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大谷翔平がエンジェルスと再契約を交わすとすれば…

宇根夏樹ベースボール・ライター
左から、大谷翔平、ノーラン・シャヌエル、マイク・ムスタカス Aug25,2023(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 FAとなってから1ヵ月が経つが、来シーズン以降、大谷翔平がどの球団でプレーするのかは、まだわからない。需要と供給の関係が成り立っていないことも、その一因になっていると思われる。

 例えば、昨オフのFA市場には、大物の遊撃手が4人いた。カルロス・コレイア(現ミネソタ・ツインズ)、トレイ・ターナー(現フィラデルフィア・フィリーズ)、ザンダー・ボガーツ(現サンディエゴ・パドレス)、ダンズビー・スワンソン(現シカゴ・カブス)だ。いずれも、年平均2500万ドル以上、総額は1億7000万ドルを超える契約を手にした。

 複数の選手と複数の球団が動けば、それだけ情報は出てきやすくなる。駆け引きとして、意図的な情報のリークも起こり得る。けれども、大谷は、唯一無二の存在だ。球団からすると、大谷に近い選択肢すらない。すべての決定権は、大谷にある。

 ESPNのジェフ・パッサンやMLB.comのマーク・フェンサンドをはじめ、多くの記者は、大谷がロサンゼルス・エンジェルスと再契約を交わす可能性を否定していない。いくつかの球団と接触した結果、これまでどおり、エンジェルスにいるのがいい、と大谷が判断することも考えられる。言うまでもなく、決断の要素は、金銭とは限らない。

 ただ、大谷がエンジェルスに戻る場合の契約は――その可能性は高くないと見ているが――短い年数か、年数は長くても、途中で打ち切ることができるオプト・アウトの権利がつくのではないだろうか。

 これまで、大谷がいても、エンジェルスはポストシーズンに進むことができなかった。勝ち越したシーズンすら、皆無だ。大谷が戻ってきても、補強を行わない限り、同じことの繰り返しになりかねない。

 新たな選手を加えても、その選手が活躍するとは限らない。昨オフ、エンジェルスは、タイラー・アンダーソンを3年3900万ドルの契約で迎え入れた。アンダーソンは、FAとなる前に、ロサンゼルス・ドジャースで178.2イニングを投げ、防御率2.57を記録した。今シーズンは、141.0イニングで防御率5.43に終わった。

 大谷自身も、来シーズンはマウンドに上がらないので、今シーズンと比べると、プラスにはなり得ない。2025年からは、再び先発投手とDHとしてプレーするだろうが、エンジェルスと長期契約を交わしている2人、現時点で32歳のマイク・トラウトと33歳のアンソニー・レンドーンは、さらに欠場が増え、パフォーマンスも低下するかもしれない。

 彼らは、補強の足枷にもなる。トラウトの契約は、年俸3545万ドルが2030年まで続く。レンドーンは、年俸3800万ドルが2026年までだ。今シーズンもそうだったが、ここからの3シーズンも、エンジェルスは、2人に計7345万ドルずつを支払う。

 大谷がエンジェルスと長期契約を交わした場合、トラウトがそうなりつつあるように、ポストシーズンに出場できないまま、全盛期が過ぎることになってもおかしくない。トラウトがポストシーズンでプレーしたのは、2014年の3試合だけだ。現在の契約は、2019年にスタートした。

 それに対し、1年か2年の契約なら、大谷は、30歳か31歳で再びFA市場に出る。FAとしては普通の年齢なので、長期の大型契約を得るチャンスもある。オプト・アウトの権利がついている契約も、短い年数の契約と同様だ。こちらであれば、FAになるかならないかを選ぶことができる。

 2021年のオフにFAとなったエデュアルド・ロドリゲスハビア・バイエズは、デトロイト・タイガースに入団した。それぞれが得た5年7700万ドル(2022~26年)と6年1億4000万ドル(2022~27年)の契約には、どちらも、今オフに行使できるオプト・アウトの権利がついていた。

 ともに30歳の今シーズン、ロドリゲスは152.2イニングで防御率3.30、遊撃手のバイエズは出場136試合で出塁率.267とOPS.593を記録した。ロドリゲスの防御率は、150イニング以上の58人中、12番目に低かった。バイエズの出塁率とOPSは、500打席以上の136人中、ワースト1位とワースト2位に位置した。

 今オフ、ロドリゲスはオプト・アウトの権利を行使し、FA市場に出た。バイエズは行使せず、タイガースにとどまった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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