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少年刑務所とはなにか

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
認定NPO法人育て上げネットによる共有写真

去る2月15日、若年無業者や若者世代の支援を幅広く行う認定NPO法人育て上げネットが主催する佐賀少年刑務所のスタディツアーに参加した。これまでも全国の少年院や鑑別所などの視察に参加させていただいたが、少年刑務所ははじめてであった(これまでの訪問記などは末尾の記事一覧等参照のこと)。

「少年刑務所」とはいうものの、実態は「少年も収容できる刑務所」であって、刑事事件で地裁送致、有罪となる少年は多くないとのことで、佐賀少年刑務所も訪問時は少年の収容者はいないとのことだ。法務省の『令和5年版 犯罪白書』によると、昭和63年に少年入所受刑者は100人を下回り、令和4年は14人だったという。

※触法少年の概要や処遇等については以下エントリや『令和5年版 犯罪白書』などを参照のこと

スタディツアーは概ね2時間半。簡単な施設についてのレクチャーを受け(受刑者の人たちによる作業としてのプレゼンテーション含む)、施設内の見学を行い、意見交換をするというものであった。

詳細は割愛するが、そして当然のことでもあるのだが、懲罰ではなく矯正教育を行う少年院と、懲役刑と禁固刑に服する者を収容する少年刑務所は雰囲気がかなり違う。後者のほうが警備は物々しく、私語は基本的に認められておらず、また「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」により作業への従事と各種指導(改善指導、教科指導等)が義務付けられていることから黙々と作業に取り組む人の姿が目立つ(以下、同法関係部分の抜粋引用。強調は引用者による)。

(目的)
第一条 この法律は、刑事収容施設(刑事施設、留置施設及び海上保安留置施設をいう。)の適正な管理運営を図るとともに被収容者、被留置者及び海上保安被留置者の人権を尊重しつつ、これらの者の状況に応じた適切な処遇を行うことを目的とする。
(矯正処遇)
第八十四条 受刑者には、矯正処遇として、第九十二条又は第九十三条に規定する作業を行わせ、並びに第百三条及び第百四条に規定する指導を行う。
2 矯正処遇は、処遇要領(矯正処遇の目標並びにその基本的な内容及び方法を受刑者ごとに定める矯正処遇の実施の要領をいう。以下この条及び次条第一項において同じ。)に基づいて行うものとする。
3 処遇要領は、法務省令で定めるところにより、刑事施設の長が受刑者の年齢を考慮し、その資質及び環境の調査の結果に基づき定めるものとする。
4 処遇要領は、必要に応じ、受刑者の希望を参酌して定めるものとする。これを変更しようとするときも、同様とする。
5 矯正処遇は、必要に応じ、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用して行うものとする。
(懲役受刑者の作業)
第九十二条 懲役受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この節において同じ。)に行わせる作業は、懲役受刑者ごとに、刑事施設の長が指定する。
(作業の実施)
第九十四条 作業は、できる限り、受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識及び技能を習得させるように実施するものとする。
2 受刑者に職業に関する免許若しくは資格を取得させ、又は職業に必要な知識及び技能を習得させる必要がある場合において、相当と認めるときは、これらを目的とする訓練を作業として実施する。
(改善指導)
第百三条 刑事施設の長は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、並びに社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるため必要な指導を行うものとする。
(教科指導)
第百四条 刑事施設の長は、社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対しては、教科指導(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による学校教育の内容に準ずる内容の指導をいう。次項において同じ。)を行うものとする。

女性受刑者は全国に12ある女性刑事施設に収容されるため、少年刑務所内は何より成人と男性ばかりが収容されている。挨拶を重要視しているとされるが、時折物々しい空気になったり、不穏当な声が聞こえることもある。しばしば指摘され、収容者の年齢構成を見ても明らかなのだが、高齢者の姿も少なくない。前述のように作業従事が義務付けられているため、高齢者も何らかの作業に従事することになり、現実的には「介護」を受刑者が担う場合もあるようだ。

詳細な表現は割愛するが、居室は狭く、プライバシー確保はトイレも含めて最低限だ。食事は一人あたり3食で600円なのだという(他方で栄養士が入って管理するため栄養状態は良いと説明を受けた)。

参加者と刑務所の質疑応答では、前者は企業関係者などモチベーションが高い一方で刑事施設や少年犯罪の基礎的な知識を欠きがちで、後者は「協力してほしいこと」が円滑な社会復帰や就職支援と漠然としており明確にならないことから、両者でやや噛み合わない印象も受けた。刑事施設は有期刑等の受刑者収容と処遇することが目的のための施設であるから、企業が自由にビジネスを行うことは想定していない。就労支援などにおいて企業が関わる余地は少なくないが、そのためには当該領域や法令に対する具体的な理解を深める必要があり、そのためにはおそらくは法務省/刑務所側から法令や規則で定められた領域と、管理者の裁量部分の仕分けと提示が必要で、それがあれば分野について理解した事業者が後者において事業化も見据えながら多様な協働の可能性を模索することができるのではないか。

同時に、現実にはやはり社会復帰した退所者は突然いなくなるなど、経営者視点からいえばリスクは決して小さくはない。それに対して近年、法務省は厚労省などと連携しながらかなり手厚い身元保証制度をはじめとする就労確保に関わる協力雇用主への支援を行っているが、恐らくはあまり知られていない。これらも含めて、アウトリーチ活動の拡充は急務だ。

筆者自身も幾度もスタディツアーに連れて行っていただきながら、いろいろと考えるところもあって十分な研究の対象にすらできていない。そうはいっても、なかなか接点すら持ちづらい領域において、いつも重要な見聞と勉強の機会を設けてくださる認定NPO法人育て上げネットと同NPOの理事長工藤啓氏に深く御礼申し上げたい。

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社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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