析の導入や海外との共同研究が進み、以前は同じ種とされてきた植物の微細な地域差、進化の過程が明らかにされつつあります。同じ種でも北海道と本州中部で形態や遺伝子に違いが見られる場合があるなど、高山植物の種分化は、今後より一層の解明が進みそうです。

◆高山植物へ吹き付ける逆風に科博が立ち向かう

 第四章「高山植物の現状と多様性を守る取り組み」では今まで解説された高山植物を取り巻く危機的な現状と、その対策について紹介されます。

 地球温暖化や気候変動、シカなどによる食害、繁殖力の強いササ類などの侵食、人間による踏みつけや乱獲…現在さまざまな要因によって、日本の国内外で数多くの高山植物が消滅寸前の状況に立たされています。

 例えばコマクサは独特な形態と美しい花が観光客にも人気ですが、環境の変化に対して非常に脆弱であり、無許可での盗掘や環境破壊によって生息地が減少しています。メアカンキンバイなども同様に、特定山域に限られている生息地が荒廃することで、種全体の存続が危ぶまれている現状です。

 近年ではとりわけシカによる食害がひどく、元々は高山植物の豊かな植生を育んでいた区域が、シカに植物を食べ尽くされて地面が露出するほど荒廃してしまう事例も珍しくないのです。

 こういった現状に対して、この章では高山植物を守るための保全活動がどのように進められているか、及びその課題についても詳しく説明されています。現在行われている施策は植生回復用のネット敷設、防鹿柵の設置、盗掘防止のパトロール、植生モニタリングなど様々。それでも高山植物の減少は続いているため、今後はより効果的な対策の検討・試行や法律整備、一人ひとりの意識啓発などが求められています。

 また、国立科学博物館は筑波実験植物園などで、希少種や野生絶滅種の種苗を数多く保管しています。こうした種の野生再導入に向けた栽培・研究・技術開発なども進められているので、日本の高山植物保護に対して科博が果たす役割は大きいものだと言えます。

◆自然に優しく、安全で楽しい山歩きを

 高山植物を守るためには私たち一人ひとりが高山植物に触れ、よく知ろうとすることが重要。最後の第五章「高山植物の楽しみ方」では、高山植物を観察するためのおすすめの場所や時期、そして観察時に注意すべき点が紹介されています。

 北岳や白馬岳、八ヶ岳などの山域では、夏から秋にかけて多くの高山植物が花を咲かせるため、この時期に訪れるのが最適。高山植物は非常にデリケートで人間活動による影響を受けやすいため、観察時には植物を傷つけないように注意し、トレイルを外れて歩かないことが求められます。展示では、こうした注意点が実例とともに説明されています。

 展示では山歩きの際に推奨される衣服や道具、観察用のカメラ、救急セットなども紹介されています。

 山歩きと高山植物観察は可能な限りリスク回避に注意しながらも、適度にリラックスして楽しく行いたいもの。夏~秋に山に行く予定がある、もしくは行ってみようか考え中という方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

◆高山植物を「高嶺の花」のままとしないために

 第五章の最後は高山植物と文化・芸術の関わりについてのコーナーになっています。

 高山植物をあしらった切手とその原画、高山植物や山について深く知るための書籍が展示されていました。

 今秋以降は高山植物に関するバーチャル企画展も開催されるそうです。本展で高山植物について関心を深めた方は触れてみても良さそうですね。

 企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」は、高山植物の多様性と、その保全の重要性を学ぶ場として非常に貴重な企画展です。

 「どうせ高嶺の花だから」「自分に関わりのないことだから」と思わずに見学してみれば、高山植物のことを「これからも綺麗に咲き続けてほしい」と応援したくなるかも知れません。

企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」ポスター②
企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」ポスター②

企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」
【開催期間】2024(令和6)年7月30日(火)~11月4日(月・休)
【開催場所】国立科学博物館(東京・上野公園)
      日本館1階 企画展示室、中央ホール(~9月1日(日))
【開館時間】9時~17時 ※入館は閉館時刻の30分前まで
【休館日】月曜日 ※月曜日祝日の場合は火曜日
 ※8月5日(月)・13日(火)・19日(月)・26日(月)、10月7日(月)は開館
【入館料】一般・大学生630円(団体510円) ※常設展示入館料のみで可
【所在地】東京都台東区上野公園 7-20
【最寄駅】JR上野駅・公園口から徒歩5分
【電話番号】050-5541-8600(ハローダイヤル)
【リンク】企画展ホームページ

街歩きWebライター(東京都台東区)

カフェ・居酒屋探し、博物館・美術館見学、銭湯巡りや寺社探訪など、都心部の街歩きが大好き!特に都内で暮らし始めた頃に住んでいた浅草近辺、博物館・美術館が沢山ある上野界隈など、台東区内を月に2~3回は散策しています。東京23区でも面積最小ながら、歴史と見所が詰まった台東区の魅力を積極的に発掘・発信していきます!

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