ひとり旅で実践したい! ソロ温泉であえての「プチ断酒」のススメ
筆者は酒が好きだ。種類を問わず何でも飲む。1年のうち300日以上は飲んでいるだろう。
特に温泉宿に滞在したときに飲む酒は最高に旨い。宿で出される和食と日本酒の相性もよい。お酒は旅先での最高の愉しみのひとつである。筆者と同じように温泉宿で酒を嗜む人も少なくないだろう。
しかし、ソロ温泉(=ひとりでの温泉旅)では、あえて「断酒」することをおすすめしたい。
体調不良で想定外の「断酒」
数年前の話だ。ある温泉地に電車で出かけた。もちろん、ソロ温泉である。
宿の最寄り駅に着く頃になって、頭が重く感じられ、まもなく頭痛が始まった。ときどき似たような症状が出るので、頭痛薬を飲めば、すぐに治まることはわかっていた。
だが、こんなときに限って、薬を切らしていた。いつもお泊まりセットの入ったポーチの中に常備していたのに・・・。不覚である。
下車したのは、ローカル線の小さな駅。駅前には蕎麦屋が一軒あるのみ。薬局はない。「まいったなあ・・・」途方に暮れていると、路線バスがやってきた。このバスを逃すと、次は2時間後。とりあえず乗り込んだ。
バスに揺られている間も、頭痛は激しくなる一方だ。車窓からドラッグストアが見えたが、降りるわけにはいかない。通り過ぎるのを恨めしく眺めるしかなかった。
40分後、投宿する宿のある温泉地に到着。小さな薬局でもあればと期待したが、あるのは酒屋と饅頭屋さんのみ。ひっそりとした静かな温泉地だった。
この時点で薬を購入するのはあきらめて、痛みが引くのを待つことを決めた。数時間、我慢すれば治まるはずである。
いつもと目覚めが違う・・・
チェックインしてから、とりあえず温泉につかる。源泉かけ流しの良質な温泉だが、頭痛が続いていたので、その気持ちよさも半減。逆に、血行がよくなったせいだろうか、痛みが増したように感じる始末であった。それからは、早めに布団を敷いて横になるほかなかった。
そうこうするうちに夕食の時間。まだ痛みは治まらないが、いくぶんラクになった。
普段なら地酒でもあおるところだが、さすがに体が受け付けない。おとなしくノンアルコールで食事をいただくことに。酒はなくても十分においしい料理で、ほぼ完食できた。
夕食を終えてゆっくりしていると、ようやく頭痛が治まってきた。経験的にここまでくれば、もう安心である。
軽い足取りで、温泉に向かう。先ほどとは違って、気持ちの良い湯浴みを満喫。この日は、早めに眠りについた。
翌朝、6時過ぎ。いつもよりも早く目が覚めた。
うん? いつもと調子が違う。寝起きのわりに、目覚めがよく、頭も軽く感じた。すっきり!
ふだんソロ温泉に出かけると、私はほぼ例外なく酒を飲む。おいしい食事と解放感から、いつもより酒の量も多くなりがちだ。
さすがに二日酔いになることはないが、翌朝は頭と体が重い。朝風呂に入って、ようやく目が覚めてくる、という具合である。
だから、いつもと違う気持ちのよい目覚めに驚くこととなった。酒を抜いた日の翌日はこんなに違うのか・・・と。温泉の効能や転地効果も好影響をもたらしたのかもしれない。
プチ断酒の先に待つ「空白の時間」
あまり酒を飲まない人は、ピンとこないかもしれない。「そんなに体調に違いが出るなら飲まなければいいのに」と思うことだろう。
だが、のんべえの人であれば、なかなか酒をやめられないことは理解いただけると思う。特に温泉に入って、おいしいご飯が目の前に並んだら、瞬時に酒の誘惑に負けてしまう。
この出来事があって以来、筆者はソロ温泉であえて「プチ断酒」をするのも効果的だと考えるようになった。
仕事やSNSから距離をとると同時に、酒も遠ざける。そうすることで、純粋に温泉に向き合い、真の「空白の時間」(=日常生活では確保しにくい何もしない時間)を得られるのではないだろうか。
だが、情けないことに、ソロ温泉で断酒ができたのは、たった2度だけである。しかも、そのうち一度は食事難民になり、酒にもありつけなかったというハプニングの結果である。
「今回はプチ断酒をしてみようかな」と思って出かけても、湯上がりに飲む酒のおいしさに負けてしまう。そのたびに「無理に節制してストレスになるくらいなら酒を飲んだほうがいい」とこじつけるが、それは言い訳にすぎないのはわかっている。
それでも、飲酒が習慣になっている人は、ぜひソロ温泉での「プチ断酒」にチャレンジしてみてほしい。いつもと違うさわやかな朝を迎えられることは、筆者が保証しよう。