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「大阪都」をめぐる選挙運動の攻防から見えるもの――憲法改正の国民投票を先取りする景色か?

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

いわゆる「大阪都」への第一歩を踏み出すか否かを問う、住民投票が佳境を迎えている。あと数時間で投票が締め切られ、今日中にでも、勝敗が決まる。

大阪都構想を巡る攻防は、攻める側の議論がわかりやすいのがいい。最近ひさびさに自治体の事業をよく見てみる必要があって、総合計画、実施計画、要綱、要領まで並べて見るのだが、なぜそのようになっているのか、なぜそのように運用/評価するのか、誰も分からない事業があったりする。

他方で、大阪市の予算のページを見てみると、予算の概要とかなり詳細な解説をPDFで付けた市のページに到達する。人件費の伸びは人事院勧告によるとの解説まである。職業柄、この可視化と、分かりやすさ、ソーシャルボタンの設置あたりが、とても興味深く、また好ましく思える。

平成27年度当初予算(平成27年3月13日修正議決)

http://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/page/0000297558.html

とはいえ、大阪市民以外にとっては、今回の住民投票は、少々蚊帳の外な印象も否めない。ネットはそこそこ盛り上がりを見せているが、マスメディアはそうでもない。朝から週末恒例の各局の討論番組や週末ワイドショーを流し見していたが、そこでの主たる話題は安保法制だった。

橋下徹という政治家の行方、維新の党の行方、2000年代から盛り上がりを見せる自治体改革と道州制の行方など、さまざまな政治環境の分水嶺となる住民投票だが、気になっているのは、それがこの住民投票を巡る「選挙運動」(投票運動)についてである。もう少しいうなれば、この選挙の風景は、将来の憲法改正の国民投票を先取りする景色かもしれないということである。

今回の選挙は、すでにネットや新聞各紙でも触れられているように、一般の選挙とは少々異なった選挙運動が繰り広げられている。

東京新聞:「大阪都構想」合戦過熱 投票運動 制限緩く:政治(TOKYO Web)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015050802000155.html

ビラもCMも無制限 大阪都構想の住民投票運動「解禁」- 朝日新聞デジタル

http://www.asahi.com/articles/ASH4D46JMH4DPTIL00H.html

「大阪都構想」住民投票始まる 11時の投票率14.15%  :日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK17H0K_X10C15A5000000/

これらの記事を読むと、通常の選挙運動と異なり、当日の今日も、賛否の意見表明が繰り広げられていることがわかる。ところが、これらの記事からは、なぜ、通常の選挙運動と異なるのか、という点についての説明があまりなされていないように感じる。ところが、この点に、将来の憲法改正の国民投票を先取りする理由があると考えられるので少々掘り下げてみたい。その理由は、公選法とは異なる法律を用いつつ、主要な部分を公選法の準用による建付にしていることに起因する。

一般の選挙は公職選挙法、今回の大阪都を巡る住民投票は大都市地域特別区設置法、そして憲法改正を巡る国民投票は国民投票法がそのあり方を規定する。拙著のなかでその特徴を「均質な公平性」と表現したが、日本の選挙運動は、公選法が制限列挙形式を採用することにより、外形的な制約の強い選挙になることが多い。

大都市地域特別区設置法、国民投票法では、その点を巧妙に回避している。通常の選挙と異なり、大阪市の住民投票と、憲法改正の国民投票は「候補者なき選挙」である。公選法は、政治家や政党、関係者による贈収賄や売買収を防ぐことに重きを置いている。ところがこれらの選挙では、候補者は存在しない。理念型としては、ある制度変更とその理由を周知し、有権者はその内容を理解し、是非について一票を投じることが期待されている。周知とその方法に、一般の選挙よりも注力する必要があることから、建付の多くを公選法の準用にしながら、公選法の制限列挙部分を大幅に緩和したものと考えられる。

大都市地域特別区設置法と国民投票法では、前者のほうが生活に密着した側面が強いからか、前者の方がテレビCMの期間などでさらに緩和されているが、概ね似ている。ということは、先の記事にあったような当日の運動や資金を相当程度投入したと思われる選挙のあり方、ポスターの枚数等への制限のなさなどは、憲法改正の国民投票の際にも、より本格的な、そして全国を巻き込む形で踏襲されると考えて良い。広告代理店も、本気になるだろう。

実際に、どのような選挙運動が行われ、どのような課題が生じたか、有権者はきちんと大阪都構想の意義を理解して投票できたか、といった点は、これからの報道や検証を待つ他ないが、それらはやはり憲法改正の国民投票を先取りする景色であり、その縮図である可能性が高い。加えて憲法改正の議論の際には、投票年齢が18歳になっている可能性が高い。現状、有権者が政治を理解し、大量情報を取捨選択しながら、的確に選択できているかというと心許ない。筆者も、自分が住んでいるエリアの首長選挙はまだしも、議員選挙になると、自信がないというのが正直なところである。

社会に政治を理解し、判断するための総合的な「道具立て」を提供せよ――文部省『民主主義』を読んで(西田亮介)- Y!ニュース

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20150405-00044539/

また判例や前例が少ないこれらの選挙で、きちんと規制が機能するかも気になるところである。先に部分的に解禁になったネット選挙では議論が煮詰まらないままに、解禁論だけが先行した。拙著では、その様子を「理念なき解禁」と表現したが、さすがに憲法改正が「理念なき改正」では困る。これらの点は大阪市民以外の日本国民も注視する必要があるだろう。

他にも、過去のマニフェストでかなり肯定的な表現をしていた自民党と公明党の大阪支部と一部の国会議員の反対表明がマニフェスト運動を後退させうるものであることが気になっている。だが、分量もかなり増えてきたので、また投票結果が出たあとにでも、機会があれば言及してみることにしたい。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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