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南北「共同報道文」の全訳…北側は「核」に強く反発

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
9日、南北会談前に握手する北側の李善権代表(左)と南側の趙明均代表。統一部提供。

1月9日、南北代表は板門店の韓国側施設「平和の家」で2015年12月以来、約2年ぶりとなる南北高位級(閣僚級)会談を行った。会談の結果、採択された共同報道文の日本語訳を掲載する。

9時間の長丁場の末に共同報道文を採択

午前10時(北朝鮮時間同9時半)より始まった会談は、2度の全体会議、首席代表同士の2度の接触、そして4度の実務会議という内容で行なわれた。共同報道文は午後8時に双方の首席代表の出席の下で確定し、21時頃に発表された。

以下に共同報道文の全文を翻訳して掲載する。

【全訳】南北高位級会談 共同報道文(2018年1月9日)

南北高位級会談 共同報道文

「南北高位級会談」が2018年1月9日、板門店で行なわれた。

会談で双方は、北側代表団の平昌冬季オリンピック競技大会および冬季パラリンピック大会への参加問題と、すべての同胞の念願と期待に合わせ、南北関係を改善していくための問題を真摯に協議し、以下のように合意した。

1:南と北は南側の地域で開催される平昌冬季オリンピック大会および冬季パラリンピック大会が成功裏に開催され、民族の位相を高める契機になるよう、積極的に協力することにした。

これと関連し、北側は平昌冬季オリンピック大会に高位級代表団と共に、民族オリンピック委員会代表団、選手団、応援団、芸術団、参観団、テコンドー師範団、記者団を派遣することにし、南側は必要な便宜を保障することにした。

双方は北側の事前の現場踏査のための先発隊の派遣問題と、北側の平昌冬季オリンピック参加と関連する実務会談を開催することにし、日程は今後、文書を交換する方式で協議することにした。

2;南と北は、軍事的な緊張状態を緩和し、朝鮮半島の平和的な環境を作り、民族的な和解と団結を高めるために共同で努力することにした。

南と北は現在の軍事的緊張状態を解消していかなければならないという見解を同じくし、これを解決するために軍事当局会談を開催することにした。

南と北は多様な分野で接触と往来、交流と協力を活性化させ、民族的な和解と団結を高めることにした。

3:南と北は南北宣言を尊重し、南北関係で提起されるすべての問題を、わが民族が朝鮮半島問題の当事者として、対話と交渉を通じ解決していくことにした。

このために双方は南北関係の改善のための南北高位級会談と共に、各分野の会談も開催することにした。

2018年1月9日

板門店

9日、板門店で約2年ぶりとなる対話を行う南北代表。左側が韓国だ。写真は統一部提供
9日、板門店で約2年ぶりとなる対話を行う南北代表。左側が韓国だ。写真は統一部提供

北側の李首席代表は「核」に反発。「戦略武器は米国を狙ったもの」と強調

午後8時に開かれた終結会議の席で、李首席代表は会談で決まった平昌五輪参加に対し、「民族の慶事(五輪)を共に喜び、精一杯助けてあげなければならないというのは、わが国務委員長(金正恩氏)の意志」と振り返った。

なお、会談の終了後に届いた一報によると、韓国側の趙明均(チョ・ミョンギュン)首席代表による全体発言にあった「早期に朝鮮半島の非核化など平和定着のための諸般の問題を議論するための対話を再開する必要がある」という文言に、北側の李善権(リ・ソングォン)首席代表が強く反発したとのこと。

この真相はこうだ。

李首席代表は南側の言及について「南側のメディアが『非核化の問題について会談を進めている』という世論を拡散させた」とし、「なぜこんな話をするのか理解できない」としたのだった。

さらに「我が国が持つ大陸間弾ロケットをはじめとする全ての最尖端戦略兵器は、徹頭徹尾、米国を狙ったもので、同族を狙ったものではない」と興奮した様子で語ったとのことだ。

そして「南北の対話と関係改善を志向するのに抵触する障害となるこうした問題を果敢に克服できるよう注力することが必要だ。とても遺憾だ」と強い表現で語った。

この点は明確に、「民族」の名の下、米韓の間に楔(くさび)を打ち込む意図が読める。

9日午前、会談場である板門店「平和の家」に入場する北側の李善権代表(左)と南側の趙明均代表。統一部提供。
9日午前、会談場である板門店「平和の家」に入場する北側の李善権代表(左)と南側の趙明均代表。統一部提供。

統一部長官は「南北緊張緩和の契機を作った」と評価

韓国側の首席代表の趙統一部長官は、会談終了後の記者会見で「国民の皆様の応援に力を得て、今後の発展のための重要な対話の第一歩を踏み出したと考える」と南北会談を振り返った。

また「南北は相互尊重の精神を土台に、南北関係を進展させるという点に、目的を同じくした。こうした南北の態度により、会談は終始一貫して真摯で友好的な雰囲気で行なわれた」と明かした。

確かに、会談中に現場の韓国側記者が伝えてきたところによると、北側の年配の随行記者が「こんなに良い雰囲気は初めてだ」と語ったという証言があった。「良い雰囲気」ではあったものと思われる。

趙長官はさらに、北側の平昌五輪参加を確定させたことについて「朝鮮半島の緊張緩和の契機を作ったと考える」と評価した。

また、次回の会談の時期については「協議する」と答えるにとどまった。

そして最後に「今後がより重要だ。合意した内容が着実に履行されるようにし、関係改善のための第一歩が後ろに下がらないようにする」と決意を延べた。

詳細な分析は、明日以降の記事で整理する。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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