「頭打ち」。その中で「しずる」が考える今後と歳を取ることの意味
「キングオブコント」で過去に4回決勝に進むなど、コント師として絶対的な地位を築いている「しずる」の村上純さん(43)とKAƵMAさん(40)。3月23日には東京・ルミネtheよしもとで単独ライブ「不自然な藍色」も開催します。バラエティーでも人気を誇り、気づけば二人とも40代に。不惑を越えて感じる「頭打ち」とそこを打破する策とは。
頭打ちの中で
村上:今になってかよとなる話かもしれないんですけど、最近になって「コツコツやる」ことの意味を噛みしめてもいるんです。
一つ具体的にそれを思ったのが去年10月。中国で行われた「上海国際コメティフェスティバル」に吉本興業から芸人が出ることになり、そこで僕らも行ったんです。
お客さんは現地の方々で日本語の字幕を舞台横の画面に流してネタをやりました。そこで、ありがたいことにしっかりとウケまして。
反応が新鮮だったし、楽しかったし、うれしかったし、面白かったし。まだこういう感覚があるんだということが刺激的でした。
単純に「普遍こそ一番強い」というか、それを信じられたことも大きかったんですけど、そこでいろいろと考えたんです。
この日のためにコントを作り続けてきたわけでもないし、日々劇場に立ってきたわけでもないし、メディアの仕事を頑張ってきたわけでもない。でも、そういった一つ一つがあったから、この場がある。それを強く感じたんです。
今、年齢的にも微妙な世代になっているのかもしれません。知名度も含め。でも、吉本興業で一応、20年間やらせてもらってきたからこそ、上海での舞台に吉本を通じて呼ばれた。吉本の中で「しずる」を選んでもらったんだし、だからこそ、海を越えられたという喜びを味わうこともできた。
本当にね、西川きよし師匠じゃないですけど、コツコツって大切なんだなと今になって思うようになったんです。これまでの積み重ねがあるから今がある。言葉にすると当たり前のことになるんですけど、今の年齢になったからこそ心底思えるというか。
歳を取る。若くはなくなる。それにはそういう“意味”もあるんだなと感じています。
KAƵMA:「しずる」という名前はなんとなく聞いたことある。そんな人ってちょっとはいてくださるのかもしれませんけど、そういう状態だからこそ、もうニュートラルには見られないなとも思うんです。
正直な話、今ならとんでもなくデカいことしない限り、変な言い方ですけど頭打ちになっているとも感じています。
そうなってくると、全く知らないところの方が評価されやすかったりするのかなとも思っているんです。海外で評価を受けたという結果を持って日本に戻ってくる。それもあるんだろうなと。
例えば、短いショートフィルムみたいなのをまとめている海外中心の動画サイトがあるんですけど、そこに動画を投稿して世界から評価されるとか。
これだけたくさんの動画サイトや選択肢がある中、まだ芸人があまりやっていなくて、僕らのことを全く知らない世界で勝負をする。「はいはい、『しずる』ね」じゃなくて「『しずる』って?」となるところで勝負をする。
そういうところを攻めていくというのも、今は必要なことなのかなとも思っています。
20年やってきて、これも変な話なんですけど、周りと比べて負けるところがいろいろとあるぞと。それだったら、日本を離れて別のフィールドを探しに行く。それもアリなんじゃないかなと。要は何かで結果を出すことが大切なので。
村上:とにかく日々のことをコツコツとやっていく。それしかないし、それが一番精神衛生上もいいのかなというのが今の思いです。
この世界、“倍々ゲーム”があるのも見てきたし、この世界だからこそ、それを目指したいという思いもあります。
でも、ここまでやってきた中で「これくらい一気に行けたらいいな」と思っていることが具現化できたら最高なんですけど、それができなかった時の落胆も味わってきました。
そうなると、そこでのダメージが大きすぎる。自分の性格的にもそこで止まってしまうことが予想される。結局、トータルで歩みが遅くなってしまう。
だったら「コツコツやるんだ」と決めて毎日コツコツとやる。コツコツが絶対に悪いことではないことも今なら分かっている。コツコツは自分の意識次第でできるから、大きな仕損じがない。そうなると自分にとっては効率が良いのかなと。
これまでも「コツコツやるのは大切」という日本語は幾度となく聞いてきましたし、意味も分かっているつもりではいました。でも、ここにきてそこに本当に血が通ったというか、心底思うようにもなったんです。
なので、今回の単独ライブも特に奇をてらうようなことはなく、今の自分らを一番強く表現している新ネタを並べる。以上。というような構成にしています。積み重ねを着実にしていく。その考えが表れているのかなと思っています。
今さらもっと有名人になりたいとか、今さらもっと人気者になりたいということもない。そんな思いはデビュー直後に考えていた思いに比べたら絶対に脆弱ですし、体力的にも追いつかない。でも、今は本気でコツコツの意味が分かる。それも意味のあることなのかなと。
70歳での理想形
村上:いろいろな人にお世話になったからこそ、今の歳までこの仕事を続けてこられたんですけど、その流れの原点を作ってくれたのが僕にとっては「ピース」の又吉さんです。
デビュー2年目くらいの時に、吉本興業がやっているCSの番組があって、若手が新ネタをやって競い合う内容だったんです。そこで又吉さんと初めてお会いしたんですけど、当時の僕は本当にとんがっていたというか、先輩とは一切しゃべらない。接点も持たない。これを貫いていたんです。我ながら、とんがってるなと思いますけど(笑)。
そんな中、その日の番組は結局「ピース」さんが一番になったんですけど、又吉さん「今日たまたま順位はオレらが一位やったけど、それはお客さんの中の知名度とかなじみがあるかどうかという要素もあるだろうけど、純粋に一番面白かったのは『しずる』やった」と言ってくれたんです。
まず「ピース」さんのネタが先輩に失礼ながらものすごく面白かったこと。言葉がものすごくやさしかったこと。それがすごい濃度で押し寄せてきて、その瞬間、初めて先輩としゃべりたいと思ったんです。
お客さんに診てもらうのが一番なんですけど、何をやっていても、見てくれている人は見てくれている。一人かもしれないけど、その一人が本当に面白い人だったら、それだけで十二分に救われる。この感覚は本当に貴重なものでしたし、そこからあらゆる先輩と時間を共にさせてもらうようにもなっていきました。
そうやって人に支えられ、ここから何とか芸人を続けて、60歳、70歳となっていく。どうなってるんでしょうね(笑)。
その年齢でコンビでコントをやっているベテランさんが吉本の劇場には出てないんですよね。そうなると、想像がつかない。でも、想像がつかないことができないことではないとも思うので、何とかそれができていたらなとは思います。
でも、それができているということは、その時に出ている勢いのある若手よりも面白いという事実がないとダメだとも思っています。
「キングオブコント2048」とかで優勝しているコンビより面白い。だから劇場に出ている。それがないと話にならないでしょうし、なんとかそこまで積み重ねができていればとは思っています。
KAƵMA:そして、若手に目の前でバカにされるぐらいの芸人になってたらいいなと思いますね(笑)。大ベテランなのに、ボロクソにイジられる。それも隙間産業じゃないですけど、なれたら楽しいだろうなと。
目の前で若手に「古いですよ!」「いつまでやってるんですか」とか言われて「うるせぇな!まだウケるからやってんだよ!」みたいなことができていたらなと。自分らの前では全員が毒蝮三太夫さんみたいにイジってくれるのが理想ですね。
ま、あまりにもボロクソに言われたらゲンナリしちゃうかもしれませんけど(笑)、そんな歳まで長くコントができている。それができたら本当にうれしいことだと思っています。
(撮影・中西正男)
■しずる
1981年1月14日生まれで東京都出身の村上純と、84年1月17日生まれで埼玉県出身の池田一真が2003年にコンビ結成。NSC東京校9期生。独創的な設定のコントで注目を集め「キングオブコント」では09年、10年、12年、16年と決勝に進出している。3月23日には東京・ルミネtheよしもとで新ネタ8本を披露する単独ライブ「不自然な藍色」を開催する。