中国企業の「おてつき」がサプライチェーンを破壊する日
米国政府、中国政府の思惑
5年前日本に大きな被害の爪跡を残した東日本大震災。極めて大きな災禍とはいえ、海を越えた各国の生産にも影響を与えた様を目の当たりにして、サプライチェーンが広く世界に広がっていると実感する出来事でした。
私は調達・購買・サプライチェーンのコンサルタントです。年度のトピックスを集めて、「The調達2016」といった冊子も配布しているのですが、このところ企業を苦しめているのが、サプライチェーンのグローバル化とその支障です。
先日、ある中国企業が米国商務省から輸出規制の対象にすると発表されました。
対象となった中国企業は通信機器メーカーの中興通訊(ZTE)です。同日、同社と取引関係にあるとされる米国企業に対し、課された輸出規制に従うよう要請されました。輸出申請をしたとしても、許可される可能性が極めて低く、今回の決定は事実上の取引禁止です。
これは米国から中興通訊(ZTE)に輸出する際に規制がかかるものです。ややこしいのですが、さらに、米国製品をZTEに輸出しようとする企業は、世界のどこにいても、この規制が適用されます。
中国政府も、今回の処置には抗議をしていますが、具体的な対抗処置はありません。今後どうなるかは、注意深く推移を見守るとして、米中両国の対応の応酬が、サプライチェーンの実務にどのような影響を与えるのか、4つのポイントが考えられます。
サプライチェーンに与える影響4つのポイントその1
まず、これはグローバルに構築された分業体制を破壊する可能性があります。
この中興通訊(ZTE)はマイクロソフト、インテル、IBM、ハネウェル・インターナショナルの各社と提携関係にあります。また、クアルコム、ブロードコム、インテルが同社のサプライヤ(部品供給企業)です。
中興通訊(ZTE)のホームページの製品情報を参照すると、付加価値の高い、高い機能を有した部品を購入しています。今回の処置で、部品の供給が滞った場合、中興通訊(ZTE)の業績に著しく大きなマイナスの影響をおよぼします。
サプライチェーンに与える影響4つのポイントその2
そこで、中長期的な独自路線主義を志向する可能性があります。
中興通訊(ZTE)社は、中国国内はもとより、グローバルに展開しています。そういった世界に張り巡らせたリソースを活用して、新たなサプライヤを開拓や、自社開発に踏みだす可能性もあります。つまり、米国のサプライヤや提携先を不要にする取り組みです。
短期的に米国サプライヤから購入している製品と同等品質の確保は難しいでしょう。しかし中長期的には大いなる可能性を秘めています。中興通訊(ZTE)創業が1985年。研究開発に重点投資をおこなって、ここまで成長した企業です。中国政府重点支援企業にも選出されています。
今回の購入対象となる製品は、現在の技術力でも米国企業に優勢性が存在するでしょう。中核、周辺を含めた技術は特許で守られているものの、優位性は未来永劫にわたって揺るがないかといえば違うでしょう。
かつて、日本も貿易摩擦まっただなかの時代に、産業スパイや不正輸出によって、米国から糾弾されました。結果、日本は米国のルールに沿って、資本主義先進国の一員となりました。しかし、今回の相手は中国。米国の設定したルールそのものに疑義を呈しています。
今後もこういった案件は増加によって、米国企業の技術を自国・自社開発する可能性は多いにあります。
サプライチェーンに与える影響4つのポイントその3
日本企業への影響です。米国製品ではなかったとしても、中興通訊(ZTE)との取引、特に中興通訊(ZTE)への販売に逡巡する企業が増えるはずです。
中興通訊(ZTE)のサプライチェーンに、日本企業がどのように組みこまれているのかによって、これからの影響度合いが明らかになるでしょう。
サプライチェーンに与える影響4つのポイントその4
中興通訊(ZTE)社は、米国内にも研究センターを設けており、米国研究拠点のメンバーは、研究開発したデータを携えて、米国と中国を行き来していました。これが米国法に抵触すると、中興通訊(ZTE)内部でも認識されていました。
業務上必要なデータをパソコン内にデータとして保存し、海外出張で中国を訪れた経験をお持ちの方は多いはずです。データの内容によっては法令違反となる可能性があり、今後は注意が必要です。
悪気なく、アーカイブされたデータが、法令違反に該当する可能性があるのです。
以上、複雑な影響を及ぼしうる事件について4つのポイントを解説しました。