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妊娠中絶法が昔に逆戻り?ノルウェーの女性が怒る 国会前で大規模デモ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オスロ国会前で8000人がデモ Photo: Asaki Abumi

「妊娠中絶法に触れるな」、「首相とキリスト教民主党は、私たちの子宮に入ってくるな」。

17日、土曜日の日中、ノルウェーの首都オスロにある国会議事堂前には、およそ8000人の市民が集まった。デモは全国各地33か所で同時開催された。

「中絶を交渉のカードにするな」、「私の身体、私の選択」。政権の行方の議論に、「女性の権利を利用するな」と訴える市民 Photo: Asaki Abumi
「中絶を交渉のカードにするな」、「私の身体、私の選択」。政権の行方の議論に、「女性の権利を利用するな」と訴える市民 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーで40年前に国会で可決された現在の中絶法。

「中絶をするかを自分で決定する女性の権利」が、今、政権続投の駆け引きで見直される動きがあり、女性たちの怒りを買っている。

国会前に人々が押し寄せる Photo: Asaki Abumi
国会前に人々が押し寄せる Photo: Asaki Abumi

現在のノルウェー政府は、右派ブロック3党による連立政権。加えて、「キリスト教民主党」が閣外協力して、4党の協力体制で成立している。

この中絶デモの発端となっている政権騒動については、別記事「キリスト教政党の選択と葛藤、極右との政権へ ノルウェー政治に激震」にて。

同党は、政権入りして首相の足元を強化する条件のひとつとして、今の妊娠中絶法を見直すように求めている。

現在の妊娠中絶法は「分類社会」をうむと主張するキリスト教民主党。考えが違う女性たちにとっては「余計なお世話」 Photo: Asaki Abumi
現在の妊娠中絶法は「分類社会」をうむと主張するキリスト教民主党。考えが違う女性たちにとっては「余計なお世話」 Photo: Asaki Abumi

保守的な考えをもつ同党は、現在の法の2点に批判的だ。

  • お腹の中にいる子どもに深刻な病気がある場合、12週目以降も中絶できる権利(ダウン症などの人間に対する差別と捉える人もいる)
  • 双子の両方が健康だとしても、1人だけを12週目までなら中絶できる権利(妊娠中絶法が施行後、医療の発展により双子中絶は可能になったため、再議論されてもよいのではという意見もある)

胎児の取捨選択は「分類社会」をうむ

障がいという理由による中絶。「二人も子どもはいらない」という理由で、健康だとしても、1人を取捨選択して中絶することは、「分類社会」につながるというのがキリスト教民主党の主張だ。

本来、この党以外は、右派・左派含め、中絶法は変える必要がないという考え方。

しかし、現在の右派政権を維持するためには、キリスト教民主党が必要不可欠。ソールバルグ首相(保守党)は交渉に応じる姿勢を示しているため、女性たちの怒りに火をつけた。

「私の」という言葉で訴える女性たち。首相やキリスト教民主党が女性たちの身体に介入してくることを否定する Photo: Asaki Abumi
「私の」という言葉で訴える女性たち。首相やキリスト教民主党が女性たちの身体に介入してくることを否定する Photo: Asaki Abumi

「自分たちの身体のことは、自分たちで決める」。女性たちが長い歴史をかけて勝ち取ってきた妊娠中絶法。

生と死、女性と母親の権利と自由、モラルが問われる。人々を感情的にさせるテーマのため、ノルウェーでは大きな議論となっている。

デモには与野党の両派が駆けつける。赤いマフラーの男性は左派ブロックのリーダー、労働党のストーレ党首 Photo: Asaki Abumi
デモには与野党の両派が駆けつける。赤いマフラーの男性は左派ブロックのリーダー、労働党のストーレ党首 Photo: Asaki Abumi

これまでノルウェーで取材してきたデモの中でも、今回の中絶法デモからは、特に大きな怒りと憤りを人々の波から感じた。

あまりに多くの人が来たため、国会周辺にも人が集まる Photo: Asaki Abumi
あまりに多くの人が来たため、国会周辺にも人が集まる Photo: Asaki Abumi

例え議論する余地のあるテーマだとしても、長い時間をかけて議論・検討されるべきだろう。

現政権が存続するための「交渉のカード」として突然使われるべきではないと、人々を憤慨させている。

「妊娠中絶法を今のままで」と首相に抗議 Photo:Asaki Abumi
「妊娠中絶法を今のままで」と首相に抗議 Photo:Asaki Abumi

法の見直しを求めているキリスト教民主党が、交渉で成功するかはまだわからない。

法にメスを入れた場合、短期的には政権を維持できても、次回の選挙に影響を及ぼす場合もある。

首相率いる右派ブロックは、キリスト教政党の仲間入りで強化されたようで、どこか不安定さが残る。

「強制的な出産にNO」、ノルウェーの左派政党らも駆けつける Photo: Asaki Abumi
「強制的な出産にNO」、ノルウェーの左派政党らも駆けつける Photo: Asaki Abumi
「自分で決める」 Photo: Asaki Abumi
「自分で決める」 Photo: Asaki Abumi
「私の子宮は交渉のカードじゃない」 赤党青年部の旗 Photo: Asaki Abumi
「私の子宮は交渉のカードじゃない」 赤党青年部の旗 Photo: Asaki Abumi
「私の身体、首相の交渉のカードではない」左派社会党のプラカードPhoto: Asaki Abumi
「私の身体、首相の交渉のカードではない」左派社会党のプラカードPhoto: Asaki Abumi
「私の身体、私の選択」 Photo: Asaki Abumi
「私の身体、私の選択」 Photo: Asaki Abumi
北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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