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ネット事業の必須業務化に向けた最新NHK改革と「スマホ受信料義務化」の誤解と懸念

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
(写真:YUTAKA/アフロ)

昨日も述べたように、放送行政改革の歩みは遅々として進まないが、改革の検討は延々と続いている。日本の放送コンテンツは細かい点については昨日のエントリで述べたようにもっぱら業界事情でデジタル化されながらも、その多くはネットでは視聴することができないのが現状だ。民放はあくまで民間事業者なのでまったく非合理で、業界事情としかいいようがなく各社自身の経営判断としかいいようがないのだが、すでに2000年代からネットでの放送視聴を求める声が高まっていた。それでも民放事業者はTVerへの一部提供を除くと、現在においても業界事情でネットでの番組配信に消極的である。

そのなかでも様々な批判を受けながらネット対応を粛々と続けてきたのが、公共放送のNHKで、それまでの放送の補完としての理解増進情報の提供に加えて(要するにNHK 「NEWS WEB」などの文字ニュース)、東京五輪2020を機に「NHKプラス」を活用する同時配信が大きく前進した。だがあくまで放送法上の任意業務としてのもので、様々な制約が設けられ、課題も指摘されている。しかし放送視聴時間の低迷と若年世代ほどネットの利用、視聴時間が伸びていて、今後もその傾向は基本的に変わらないことはおそらく明らかである。そこでいよいよNHKのネット事業を必須業務化して、放送法で正面から規律しようという機運が総務省の有識者会議(「公共放送ワーキング」等)で生まれ、自民党で放送政策を扱う情報通信戦略調査会などでもほぼほぼ合意に達しようとしているのが今夏の現状だ。

これまでも「放送の補完」とはいったいどこまでの範囲を指すのかといった点についてはやや首をかしげざるをえないコンテンツも見受けられた印象だ。それゆえネット活用業務も必須業務として適切にガバナンスするのは好ましいと考えられる。ところでネット事業を必須業務としていく流れのなかで幾つかの通俗的懸念が残っている。

代表的なものが受信料とその負担を巡るものだ。現在の放送法ではテレビを視聴可能な設備を設置した場合に受信契約の締結が求められることになる。そこから敷衍して、例えば「テレビ電波を受信する機材を保有せず、スマホやネットの回線だけを所有する場合にも受信契約締結義務が生じるのではないか」という素朴な不安につけ込むようなネットニュースの見出しが早くも溢れている。

ネット配信はNHK「本来業務」 視聴に費用負担、自民提言(共同通信)

https://news.yahoo.co.jp/articles/1b20332719f857f187effa7c520ff794310b6183?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20230825&ctg=bus&bt=tw_up

スマホでNHK見たら「受信料」を!自民党の提言に「絶対反対」と批判殺到…思い出される「ワンセグ」の悪夢(SmartFLASH)

https://news.yahoo.co.jp/articles/f48dfc363850b3c0014fdae8e7ed0e0ba051156b?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20230825&ctg=dom&bt=tw_up

しかし、これらの「懸念」については、総務省有識者会議においても、自民党提言においても明確に否定されている。すでに受信契約を結んでいる世帯には追加的な負担が求められることはない見込みだ。これまでテレビ受信機を保有せずネットのみで番組を視聴するようなNHKの契約プランは存在しなかった。というのも現在の契約には衛星契約と地上契約の二種類があり、契約を結んでいる場合において「NHKプラス」を利用登録して追加的に視聴できる仕組みだからだ。今後おそらくテレビ受信機を保有せず、ネットのみでNHKを視聴することを想定したプランが検討されるようになるものと考えられる(なお放送を受信できる機器を保有する場合の受信契約義務は従来と変わらない)。しかしその際には利用登録によるID取得など積極的な意思表明を契機とすべきと考えられているのだ(「アクティベーション」)。詳しくは以下の「自民党情報通信戦略調査会提言案」提言⑬などが参考になる。

インターネットによる放送コンテンツ提供に係る費用負担については、放送の現在の受信契約者には追加的負担を求めないこととし、また、テレビを持たない者には放送の受信契約者との公平性確保の観点から、受信料に相当する一定の費用負担を求めるべきである。その場合、スマートフォンやパソコン等の通信機器を保有しているだけで費用負担を求めることは適切ではなく、利用者IDの取得等、NHKの放送コンテンツを視聴しようと積極的な意思を表示した者のみに費用負担を求める形とすべきである。

「自民党情報通信戦略調査会提言案」提言⑬より引用。

昨今の物価高や度重なる不祥事もあり、NHKについては批判的な、しかしいささかヒステリックな目線も向けられがちだ。そこにつけ込むかたちで、広い国民益よりも古いマスメディア業界益が追求されがちでもある。しかも放送法とその解釈、これまでの改革の経緯と背景を理解することはそれほど簡単ではない。それでも放送制度改革に関する議論は来年の通常国会に向けていっそう加速していくものと考えられるが、それらが国民益に適った改革となるためには、いっそう幅広い社会と政治の関心の目が重要に思える。

並行して、本稿でも言及した自民党情報通信戦略調査会提言案において、NHK文字ニュース廃止の提案がなされています。合わせてご一読ください。

自民党情報通信戦略調査会提言案とNHK文字ニュースの廃止、改悪に関する懸念(西田亮介)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7ae9af9ff74c5cbf973a376486bd3bbf99e14c3e

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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