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インディーゲーム「エレマスタ」 体験版の概念を変える創意工夫 悩みを逆手に

河村鳴紘サブカル専門ライター
Steamの「エレマスタ」紹介ページ

 個人や少人数で開発するインディーゲーム「エレマスタ」(Steam、2025年発売予定)の体験版が19日から配信を開始したのですが、何度も繰り返し遊べるようになっていて、従来の体験版の概念を変えるユニークな作りになっています。15分間の制限時間付で、得点を競う「スコアアタック」の方式になっているためです。

 「エレマスタ」は、細やかなドット絵(2D)で表現された世界を冒険するオープンワールドのRPG。目的は「ボスを倒すこと」だけで、自由に遊べるのが特徴。仲間になるキャラクターは350人以上、武器・防具は約3000種、モンスターは800体以上。ゲーム内の各地にさまざまなイベントが仕掛けられています。

「エレマスタ」のフィールドの画面。いろいろなギミックがあちこちにあります=小林さん提供
「エレマスタ」のフィールドの画面。いろいろなギミックがあちこちにあります=小林さん提供

 同作は、数々の人気ゲームの制作にも関わり、「ドット絵デザイナー」として活躍している小林光さんが制作。小林さんによると、ゲームの構想自体は20年前以上前からあり、開発は約5年前からしているそうです。なお体験版の発表後もすぐバージョンアップするなどしています。

・FF、ドラクエの古き良き「思い出」を超えろ――絶滅危機を乗り越え、再注目されるドット絵(Yahoo!ニュース オリジナル)

 エレマスターの体験版は、近年人気のRTA(リアルタイムアタック、実際の時間でゲームを早解きを競う遊び方)をイメージさせるような方式です。宝箱を開ける、仲間を加える、クエストの達成などが得点として反映され、15分間を経過すると総得点が表示される仕組み。戦闘時にも「残り時間」が減っていきます。RPGですが時間制限があるため短時間で遊べ、操作感も良く、それでいてイメージ以上に遊べてしまうことに驚かされます。

「エレマスタ」の町の画面。あちこちにクエストが発生。
「エレマスタ」の町の画面。あちこちにクエストが発生。

 従来の体験版というと、一度遊ぶと終わりになりがちですが、今回の場合は高得点を目指して繰り返し遊べます。実況動画でも受けそうなシステムで、SNSでの拡散を誘引する設計になっているのもポイントでしょう。体験版なのに単体のゲームとして完成している感すらあります。タイムスコアアタックを組み込むきっかけは、小林さんが「(リアルの)イベント出展で、RPGはずっと遊べてしまうから、展示に向いてないので何とかしたい」と思ったことで、「ひらめき」だそうです。

 インディーゲームは、自由に制作できる反面、資金力(マンパワー)などの問題もあって完成しないことが多く、さらに完成したとしても、多くのゲームの中から、遊んでもらうためのきっかけ作りに苦労します。任天堂やソニーも認知度アップのために支援していますが、なかなか大変なのです。

「インディーゲームの企画ができて、完成までこぎつけられる割合は?」という質問に、一條さんは「iGiのような支援プロジェクトと契約する前で、チームで作るというのであれば、完成するのは1%ぐらいでしょうか」と答えました。クリエーター同士の価値観がぶつかって分裂したり、資金不足などまちまちです。実際に同様の話は取材時に聞いたことがあります。

・日曜劇場「アトムの童」に登場する「インディーゲーム」とは(Yahoo!エキスパート 河村鳴紘

 ですが泣き言を言っても何も変わるわけではありません。メディアへの売り込みもそうですし、SNSでのバスりも含めて、話題になる確率をいかにして上げるかの工夫も必要です。そして自分の大切なゲームのために何かできることはないかを突き詰め、従来の「当たり前」を疑うことで、体験版の概念を変えるようなユニークなゲームに仕上がったわけです。インディーゲームの抱える「悩み」があるからこそ、生まれたユニークな体験版なのかもしれません。

「エレマスタ」の戦闘画面。仲間次第では驚くような攻撃も飛び出したりします。
「エレマスタ」の戦闘画面。仲間次第では驚くような攻撃も飛び出したりします。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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