これがギレルモ・デル・トロの頭の中!L.A.で開催中の特別展を見に行った
「クロノス」でデビューしたメキシコの映画監督ギレルモ・デル・トロは、「デビルズ・バックボーン」「ヘルボーイ」「パンズ・ラビリンス」、そして最近の「クリムゾン・ピーク」でも、モンスター、クリーチャー、悪魔、幽霊など、暗く、恐ろしい世界に対する独特な感性を見せてきた。子供の頃からホラー、ファンタジー、フェアリーテールに魅せられてきたデル・トロは、それらに関する膨大なコレクションを持っている。
吸血鬼、狼男、エイリアンなどに埋め尽くされたL.A.郊外の自宅を、デル・トロは、“Bleak House”(荒涼館)と呼んでいる。コレクションが膨らみすぎて、最近では近所の家をもう一軒買い、“Bleak 2”を作ったほどだ。この家には、ジェームズ・キャメロン、J・J・エイブラムス、ジョン・ファヴローなどが招かれてきたが、ついに映画ファンも、少しだけ覗き見できる時がやってきた。
今月、ロサンゼルス郡立美術館(LACMA)で始まった「Guillermo del Toro: At Home with Monsters」展は、デル・トロの長年のコレクションの一部や、彼の映画の絵コンテ、衣装、オブジェ、映像、自筆のノートなどを通して、彼のイマジネーションを探索するもの。
映画監督としての彼のキャリアを時系列に従って追うものではなく、展示は、「死と、死後の世界」「マジック」「オカルト」「モンスター」など、テーマ別になっている。順路も指定されておらず、まさに、恐怖の館の中を歩き回る感じだ。彼の“Bleak House”から借りられてきたもののほかに、その世界に通じるLACMAや別の美術館、図書館などが所有する作品も展示されている。
巨大なフランケンシュタインや、等身大の「パシフィック・リム」の子供時代のマコ、天井からぶらさがるロブスター(デル・トロが、『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』をプラハで撮影している時に購入したものだそうだ)など、すぐ目を引くものとともに、宮崎駿が製作した虫や、ジェームズ・キャメロンによる「アバター」のコンセプトアート、辻一弘による故ディック・スミスのポートレート像など、興味深いものがたくさん混じっている。
デル・トロは、若い頃から、伝説の特殊メイクアップアーティストであるスミスに強い尊敬を持っており、スミスに手紙を書いて、メキシコの映画学校を卒業後、スミスの下で修行をしている。辻一弘も、日本にいる時にスミスに手紙を書いて渡米し、後にスミスの弟子で7度のオスカーに輝くリック・ベイカーに師事、自身もオスカー候補入りした人だ。
ところで、この展示ではあまり明らかではないものの、デル・トロは、日本のテレビ番組やアニメ、怪談などからも、多大な影響を受けてきている。中で人間が操縦するロボットと怪獣が戦う「パシフィック・リム」は、まさにそれを象徴する作品だが、筆者がその撮影現場を訪れた時、彼の口から「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「コメットさん」「鉄腕アトム」「呪いの館 血を吸う目」などのタイトルがすらすら出てくるのに驚かされた。
「パシフィック・リム」は、期待されたほどの大ヒットにはならなかったせいで、続編のゴーサインが出るのに時間がかかったが、ようやく本格的に動き出し、スコット・イーストウッドや「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のジョン・ボイエガの出演が決まっている。多忙なデル・トロは、続編ではプロデューサーと脚本家にとどまるようだ。
今後監督をする予定のプロジェクトには、「ピノキオ」「ジギルとハイド」「ホーンテッドマンション」など、いかにも彼らしい作品が並ぶ。「パシフィック・リム」の撮影現場取材で、別の記者に「ロマンチックコメディや人間ドラマを作りたいと思うか」と聞かれると、デル・トロは、即「ノー」と答えている。「僕は、ハイパーリアルな色、ハイパーリアルな手触りに興奮を感じる。黄色い壁に青い照明とか、独特の言葉とか。それを恋愛物や現実的な犯罪物でやったら、不自然だ。僕は、それができるような、やや現実を超越した世界を描くことに喜びを感じるんだよ。」
「Guillermo del Toro: At Home with Monsters」は、ロサンゼルス郡立美術館(lacma.org)で、11月27日まで開催。