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「バイオハザード」を終わらせるのは「もうやめればと言われる前に、惜しまれて去りたいから」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「バイオハザード」のポール・W・S・アンダーソン監督

「バイオハザード」シリーズが、今週末公開の「バイオハザード:ザ・ファイナル」で、ついに完結する。日本のビデオゲームにもとづくこの映画は、2002年、インディーズ映画としてスタートし、2作目からはソニー・ピクチャーズが全世界配給するスタジオ映画となって、6作も続く人気シリーズに成長した。

筆者が初めてポール・W・S・アンダーソン監督に会ったのは、1作目の日本公開前だ。主演女優ミラ・ジョヴォヴィッチのインタビューでニューヨークのホテルの部屋にいたところ、当時すでに彼女とつきあうようになっていたアンダーソンが、彼女を訪ねてきたのである。

その時、ジョヴォヴィッチは、ふたりともゲームの大ファンであることも、すぐに意気投合した理由だったと述べていた。2007年、ふたりは長女エヴァーちゃんをもうけ、その2年後には正式に結婚。昨年は次女を授かっている。この間、ふたりは、「バイオハザード」のほかに「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」でも組み、ハリウッドの黄金コンビとして認識されるようになっていった。

シリーズ5作目「バイオハザードV:リトリビューション」のトロントの撮影現場で、アンダーソンは、「今から6作目の話をするべきじゃないんだが」と前置きをした上で、「この5作目は、終わりの始まりなんだ。次で最後になる。5作目と6作目は、二部作みたいな感じなんだよ」と明かしてくれていた。本当にその言葉を守ったアンダーソンは、今、ひとつのキャリアの節目を迎える。映画の完成を控えたある日、L.A.で、その思いを聞いた。

今作で、「バイオハザード」は本当に終わるのですか?

ああ、本当にこれでおしまいだ。僕らは、惜しまれつつ華やかに終わると決めたのさ。人に飽きられ、「いい加減にやめてくれよ。もう見たくないよ」と思われて終わるシリーズは、少なくない。それにはなりたくなかったのさ。

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終わりのアイデアは、1作目の時からあった。もちろんその時は、次を作らせてもらえるのかわからなかったし、大胆な夢にすぎなかったんだけどね。そのアイデアとは、最初に立ち戻ること。ミラが演じるアリスは、今作でラクーンシティに戻る。アリスにはどんな秘密があるのか?アンブレラ社の本当の狙いは何か?レッド・クイーンは何者なのか?今作は、そういった多くの疑問に答えるものになるよ。

長い年月を費やしてきたシリーズを終わらせる心境は?

今はまだ最後の作業にかかっているから実感がないけれど、完成してしまったら、落ち込むだろうな。派手に終わらせられることに興奮している一方、僕の中には、ほろ苦い気持ちがたしかにある。このシリーズにさよならを言うんだから。

さよならは、もうちょっと早く言う予定だったのですよね。しかし、撮影開始が迫った時にミラの妊娠が発覚して、撮影はいったん打ち切りとなり、出産後にあらためて仕切り直しとなっています。

あの時は、スタジオになんて言われるかと怖かったよ。でも、「おめでとう。よかったね」と言ってくれたんだ。「ここはいったん中断して、君たちが撮影できる状態になったら、再開しましょう」と。彼らは、とても優しかった。でも、僕らにできるだけ早く再開してほしいと思っているのは明らかで、それはミラに相当なプレッシャーを与えることになったよ。出産後の体をできるだけ早く元に戻すために、彼女はものすごくハードなワークアウトをした。彼女が母乳で通すと決めていたのも大変だったね。ロケ中に撮った、すごく素敵な写真があるんだよ。ゾンビやら、焼けた車やらを背景に、泥まみれのミラが、毛布に包まれた赤ちゃんに母乳をあげている写真だ(笑)。

今作には、長女エヴァーちゃんが出演しますね。ミラによると、最初はせりふのない小さな役をやらせる予定だったところ、彼女の演技が良いので、あなたはもっと大きな役を与えたのだとか。エヴァーちゃんに重すぎる責任を与えたくないと、ミラは反対したそうです。

ああ、僕らはだいぶ話し合った。コネというもの自体が好きじゃないしね。でも、彼女には、持って生まれた才能があると気づいたんだよ。みんなもそう感じていた。それで、最初は2日だけ働かせるつもりだったのに、結局、15日になったんだ。葬式のシーンで、彼女が涙を流したのには、みんな息を飲んだよ。そこには真の感情があったんだ。カットをかけ、次のテイクをやると、彼女はまた同じように涙を流した。でも、無駄にしないことも知っているから、カメラが自分に向いていない時には、泣かない。その時、彼女はまだ7歳だったんだよ。彼女は映画の撮影現場で育ったから、150人もの人々に囲まれていることには慣れている。もちろん、だからと言って、演技ができることにはならない。それは、撮影現場で緊張しないということを意味するにすぎない。とにかく僕は、エヴァーの演技に、とても満足しているんだ。

あなたの映画に見る独特のダークな世界観は、どんなところから影響を受けていると思いますか?

僕はイギリスのニューカッスルに育った。そこは、滅びつつある工業地区だ。僕の最初の映画「ショッピング」(1994)や、「バイオハザード」のラクーンシティは、あの風景を反映していると思う。

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僕は、主に祖父に育てられている。父は船乗りでいつもいなかったし、母は看護婦で忙しかったからだ。炭鉱夫だった祖父は、肺を悪くして働けない状態だった。ひどい環境の中で仕事をすることを強いられ、その結果、体が蝕まれてしまった祖父の姿を見て育ったことも、僕の映画に影響を与えているだろう。

あなたとミラは、一緒に作る映画でなくても、お互いが関わる作品の脚本を必ず見せ合い、意見を聞くそうですね。

ミラはいつも正直。ほかの人は、そうじゃない。とくにハリウッドでは、相手を傷つけたくないとか、怒らせて仕事をもらえなくなることを避けたいとか、いろんな理由で、相手が聞きたいであろうことしか言わないものだ。ミラは、良いと思ったらそう言うし、良くない部分があると思ったらそう言う。彼女が気に入らなかったら、気に入ってもらえるものにしようと、僕はさらにがんばる。彼女のアドバイスは、とても貴重だ。

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女優としての彼女の、どこが一番好きですか?

彼女のギャラは僕のギャラでもあること(笑)。もちろん冗談だよ(笑)。彼女は、人の目を惹きつける。最初に仕事をした瞬間から僕はそう思い、彼女に恋をした。銃を撃っているのであれ、お茶を飲んでいるのであれ、どんなシーンでも、彼女はものすごく興味深いんだ。そういう女優は、そんなに多くないんだよ。シーンをおもしろくするために、僕がいろいろ工夫しないといけないということもよくあるが、ミラが出ている時は、その必要がない。彼女は僕の仕事を楽にしてくれるんだ。彼女が美しいからというだけじゃない。彼女の目の奥にあるものが、人の心を惹きつけるのさ。それは学べるものではなく、持って生まれたかどうか。彼女は、たっぷりそれを持って生まれてきた。ミラと仕事ができる監督はみんな、すごくラッキーだ。

おふたりのコラボレーションは、これからも期待できそうですね。

女性のキャラクターが出てくる脚本を書く時、僕はいつもミラをイメージする。僕とミラは、7本の映画を一緒に作った。これからも、僕らはまた組むよ。彼女は最高。彼女は僕のミューズなんだ。

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「バイオハザード:ザ・ファイナル」は、世界に先駆け、23日(金・祝)日本公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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