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久保建英は東京五輪世代を世界へ導けるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
日本代表でも活躍を見せる18才の久保建英(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

―誰にサッカーを教わりましたか?

 世界最高のサッカー選手、リオネル・メッシはその問いにこう答えている。

「誰にも教わったことはないよ。気付いたときにボールを蹴っていた。ボールを蹴るのが好きだった。それから仲間とボールを蹴るのに夢中になって・・・ここまで来た」

 一流サッカー選手で、教わった者はいない。自ら楽しみ、没頭し、鍛える。それが、このスポーツの真理だ。

 一つ言うなら、同じような仲間の存在、の影響は色濃く受ける。味方であれ、敵であれ。ピッチの上で共に戦い、もしくは勝負を挑む戦友と鎬を削ることで、強くなるのだ。

 それ故、サッカー界には通説がある。1999年ワールドユース(現在のUー20W杯)で準優勝した"黄金世代"もその一つだろう。

「優秀な選手はそれぞれ揉まれ合い、世代ひとかたまりで出てくる。そこには必ず旗手となるべき選手がいる。この選手を倒したい、共に戦いたい、と思うような」

 1997年以降に生まれた東京五輪世代も、その例に漏れない。

不利な状況でも、技術を出し切れる久保

 東京五輪世代では、2001年生まれと年少の久保建英が抜きん出た存在であることは間違いない。

 久保は技術的な部分だけでなく、メンタル面で他を凌駕している。

 18才の彼が浴びている注目の度合いは、まるで化け物と対峙しているようなものだろう。ところが、久保本人はそれをいとも簡単に飼い慣らしている。これだけ報道が集中しても、ストレスがほとんど見えない。むしろ、心地よいほどのふてぶてしさを見せる。

 5月12日、ジュビロ磐田戦だった。久保は終了間際の劇的なボレー弾で、土壇場でチームに勝利をもたらしている。17才の選手だけに、興奮で頭が真っ白になってもおかしくはない。しかし彼はゴール直後、その日の試合ゲストに来ていた芸人のポーズをし、「クラブの営業を助ける」ほどの余裕があった。

 プレッシャーに潰される懦弱さはない。久保はどんな局面でも、持っている技術を出せる。むしろ、不利な状況ですべての技術を出せるのだ。

「チームが劣勢のとき、リミッターが外れるというわけじゃないけど、するすると抜けるときがある」

 久保はコパ・アメリカのチリ戦後に語っているが、チームが良いときだけでなく、悪いときに、本来のパーソナリティを見せられる。その点で、突出した選手と言える。

 もっとも、0-4で敗れた試合だけに本人は怒っている。

「ひどい経験だった。厳しい負け。借りは返したい。股抜き? そんなの決まっても、負けたならなんの意味もない」

 スペイン語の問いかけに、流暢に応対している。敗北を憎む。勝者のメンタリティだ。

荷車を引く、王者の資質

 グループリーグ最終戦、勝利が勝ち抜く条件だったエクアドル戦でも、久保は熱く、冷静にプレーしている。先制点の契機を作ったのは、迅速で正確なパス出しだった。そして終盤にも、味方へ立て続けに決定的パスを送っている。

 勝ちきることはできなかったが、久保は最後までチームを牽引していた。

「TIRAR DEL CARRO」

 スペイン語で、リーダーシップはそう表現される。「荷車を引く」。重い荷を背負いながら、足を踏み込んで車輪を動かし、前に進ませられるか。その責任感と力強さを表している。

 久保は、まさに時代を切り拓く逞しさを見せる。

 そもそも、世界王者レアル・マドリーが久保に興味を示したのは、その"王者の資質"にある。

「所属するチームを、自らの力で勝利に導いているような選手だけが、マドリーの一員となれる」

 マドリーはそうした信条を持ち、チャンピオンプレーヤーだけを集めたチームだ。

 その王者に迎えられた久保の存在に、同じ世代の選手たちが触発されている。

久保へのライバル心

「久保建英には負けていられない」

 久保と同じ東京五輪世代の選手たちのインタビュー証言に、その対抗心は如実に表れている。これだけ世間が大騒ぎをすれば、必然的に巨大な熱が生まれる。欧州に渡って活躍し、日本代表に入っていた堂安律や冨安健洋をも巻き込み、久保と同世代はひとつのうねりを作りつつある。

 コパ・アメリカでも、東京五輪世代は南米の強豪を相手に対等に近い戦いを示している。ポジション別に見た場合、まだ代表のレベルに達していない選手もいた。しかし大会を戦う中で、成長を示している。

 ウルグアイ戦、2ゴールを決めた97年生まれの攻撃的MF三好康児はその一人だろう。右サイドで俊敏さとスキルの高さを見せつけ、敵に脅威を与えていた。久保の影に隠れてきたが、現時点での成熟度は引けを取らない。今シーズン、首位争いする横浜F・マリノスでも異彩を放っている。鹿島アントラーズ所属で、99年生まれの攻撃的MF安部裕葵も、ゴールに近づくにつれ、凄みを見せていた。ウルグアイ戦は岡崎慎司とのコンビネーションで、際どい形を作った。両足が使えるのも魅力で、左からのクロスから岡崎の頭に合わせたシーンなど特筆に値し、久保のパスを受けての上田綺世への折り返しも、感性の豊かさを示していた。

 久保、三好、安部らのポジションは、ロシアW杯では乾貴士、原口元気、香川真司が任されていた。その活躍は記憶に新しいが、世代の突き上げは激しい。ロシアW杯後に定位置をつかんだ中島翔哉、南野拓実も、少しも安穏とできない状況だ。

競争が選手を覚醒させる

 久保のように、スキルと俊敏性を併せ持った日本人アタッカーが、かつてない"豊作”を見せている。

 例えば、コパ・アメリカと平行して行われたJリーグでは、ガンバ大阪の新鋭FW、食野亮太郎が非凡さを披露していた。ボールコントロールに優れ、ドリブルをするときの安定感は抜群で腰が強く、左右どちらでも勝負でき、シュートの振りも速い。湘南ベルマーレ戦では交代出場後、たびたびシュートに持ち込み、終了間際にマーカーを前にシュートコースを作ると、GKの手が届かない位置に決勝点を蹴り込んだ。

 98年生まれの食野も、台頭の予感が漂う。

 2020年開催の東京五輪に向け、注目度は否応なく高まる。各自、切磋琢磨は続くだろう。日韓W杯が行われた2002年生まれでは、セレッソ大阪のアタッカー、西川潤が飛び級でUー20W杯に出場するなど、久保の後の年代でも続々と人材は出てきている。その競争は、代表の強化にも結びつくはずだ。

<久保世代>

 そう語られる日が来るのか。

 競争は選手を覚醒させる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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