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秋の臨時国会でカジノ合法化!?いやいやいやいやいや

木曽崇国際カジノ研究所・所長

ビジネスジャーナルさんが以下のような報道をしています。以下、同誌よりの転載。

カジノ合法化、参院選後に加速の観測強まる…幅広い業態で経済波及効果の期待高まる

http://biz-journal.jp/2013/07/post_2491.html

IR(Integrated Resort=統合リゾート)推進法案(略称:IR法案、通称:カジノ法案)が秋にも国会に提出される公算が高まっている。カジノ法案はこれまで何度も経済活性化案として浮上してきたが、その都度、反対の声などが上がり立ち消えになってきた経緯がある。しかし、今夏~秋には大きく進展する可能性がある。スケジュール的にはまず、7月21日投開票の参議院議員選挙の後だ。…

ビジネスジャーナルさんはこの参院選後の臨時国会でカジノ法案が提出され、「法案成立の可能性が高い」ともしていますが、ホントのところを言えばそんなに可能性は高くないですよ。

いや、これはビジネスジャーナルさんが悪いわけではなくて、殊にここ数ヶ月、「秋の臨時国会で法案成立か?」などという言説が特定の業界グループの中から発信されておるのは私も認知していて、こともあろうかそのグループ内の一部の者達に至っては「カジノ開業は早ければ2018年」などという論を実しやかに各企業に吹き込んで廻っているなどというご報告も頂いておる状況です。それらをビジネスジャーナルさんは記事として拾っただけと言えますが、私としては「いやいやいやいやいやいやいやいや」と猛烈にそれを否定させて頂くしかありません。

多くの皆さんもご存知のとおり、カジノ合法化はこの10年近く語られてきた案件であり、それこそこの3,4年くらいは「次期国会で法案成立の公算か?」なんていうお話が、毎年のように何処からともなくアナウンスされては世の期待を裏切り、と完全に「オオカミ少年」状態なのですよ。今、「すわ秋の臨時国会で成立か?」なんて論を打っている方々は、まさにそうやって半年くらい前までは先月終わったばかりの通常国会で法案が通る?などと公然と主張していたワケです

ただ、考えても見てください。今期通常国会は当然ながら4月まで予算関連法案の審議があって、その後、6月に東京都議選、7月に目下、選挙戦が繰り広げられている参院選と「選挙向けの国会」となることはずっと判っていた事なのですよ。こういう国会は、与党は「安全運転」をしなければならないのは勿論の事、国会の終盤に向って与野党の対立を前提に進んでゆくのは当り前の事であって、衆参捻れているこの状況の中でカジノ法案なぞという微妙な法案が成立する可能性は低いと私は言い続けていました。それを「今期通常国会で成立か?」などと煽っていた方々ってのは、私からすれば完全に見識不足であるとしか言いようがありません。

では、参院選が明けた後の臨時国会で成立するのかと問われれば、幾つかの理由があってそれはそれで、なかなか難しい状況です。

1) 次の臨時国会は短い?

臨時国会というのは内閣によって必要に応じて召集されるもの。通例によれば早ければ9月あたりから始まるのですが、どうも今年の臨時国会は10月召集と開催期としては短めになるのではないかという事が囁かれています。安全保障や経済での国際連携に力を入れる安倍政権は、参院選が終わった後に主要閣僚の外遊期間を長めに入れるのではなかろうか?という憶測のようですが、会期が短くなれば当然の如く国会内で審議できる法案の数も制限されてくるわけで、その中でカジノ法案がどれほどの優先順位を持って上程されるのか?といえば、優先順位はけして高く有りません。

2) 消費税ですよ消費税

では、何が優先順位が高いのかと言われれば、消費税ですよ消費税。ちょうど1年まえ民主党政権下におこなわれた自・公・民の三党合意において、2014年4月から消費税率を8%に上げましょうなどという合意文書が交わされたわけですが、その最終的判断をこの8月に発表される各種経済指標を見ながら行なうのだという事になっています。参院選後の最大の政治テーマは間違いなく消費税になるのであって、上で述べたような短い会期の中でカジノ法案が審議&成立する可能性はどう考えても高くない。

3)再び巻き起こるTPP論議

さらに、これはこの参院選後に長めの外遊期間があるのではなかろうか?とされる根拠のひとつなのですが、消費税の次にある大きな政治テーマがTPP交渉です。TPPに関しては、日本の交渉参加に対する米国議会の承認待ちの状態ですが、TPP交渉参加国の間では今年度中に大筋の協議内容の合意を行なうという事になっていて、日本も遅ればせながら(というか、もはや手遅れながら??)も、今月の末くらいから猛烈に交渉を始めます。ただ、これに関しては野党の反対はおろか与党内でさえ何処まで合意ができるかが判らない「政治的体力」の必要な案件であって、繰り返しになるけれど、こんな状況の中でカジノをどこまで語れるのか?といえば、まぁ普通に考えれば難しいんじゃないでしょうかね。

…とココまでが「この秋にカジノ法案が成立し難い」事を論証する外的な要因ですが、最後の理由はもっと「カジノ的」なものです。実は、政府はこの6月に行なわれた観光推進立国関係閣僚会議という会議の中で「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」を策定し、そこでカジノ合法化とIR導入に向けた行動計画を示しています。

【参考】祝!政府・観光立国推進閣僚会議がカジノ合法化に関するアクション・プログラムを策定

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7919491.html

上のリンク先でも書いているとおり、その行動計画の中で決まったことは「統合型リゾート(IR)について、IR推進法案の制定の前提となる犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止などの観点から問題を生じさせないために必要な制度上の措置の検討を関係府省庁において進める」という事。すなわち、IR推進法案(一般的にカジノ法案と呼ばれている)の策定の前に、各種社会問題に対する制度上の必要措置を各省庁によって行ないますよというお約束であって、それが為されないままにこの秋の臨時国会で法案が成立してしまった場合には「話が違う」という事になってしまうのです。

カジノ合法化を支持する国会議員による超党派議員連盟(通称:IR議連)は、この4月に開かれた総会で「今期臨時国会への法案提出を目指す」と発表していますから、そういう意味では法案の提出は行なわれるかもしれません。もっと言えば、実は維新の会あたりからは既に独自法案が先の通常国会に提出されているわけですが、一方で上に説明した諸々の事情を考えると、それが審議&成立に至る可能性はそれほど高くないといえるでしょう。

とはいえ、実は現在準備されているカジノ法案は2段構えになっていて、IR推進法案と呼ばれる一発目の法律の後に、今度はその中身をより詳細に決定する実施法を成立させなければなりません。その実施法の成立を次の選挙(次期衆院選)の前までにさせようと考えた場合には、実務上、来年中には一本目の法律を通さなければ、その後のスケジュールがなかなかシンドクなってきますから、順当に考えれば法案の成立は来年と考えるのが最も「もっともらしい」予測となるのではないでしょうか?

勿論、私の推論は100%保障されるものではないですし、一部の方々のいう秋の臨時国会での成立の「可能性」を全否定するものではないですが(国会が開かれる以上、「可能性」はゼロではない)、何が「もっともらしい」のかを論理的に語らずして、「可能性」だけを声高に叫ぶのは、「明日には人類が滅亡する『かもしれない』」と主張して廻るのと同じ。そんなものは占い師にでも任せておけば良い。

ということで、次に貴方の前に「早ければ臨時国会で成立か?」なぞと言って廻る人が現れた時には、ぜひ「では、成立の可能性が『最も高い』のはいつですか?そしてその根拠は?」と問いなおす事をお薦めいたします。その方が私がここで上げた以上に「もっともらしい」根拠を示した上で、「やはりこの臨時国会なのだ」と主張された場合には、そちらの論を採用して頂ければ良いかと思われます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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