韓国-ベトナム戦 結局なぜ開催された? 韓国メディアは試合前日まで"不満たらたら"
結果は韓国の6-0での圧勝だった。
相手のフィリップ・トルシエ監督ですら試合後に「勝敗とスコア差には驚かない」と口にしたのだから、韓国の立場からしても「不満足」だったか。
日本代表が神戸でチュニジアと対戦した17日、韓国はソウル郊外の水原でベトナムと対戦した。FIFAランキングで言えば、韓国は26位、ベトナムは95位の対戦だった。
この対戦が明らかになったのは、今年の8月22日だった。オンラインで韓国記者団との記者会見を行ったユルゲン・クリンスマン監督が、大韓サッカー協会の発表に先立ち口にした。
「10月にはベトナムとの対戦が予定されている」
「できればブラジルやアルゼンチン、イングランドなどの強豪と対戦したい。しかし(10月の)Aマッチの期間には大陸ごとに試合があるため、対戦相手を見つけるのは容易ではない」
「対戦相手をリクエストする際に“弱い”と伝えたことはない。Aマッチを通じて何が得られるかを考えた結果、アジアカップを目指すという結論に達し、ベトナムを選んだ」
「アジアカップとワールドカップ予選を行う中で、今後多くのアジアのチームと対戦するが、(ベトナム戦は)これに備える上で役立つだろう」
日本でも多く報じられている通り、最近の国際Aウィークでは日本と韓国に2カ国を招き、クロスする形で対戦する形式が多く取られてきた。しかし今回は、カナダが「財政的理由」などから日本のみとの対戦を希望。韓国の「一枠」が空くこととなった。形式的にはそこにベトナムがはまる形となった。
韓国有力紙は言い過ぎの表現 「極端に弱い」
これに早速国内有力紙「東亜日報」が噛み付いた。
「(9月に対戦したサウジアラビアと比べても)極端に弱い相手という指摘がある」
「韓国人のパク・ハンソ監督が指揮を執っていた頃は史上初のアジア大会ベスト4強進出(2018年)、東南アジア選手権優勝(2019年)、カタールW杯最終予選進出などの飛躍的な成績を上げた」
「しかし、パク監督が離れた後は、対戦に関するプレッシャーが緩いのは確か」
そういったなかでも試合の意義をこう見出していたが。
「アジアカップで経験するだろう密集した守備を事前に経験する試合になる見通し」
メディアの関心は「どちらが先にオファーした?」
こうして迎えた17日の対戦。
会場となった水原ワールドカップスタジアム(ビックバード)は4万1000人のチケットが売り切れ、満員となった。
それでもまだまだ韓国メディアの“不満”は燻っていた。
試合前日の16日午後、インターネットメディアの「Newsis」がこう記した。
「なぜ弱いベトナムとホームでAマッチを行うのかという問いが提起された。力量的に弱いベトナムを相手に得るものがなく、わざわざ費用をかける必要があるのかという点が疑問視されている」
この点に関して、同メディアを含む複数媒体が大韓サッカー協会側に電話取材を敢行。「関係者筋」の発言としてこういった回答が記されている。
「ベトナム側が先に試合開催をオファーしてきた。試合は韓国で行われるが、私たちが招待されたと考えればいい。他のAマッチのように招待費は支払っていない」(「Newsis」に掲載された内容)
「航空運賃、宿泊費などの滞在費はすべてベトナムサッカー協会(VFF)が負担する。契約上、ホームの韓国が数人分のベトナム選手に対する宿泊費を負担するが、非常に少額なので事実上コストは発生していないレベル」(同)
「通常、アジアの国と親善試合を行う際には招待費は発生しない。ベトナム戦も同様だ。ベトナムサッカー連盟(VFF)が先に親善試合開催を要求し、韓国側もワールドカップアジア予選を控えている状況で悪い選択ではないと判断した。今回ベトナムとの親善試合では航空、宿泊などの滞在費もVFFが自分で負担する条件だった」(「フォーフォートゥー」に掲載された内容)
これを受けてか、試合前日のユルゲン・クリンスマン監督の記者会見では、会見前に今回のマッチメイキングに関する大韓サッカー協会側の説明があった。一部、これら報道を打ち消すような内容だった。
「オフィシャルに韓国側がベトナムを招待した試合。ホテルの費用については、招待したチームが来た場合に費用を負担する慣例があり、(今回韓国側は)その一部を支援した」
「ベトナムサッカー協会会長は『親韓派』。新型コロナのパンデミックが始まる前から親善試合開催の要望を聞いていた。パンデミック終焉以降、しばらく開催ができていなかったが、昨年9月に韓国側としてウェールズ、サウジアラビア、チュニジア、ベトナムとの対戦スケジュールを一度に決めた」
メディアは「どちらが先にオファーしたのか」「対戦相手が見つからず、慌てて相手側の提案に乗ったのではないか」を気にかけている。しかし大韓サッカー協会側の説明は、先に提案をしてきたのはベトナム側に違いはないが、それは随分前の話だ。双方親しい関係にあるなか「いつかやりましょうね」と話していた試合の開催時期が、この10月になったということだ。
さらに大韓サッカー協会側はクリンスマン監督の事情についてもこう説明している。
「クリンスマン監督はまだアジアのサッカーに慣れていないから、各国の実力をよく知らない。監督はアジア・チャンピオンズリーグ視察を続けているのも、韓国代表の実力を把握するだけでなく、アジア全体のレベルを確認するため」
対戦してみてよりよくレベルが分かる、という面は確かにあるか。これによって「W杯2次予選はどう戦う」「アジアカップグループリーグはどうする」といった中長期的強化プランが立つのなら、それが「今回のベトナム戦の成果」というところか。
マッチメイクへの指摘や批判は日本でも大いに必要なところだ。今回の韓国は疑問点をメディアがしっかり聞き出し、協会もよく答えた。いっぽう、相手をあれこれ言うのではなく(韓国でもそれを言うのは一部メディアだったが)、あくまでベクトルは自国側の交渉力に向けるべき。そんなことも思わせた。