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対ロシア強力制裁、でもやっぱり出た「中国が手助けするので意味はない」という懸念

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
プーチン露大統領と習近平・中国国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアがウクライナ侵攻を本格化させるなか、中国がロシアの“後ろ盾”になっているという懸念が出ている。米国など西側が相次いでロシアに対する制裁措置を打ち出すなかで「中国がロシアに命綱を投げる準備を終えた」と報じられているためだ。

◇「祖国の完全統一を実現していない唯一の安保理常任理事国」

 ロシアのウクライナ侵攻に対する中国側のスタンスは、華春瑩(Hua Chunying)外務省報道局長による24日の定例記者会見で明らかになっている。

 記者会見で「中国はロシアの行動を非難するのか」と問われ、華春瑩氏は「中国は最新の動向を注視している。われわれはすべての関係者に自制を求め、事態の収拾がつかなくなることがないよう求める」と述べ、非難の言葉を発信することはなかった。

 また「ウクライナの問題は非常に複雑な歴史的背景と経緯がある」と理解を求めたうえ、今回の侵攻を、ロシア側が使う「特別軍事作戦」というキーワードで表現している。

 さらに記者団から「中国はロシアの行動を侵略と見なすか?」と問われた際、米国のことを持ち出して、次のように切り返した。

「米国は国連の承認なしにイラクやアフガニスタンに、違法に、一方的に軍事行動を起こし、罪のない市民に多くの被害を与えた。その時にあなたがたは『侵略』という言葉を使ったか? それとも他の言葉だったか?」

 これにとどまらず、華春瑩氏は自国を取り巻く情勢にも触れ、「米国がいわゆる同盟国数カ国とともに中国の内政に干渉し、新疆、香港、台湾に関連する問題で、中国の主権と安全を損なうという現実的な脅威に、われわれは今なお直面している」との認識を披露した。この文脈で「中国は安保理の常任理事国の中で唯一、祖国の完全な統一を実現していない国でもある」と強調して、香港や台湾に対する圧力の正当化を図った。

◇「中露はドルのシステムに露出せず」

 中国がこうしたスタンスを強調するなかで、英紙フィナンシャル・タイムズは25日付で「中国がロシアの経済制裁の打撃を和らげるよう準備」と報じ、波紋が広がっている。

 同紙は「金融アナリストや地政学の専門家は『中国はおそらく、資源取引や国有銀行による融資を通じて、ロシアが制裁を乗り切るのを助けるだろう』と考えている」と指摘する。この際、もちろん中国は「自国の経済的・財政的利益へのダメージを避ける」と予想される。

 同紙が伝えた米研究機関の数字によると、ロシアは中国国営銀行から2000~17年、総額1510億ドルにのぼる資金の融資を受けたという。特に中国の一部銀行は米国との取引が少なく、「こうした銀行はドルシステムへの依存度が低く、制裁措置の影響を受けにくい」(エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのエコノミストで北京在住のトム・ラファティー氏)という指摘もある。

 ラファティー氏は同紙に対し「中国によるロシアへの支援レベルが、今後のウクライナ情勢を左右する」とみる。

 同紙によると、ロシアによるクリミア半島併合(2014年)後、中露は貿易におけるドルの使用を減らし、制裁の打撃を緩和する措置が強化された。中露の経済関係も強まり、両国貿易は2021年に過去最高の1450億ドル超を記録し、年2桁の成長が続いているという。

 国際金融専門家らは「ロシアは西側の制裁を長い間受けてきたため、これを迂回する方法をよく知っている」と指摘する。さらには「西側諸国が中国に実質的な制裁を加えない限り、中国は後ろでロシアを引き続き支援する。中露はドルのシステムに露出することなく資金を調達するオプションを多く持っている」という専門家の見解も記されている。

 華春瑩氏は記者会見で、「ロシアが中国の後ろ盾を得て行動した」という指摘に対して「ロシア側は非常に不愉快に思っている。ロシアは安保理の常任理事国であり、独立した大国であり、自らの判断と国益のみに基づいて独自の外交戦略を立案し、実行している」と反論している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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