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失われたミドルゾーンに、露呈する守備の脆さ。バルサに必要な「中盤」の蘇生。

森田泰史スポーツライター
スアレスにスルーパスを送るメッシ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

バルセロナの歯車が、狂い始めた。

リーガエスパニョーラで3試合連続で勝利から見放された。バルセロニスタが不満を募らせるのも、当然だろう。

ネイマールの移籍騒動があった昨年夏に比べれば、この夏は冷静に準備に取り組めたはずだ。それにもかかわらず、リーガの序盤戦の成績は昨季を下回っている。

■連勝と失点数

昨季のバルセロナが、シーズンを通じてリーガで敗戦を喫したのは、たった一度だ。初めて敗れたのは第37節レバンテ戦(4-5)だった。だが今季に関しては、第6節レガネス戦(1-2)で早々と土をつけられている。

昨季、エルネスト・バルベルデ監督率いるチームはリーガ開幕から6連勝を飾った。これはジョゼップ・グアルディオラ監督が2009-10シーズンに達成した記録に並ぶものだった。

そのバルセロナを支えたのは、強固な守備であった。38試合で29失点、1試合平均失点数0,76失点という失点数の少なさで、大崩れしないチームが作り上げられていた。

今季はすでに開幕から6試合で7失点を喫しており、昨季のバルサが第18節終了時点で7失点だった事実から、現在のチームはディフェンス面に難があるとされている。

■本当の課題は

だが数字だけを追えば、本当の課題は包み隠される。バルセロナの問題は守備陣ではない。中盤にあるのだ。

今夏、アンドレス・イニエスタが、チームを去った。それだけではない。パウリーニョも広州恒大への復帰を決めた。

キャリアの円熟期を迎えていたイニエスタは、バルベルデ監督の下で本来の姿を取り戻した。そして昨年の夏に、バルベルデ監督の要望で獲得したのが、パウリーニョだった。バルベルデ監督がパウリーニョに望んでいたもの、それは得点力とフィジカルである。もっと具体的に言えば、「2列目の飛び出し」と中盤を広くカバーする「運動量」だ。

まるでフリーマンのように、リオネル・メッシとルイス・スアレスに代わり、最前線に出てくる。パウリーニョに気を取られれば、メッシやスアレスのマークが薄くなる。シーズン終盤に近づくにつれてゴールから遠ざかり、パフォーマンスに波があったパウリーニョだが、リーガで9得点を記録してチーム3番目の得点者となったことからも、十分に役割を果たした。

指揮官を満足させるべく、クラブはアルトゥール・メロとアルトゥーロ・ビダルを獲得した。単純に考えれば、アルトゥールがイニエスタの、ビダルがパウリーニョの後釜だ。ただ、バルセロナのプレースタイルは独特である。現時点で、彼らがバルサのメカニズムを理解しているようには見えない。

彼らが出場した試合では、中盤の距離感が非常に悪い。バルサのインテリオール(インサイドハーフ)は、攻撃時に「中途半端なポジショニング」を取らなければいけない。セルヒオ・ブスケッツのパスコースを遮断してくるチームに対しては、なおさらだ。アルトゥールとビダルは、ボールを受けるために下がってきてしまう。時に、ブスケッツと同じラインまで下がり、ダブルボランチの形を採る。これではCBを含めたビルドアップが上手くいかなくなり、悪循環に陥ってしまう。

もうひとつ、戦術的な側面から見ると、気掛かりなのはメッシとジョルディ・アルバの関係性だ。アルバは昨季、公式戦11アシストを記録。キャリアハイの数字だった。「偽ウィング」として、輝きを取り戻した。

しかし、今季はここまでアルバのメッシに対するアシスト数はゼロである。そして、これは、システム変更の「弊害」だとも言える。4-4-2を敷く場合、2トップが右サイドに向けて寄った時、左サイドに膨大なスペースが空く。意図的にその状況を作り出して、そこにメッシからのスルーパスが出る。深い位置に入り込んだアルバの折り返しのパスをメッシがフィニッシュする。対戦相手は、分かっていても止められなかった。それは、昨季アルバのアシストにより8得点を挙げた、メッシの決定力が証明していた。

■システムへの適応

バルベルデ監督は昨季、4-4-2を採用していた。ネイマールの退団により、「苦肉の策」としてこの方法を選んだ。彼はエスパニョール、アスレティック・ビルバオ時代から4-4-2を拠り所としていたのだ。だが禍(わざわい)は転じて福と為した。バランスの取れた布陣でプレッシングを強化したバルセロナだからこそ、失点を最小限に抑えられた。

しかし、今季は違った。ウスマン・デンベレとフィリペ・コウチーニョの適応期は終わりを告げ、従来のシステムである4-3-3を使うべきだという、メディアとファンからの期待と重圧が表れた。故ヨハン・クライフが提唱したこの布陣で、バルセロナは数多のタイトルを勝ち取った。バルサのカンテラでは、この布陣における必要要素が叩き込まれる。4-3-3というシステムは、クラブの基本理念に深く根付いているのだ。

シャビ・エルナンデス、イニエスタ、ブスケッツの黄金の中盤は、いまや過去の話だ。バルベルデ監督はシステムを4-4-2に戻すべきだろう。しかし、常勝に慣れたバルセロニスタが、それを許容するかは定かではない。

昨季は、開幕から連勝を続けて波に乗り、バルベルデ監督に決定権が与えられた。今季は、それとは真逆の展開となっている。逆境を跳ね除け、新たなバルサが創造されるのかーー。そのためには、中盤の「蘇生」が必要不可欠だ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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