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ロングランヒットを続ける『グレイテスト・ショーマン』。やはり日本ではミュージカル映画が受けるのか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ヒュー・ジャックマンの至芸で「多様性」も訴える『グレイテスト・ショーマン』

先週末(4/7〜8)の映画動員ランキングでは、ベスト3を洋画が占めた。じつはこれ、1年ぶり。前回は2017年の4月第2週(『SING シング』『モアナと伝説の海』『ゴースト・イン・ザ・シェル』)で、年に1回のケースだった。今年も『リメンバー・ミー』『ボス・ベイビー』『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』と、3本のうち2本がアニメというのは同じパターン。

しかし先週末はベスト10のうち5本が洋画で、これも一年にそう何度もあるケースではない。ちなみに先々週はベスト10の6本が洋画。この6本というのは、2015年の9月第2週(この時は7本)以来、じつに2年7ケ月ぶり。ここ2週間の洋画の好調を支えているのが、アニメだけではなく『グレイテスト・ショーマン』なのである。

『グレイテスト・ショーマン』の日本の公開は2月16日。初登場1位となった後、翌週から1位→3位→3位→5位→5位→6位→5位と、超安定飛行を続ける。筆者も先週末、他の作品を観るために新宿のシネコンへ行ったところ、『グレイテスト・ショーマン』は2スクリーンで上映され、通常料金の方は昼間の回からすべてが完売となっていた。

じつは『グレイテスト・ショーマン』は、アメリカでも似たような現象が起こっており、昨年末の12月20日に全米公開され、オープニングは880万ドルと低調。しかし2週目におよそ2倍にアップし、最終的に1億6000万ドルを超えてロングランを続けている。ジャンルは違うが、じわじわ成績を伸ばした日本での『この世界の片隅に』のパターンを連想させつつ、もっとユニークなのは、作品自体、大絶賛されているわけではないという点だ。米映画批評サイトのロッテントマトでは批評家55%と、芳しくない数字。日本でも観た人の評価は分かれ、大絶賛でリピーターとなる人から、「ドラマがちゃんと描かれていない……」と不満をもつ人に、かなりくっきりと分かれている(ちなみに筆者は後者です)。

これは昨年の『ラ・ラ・ランド』の現象にも似ていて、さらに興味深いのは『ラ・ラ・ランド』がダメだった人に、『グレイテスト・ショーマン』が好きな人が多く、その逆も成立していることだ。ミュージカルとしては正統派ではない『ラ・ラ・ランド』と、王道のミュージカルスタイルである『グレイテスト・ショーマン』。その好き/嫌いが鮮明に表れたわけだが、そうした賛否両論を受けながら、両作とも大ヒットを記録している。とくに、ここ日本ではミュージカル映画がヒットするという法則を、この2作がまたもや証明した。

『グレイテスト・ショーマン』の見せ場のひとつ。ゼンデイヤとザック・エフロンによる空中ブランコを駆使したナンバーは、とことんロマンチックだ
『グレイテスト・ショーマン』の見せ場のひとつ。ゼンデイヤとザック・エフロンによる空中ブランコを駆使したナンバーは、とことんロマンチックだ

近年のハリウッド製ミュージカル映画の、アメリカにおける年間順位と、日本における年間の興行収入ランキングを比較すると……

(※日本の順位は邦画を含めたもので、()内が洋画のみのランキング。年号は製作年度で、日本は翌年公開の作品もある)

美女と野獣

全米2位 日本1位(1位)

ラ・ラ・ランド

全米19位 日本10位(8位)

イントゥ・ザ・ウッズ』(2014)

全米23位 日本25位(11位)

レ・ミゼラブル』(2012)

全米18位 日本4位(2位)

マンマ・ミーア!』(2008)

全米13位 日本20位(7位)

ヘアスプレー』(2007)

全米24位 日本52位(23位)

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007)

全米49位 日本27位(12位)

ドリームガールズ』(2006)

全米19位 日本30位(15位)

オペラ座の怪人』(2004)

全米63位 日本7位(5位)

シカゴ』(2002)

全米10位 日本11位(9位)

『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』などは圧倒的に日本で受け入れられている。これは舞台版が長年、上演されているという要因も大きい。そして年間順位がやや低くても、洋画のみの順位では全米を上回ったり、最低でもほぼ同格だったりする。アクション大作など大規模な作品が上位を占めやすいアメリカと異なり、日本ではミュージカル映画は安定してヒットを狙えると言っていいだろう。

そして『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』によって、舞台版の映画化ではない「オリジナル」の作品も、日本でしっかり受け入れられることが判明した。『グレイテスト・ショーマン』では、より音響の良さを求めてドルビー・アトモス版の上映が評判を呼び、観客動員増に寄与しているという。単にストーリーとしての面白さだけではなく、歌&ダンスのパフォーマンスに興奮と高揚感を得られる「体験」として、ミュージカル映画を求める観客が増えるのは、日本の映画業界にとっても喜ばしい現象だ。

『グレイテスト・ショーマン』

全国公開中 配給/20世紀フォックス映画

(c) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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