北海道新幹線「並行在来線」旅客廃止で本当に大丈夫!? 意外に利用者が多い八雲駅周辺区間
筆者はこの8月、「北海道&東日本パス」を利用して長万部駅を16時18分に発車する函館行の普通列車に乗車し、北海道新幹線の「並行在来線」区間となる長万部―函館間を乗り通したことは、2023年8月29日付記事(札幌ー東京間を普通列車だけで移動するとどうなるの!? 実際に35時間かけて乗ってみた【前編】)にも記した通りだが、夕刻の八雲駅を通った際に予想以上に通勤・通学の利用者が多かったことから、今回はその時の様子をレポートしたい。
貨物専用路線化が濃厚な長万部―函館間
函館本線の長万部―函館間は、北海道と本州を結ぶ物流の重要ルートで上下合わせて1日50本程度の貨物列車が運行されている。この区間についてはなかなか方向性がまとまらず、廃線すら取り沙汰される状況となっていたが、この7月に国、北海道、JR北海道、JR貨物の4者が貨物列車の維持を図る方向性については正式合意となった。
しかし、そもそもこの路線は、北海道の農水産物の輸送や自衛隊の機材輸送など、日本の食料安全保障や国防にも直結する重要路線であるにもかかわらず、廃線の話が出ること自体が北海道行政の異常さを露呈している。また、新幹線の経済効果を地域に波及させることを考えると、2次交通の充実が重要となるが、バスでは観光客の求心力に乏しく鉄道在来線での観光ルート整備が重要となるが、北海道行政はそういったことに理解がないのも大問題だ。
中心市街地に駅がある八雲町
長万部駅を16時18分に発車した函館行の普通列車は、函館までの通し乗車をする観光客のほか数名の高校生が乗車しており、通学定期を持った高校生は国縫駅で下車していった。そして、長万部町の隣町である八雲町の八雲駅には16時52分に到着した。
八雲町の人口は1万5000人あまりで市街地は比較的広い。八雲駅は中心市街地に立地しており、駅前には大手チェーンのドラッグストア2件とビジネスホテル、駅裏にはスーパーマーケットが出店している。さらに市街地南側には航空自衛隊八雲分屯地が隣接しており滑走路を有している。
列車が八雲駅に到着すると帰宅の高校生と通勤客が一気に乗り込むこととなり、車内は立ち席客が出るほどの盛況ぶりとなった。八雲では12分間の停車時間があり、その間に札幌方面からやってきた後続の貨物列車に道を譲る。北海道新幹線の並行在来線区間となる長万部―函館間については貨物列車を維持する方向性のみは決まったが、貨物専用線として旅客列車は全廃になるという話も出ている。しかし、八雲駅から旅客列車がなくなれば駅前の地価が下落し、空洞化を招くことが心配だ。
北海道新幹線の新八雲駅は市街地からはかなり離れた場所に建設がされること、新幹線は料金が高額であることなどから町民が日常的に利用できる交通機関として適さない。また、新幹線の経済効果を地域内に波及させようとした場合には2次交通の整備が必要不可欠であるが、やはり新幹線と相性の良い2次交通は鉄道在来線でありバスは適していないことは、九州新幹線や北陸新幹線などの事例からも明白だ。
野田生駅や落部駅までの区間利用者多数
八雲町内には野田生や落部など比較的大きな集落があり、八雲から乗車した乗客の大半は野田生駅と落部駅で下車していった。ちなみに函館本線での八雲―野田生間9.7kmの所要時間は11分、八雲―落部間15kmの所要時間は17分であるが、並行する函館バスでは、八雲駅前―野田生駅前間が18分に、八雲駅前―落部駅前間が25分に伸びるとともに特に冬季間の定時制には不安も残り、鉄道の旅客廃止は同地区の住民にとって大幅な利便性の低下を招くことになりかねない。なお、6月18日に札幌から函館に向かう都市間高速バスとトラックが正面衝突し5人の死亡者を出した事故現場は、八雲町野田生にある。
一般的に鉄道を廃止してバス転換した場合には、鉄道からバスに転換する利用客は30%~50%に落ち込むことが通例で、バスに乗らなくなった乗客はマイカーを選択することになる。特に、高校生を持つ家庭ではバス通学をあきらめ親がマイカーでの送迎に切り替えるケースも多いという。ガソリン価格が高騰する中で、公共交通政策を軽視することは住民の自動車依存度をさらに高めることになり、家計を圧迫することになりかねない。
また、一方で、北海道内ではバスドライバー不足も深刻化し、札幌―函館間の都市間高速バスの大幅減便を始め、各地でバス路線の減便、廃止の流れが加速している。こうしたことからも、北海道新幹線「並行在来線」の長万部―函館間について旅客輸送を廃止してしまうことが正しいのか再考の余地はあるのではないだろうか。
(了)