球界再編騒動から20年…上原浩治が今こそ問う日本プロ野球のビジョン
20年前の6月13日は、日本のプロ野球で球界再編騒動が表面化した日でもある。日本経済新聞が朝刊1面で報じた「オリックスと近鉄の合併」というニュースは、その後に「もう1組の合併」が進行中という話が浮上し、一気にプロ野球が「1リーグ制」へ移行するのかという再編の動きへと加速した。
プロ野球を経営するオーナーたちの動きに対し、プロ野球選手会は古田敦也会長が先頭に立って合併に反対していた。プロ野球界の話でありながら、親会社の経営的な問題でもあり、長年にわたる球団の赤字体質の問題もあった。私自身ももちろん、12球団維持を支持していたが、様々な情報が錯綜する中、自分の無力さも感じることが多かった。あの頃は、私も代表に選ばれたアテネ五輪もあり、近鉄やオリックスの選手は騒動の渦中にいながらもレギュラーシーズンを戦うという異例の一年だった。
結果的には、近鉄は消滅したが、楽天が仙台を本拠地として新規参入して、12球団、2リーグ制が維持されることになった。
当時の1リーグ制の背景には、パ・リーグの球団も巨人と試合を組める、「ドル箱」と呼ばれた巨人戦のテレビ中継がされるといった、「巨人との関係」が球界全体を覆っていたように思う。あれからの20年で、時代は変わった。
いまのプロ野球は本拠地の地域に密着し、地元のファンを大事にする路線へと大きく舵が切られた。むしろ、巨人戦の地上波中継は激減した。新たに参入したDeNAもそうだが、テレビ中継による露出よりも、ファンに球場へ足を運んでもらうようなイベントや企画がたくさん増えた。球場だけでなく、周辺もにぎわいを見せる。広島のマツダスタジアム、北海道で幕開けした日本ハムの新球場など、各地でボールパーク化が進んだ。球界再編騒動の当時は、なんとなく「プロ野球経営は赤字でも、親会社の広告費として処理されるからOK」という雰囲気があったが、いまやプロ野球経営は、スポーツビジネスの視点で語られることのほうが多い。
ただ、野球を取り巻く環境は決して安泰ではない。日本のプロ野球で活躍した先に、メジャーリーグがあるということが、今の選手たちには当たり前の日常として存在する。私もメジャーへ移籍した立場だが、選手からすれば、レベルが高くて待遇も良いメジャーで投げたいと思うのは自然な流れだ。足元では、子どもたちの競技人口も減少傾向にある。このペースは少子化を上回るが、野球界にどれだけの危機感があるだろうか。
球界再編騒動を振り返れば、あのまま1リーグ制になっていても、決して不思議ではなかったと思うほど球界を取り巻く状況は楽観視できていなかったはずだ。再編騒動を経て、いまは球場に足を運んでくれるファンがたくさんいて、日本代表「侍ジャパン」も根強い人気がある。しかし、すそ野での競技人口の減少は、やがてファンの減少を招く要因にもなりうる。
12球団が存続し、それぞれの球団にファンが定着した現在だからこそ、日本のプロ野球の未来を見据えたビジョンを考えていかなければならない。日本のプロ野球の価値は何か、日本における野球の魅力は何か、それをどうビジネスに反映させていくか-。それぞれの球団に思惑もあるのだろうが、現状では12球団が一致団結して取り組んでいるようには映らない。
節目の20年だからこそ、野球ファンの皆さんにも日本のプロ野球が今後、どうしていけばいいかを改めて考え、思いを共有する機会にしたい。