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北朝鮮のアジアカップ最下位は経済制裁の影響!?日本相手に見せた闘争心はどこへ?古豪復活への糸口は?

金明昱スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

「今回の北朝鮮代表はなぜこんなにも不振なんでしょうか? あまりにも覇気がなくて、期待外れというか、残念でなりません」

 仲良くさせてもらっている韓国のサッカー担当記者からの1本のメール。

 あまりにも不甲斐ないもう一つのコリアのサッカーの内容にかなり失望したようだった。

 確かにアジアカップでの朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)の結果は、それくらいひどいものだった。

 グループステージの3試合で全敗。第1戦のサウジアラビアに0-4、第2戦のカタールに0-6、第3戦のレバノンに1-4で敗れた。1得点14失点で、24カ国中最下位で大会を去った。

 今大会、24カ国の監督の顔ぶれを見ると、中国代表はイタリア人のマルチェロ・リッピ監督、フィリピン代表はスウェーデン人のスベン・ゴラン・エリクソン監督、開催国のUAE代表はかつて日本代表を指揮したアルベルト・ザッケローニ監督など、名のある指導者がズラリ。

前監督のアンデルセンが目指した攻撃的なサッカー

 各協会が潤沢な資金を使い、いわゆる“名将”を呼び寄せて代表強化を進める中、北朝鮮代表は国内のキム・ヨンジュン監督がチームを率いている。

 北朝鮮代表の前監督はノルウェー出身のヨルン・アンデルセン(現・仁川ユナイテッド監督)だった。

 アンデルセン監督は2016年5月から約2年間、平壌に妻と愛犬を連れて生活をしながら、北朝鮮代表強化に努めた。

 組織的で攻撃的なサッカーをチームに浸透させることを目標に置いた。タイでアンデルセン監督をインタビューしたとき、理想のスタイルをこう語っていた。

「素早いパス回しから展開する攻撃的なサッカーを目指しています。守備戦術の一つとして、前線からの積極的なプレスで相手の攻撃を防ぎ、ボールを奪ってから自分たちの攻撃の時間を作るのも大事な要素です」

 かつてブンデスリーガで外国人初の得点王になったこともあるFWらしい考え方だと感じたものだった。

 アンデルセン監督時代の北朝鮮代表の試合をこの目で見たことがあるが、前線から積極的にプレスを仕掛け、ボールを奪ったら素早く攻撃に転じる選手の意識は高かった。

 2017年11月には平壌に「5・1競技場」での北朝鮮代表の練習を取材した際、アンデルセン監督は「パルリ!パルリ!(クイック!クイック!)」と練習中から、朝鮮語を交えて熱く檄を飛ばしていた。

 選手たちの練習に対する意識とスピード、厳しさの中でも和気あいあいとした雰囲気もあり、チームとしてのまとまりもあったと感じていた。

 アンデルセン監督が指揮した北朝鮮代表を日本のサッカーファンも目にしているはずだ。

 2017年12月、日本で開催されたEAFF E-1選手権(東アジア選手権)で北朝鮮は初戦で日本代表と対戦。

 0-1で日本に敗れたが、終了間際までほぼ互角の戦いを演じ、韓国(0-1)や中国(1-1)を相手に怯むことはなかった。

 さらにアジアカップの予選を戦い抜き、24カ国の1つとして本大会出場を導いたのもアンデルセン監督だったが、その後、代表チームを離れた。

 EAFF E-1選手権で1分2敗の成績で4位に甘んじたこと、アジアカップ出場権を勝ち取ったが、格下相手に有利な試合運びができなかったことなどがチームを去った理由だと聞いた。

キム・ヨンジュン監督就任後の成績は……

 北朝鮮サッカー関係者はこう語る。

「アンデルセン監督は選手とのコミュニケーションを取る部分で、難しさはあったのかもしれない。朝鮮選手たちの習慣やメンタル面を把握するには、通訳を通してでは限界があったと感じている。やはり国内指導者のほうがスムーズな意思疎通が図られるという部分はあると思います」

 そこで白羽の矢が立ったのが、35歳のキム・ヨンジュン監督。今年9月から代表指揮官に就任したが、結果を残せていない。

 彼は現役時代、代表に欠かせないボランチとして主にゲームメイクを担った。

 2005年2月にはドイツW杯アジア最終予選でジーコジャパンと対戦した姿をこの目で見たし、同年に韓国で開催された東アジア選手権では日本を相手にゴールを決め、1-0で勝利に導いた。

 そんなキム監督は2012年に現役を退いてからは、国内クラブの平壌市体育団で監督を務め、その後は年代別代表コーチを歴任し、経験を積んだ。その後、A代表に大抜てきされたわけだが、まだ35歳と若い。

 ただ、それにしてもだ。

 今大会のグループステージ3戦全敗で、1得点、失点14という結果は重く受け止めるべきだろう。

 アジアカップ前に行われた試合結果を見ても厳しいものがある。

 昨年10月のウズベキスタンとの親善試合では0-2で敗退。さらに今年12月に韓国で開催されるEAFF E-1選手権の本戦出場をかけた11月の3試合(モンゴル、香港、台湾)で2勝1分けと結果を残したが、総得点数で香港を下回って敗退。

 同12月にはアジアカップ前のテストマッチで、ベトナムに1-1で引き分け、バーレーンに0-4で敗北を喫している。

経済制裁で強国とのAマッチが組みにくい?

 今大会、目を見張ったのは韓国を苦しめたフィリピン代表、日本を相手に勝利まであと一歩に迫ったベトナム代表、韓国を1-0で破ったカタール代表など、アジアのレベルが底上げされていたことだ。

 その中で、北朝鮮だけが大きく取り残されてしまった感は否めない。

「サッカーの発展はその国の経済力が大いに関係する」とはよく聞く。「制裁によってサッカー強国との国際Aマッチが組みにくい現実がある」(北朝鮮サッカー関係者)ともいう。

 現に北朝鮮はここ数年、FIFAランキングの低いアジアの国としか真剣勝負の場がなく、それは協会や選手にとっては悩ましいに違いない。

 実際、国際Aマッチ数が極端に少ないこともあり、北朝鮮のランキングは実力よりも低目に算出されるが、109位という現在のランキングは今大会に関しては実力通りだったと言わざるを得ない。

 ただ、サッカー強化における環境が、徐々に整いつつあるのも事実。

 昨年からは国内で体系的なリーグ運営がスタートし、AFCカップにも国内クラブの4・25体育団が出場し、好成績(4地区プレーオフ準優勝)を収めている。

 2013年には平壌国際サッカー学校(アカデミー)が開校し、優秀な選手はイタリアやスペインなどの欧州に送って、現に有名クラブへの移籍を実現させている。

 決して環境のせいにできないことを、かの国は知っている。

豊富な運動量と球際の激しさはどこに

 ただ、それらを差し引いても、今のチームには死に物狂いで勝ちに行く気持ちが足りなかったと感じる。

 2017年のEAFF E-1選手権の日本戦で見せた衰えを知らない運動量と球際の激しさはどこへ行ったのだろうか。

 日本代表が相手となれば、鋭い牙と折れない心をむき出しにして襲い掛かったはずだ。旺盛な闘争心も北朝鮮の持ち味だったに違いない。

 しかし、今大会では粘り強い守備は見られず、鋭いカウンターもつながらない。何よりも積極的に前線からボールを奪いにいく姿は影を潜めた。

 アジアカップでは守備的な戦い方で、カウンター狙いのサッカーをしたかったことはよく分かった。ただ、自分たちの良さやカラーを消す必要はなかったのではないか。

 セリエAのカリアリ所属のFWハン・グァンソン(現在はペルージャにレンタル)も加わり、FWパク・クァンリョン(SKNサンクト・ペルテン)やスイスのルツェルンでプレーしたチョン・イルグァン、そして日本のJリーグからは李栄直(東京ヴェルディ)など、海外でプレーする選手を呼びよせたが、自分の力を発揮できずにいたというのがプレーを見た率直な感想だ。

 全体的に戦術の理解度が足りなかったこと、選手同士の意思疎通もう一つだったことで、劣勢に立たされたときに戦い方に迷いが生じていたと感じ取れた。

「4年前よりも不完全燃焼」

 3試合を戦い抜いた李栄直に話を聞くことができた。彼は正直にこう語っていた。

「チームとしてファーストディフェンスをどこから始め、どこでボールを取り切るのか。自分も含め、チーム全体が理解できていなかった部分があったと反省しています。守備固めをしているのに、1対1の状況を作られて個人能力で負ける部分もありました。4年前の大会よりも不完全燃焼です。チームとしても個人としても、アジアトップレベルのチームとの実力がどれくらい埋まったのかは分かりませんが、それでも確実に成長している部分はあると、ポジティブに捉えています」

 キム・ヨンジュン監督に関しては、「若さゆえの経験不足」と言ってしまえば簡単だが、ここから新たなチームの作り直しが急務だ。

 2022年カタールW杯出場に向けて、国際経験豊かな国内指導者を育てたいという協会の意図も見え隠れするが、今回の大敗の教訓をどのように生かしていくのか、見守りたいところである。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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