Yahoo!ニュース

「君たちはどう生きるか」(スタジオジブリ):過剰な情報の中で、私たちはどう生きるのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
「君たちはどう生きるか」評価は真っ二つ(写真:ロイター/アフロ)

スタジオジブリの宮崎駿監督の10年ぶりの新作映画「君たちはどう生きるか」

もちろん、言うまでもなく、ネタバレなし。私たちはどう生きる?

「君たちはどう生きるか」

中学生のころ、本屋で偶然見つけた本。「君たちはどう生きるか」。少し生意気を言いはじめていた私には、とても魅力的に見えた。子供にとっては、それなりの金額だったが、自分のお金で買った。

その後ずっと、そして今も、「コペル君」のことは覚えている。詳しいストーリーは忘れても、見方を変える、発想を根本的に変える「コペルニクス的転回」は覚えている。

詳しいストーリーは忘れても、コペル君の心の旅は、私に影響を与え続けている。

これが、どんな本なのか、ずっと知らなかった。普通の児童文学かと思っていた。数年前の再ブームまで。作者、吉野源三郎氏のことも、全く意識していなかった。

それは偶然の出会いだった。

ジブリ映画「君たちはどう生きるか」

吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」とジブリ映画「君たちはどう生きるか」とは、直接の関係はない。映画の原作というわけでもない。タイトルを借りてきただけのようだ。

「〜だけのようだ」とは言っても、もちろん、ただ言い回しを真似ただけでもないだろう。

映画は、やはり「君たちはどう生きるか」と、私たちに問うている。

情報なしで映画を見る

情報の洪水の中で、私たちは溺れかけている。現代では、どう情報を集めるかよりも、不必要な情報にどのように触れないで済むかが、大切な生きる術ではないかと思うほどだ。

映画の宣伝の中には、「このシーンを事前に見せてしまって良いのか!?」と思うものまである。こんなものを見せられたら、映画館で見るときに、驚きや感動が薄れるのではと不安になることもある。

映画会社やマスコミからの、膨大な情報。映画サイトやSNSでの口コミと星の数。私たちは、そのような情報の中で、見る映画を決める。

映画会社としては、見てもらえなければ意味がないし、観客もコストパフォーマンスを考える。情報が必要。・・・情報は必要だろうか。

情報なし、偶然、一期一会、瞬間瞬間

心理学の研究である。今見ている映像が、リアルタイムの映像と思って見るのと、ビデオ録画だと思って見るのでは、観察力や記憶量が異なる。今まさに起きているリアルタイム映像だと思う方が、細かいことに気がつき、よく記憶に残るのだ。

授業では、予習復習が大切だとよく言われる。しかし研究によれば、人間の記憶は強い感情と共に覚えたことは記憶に残りやすい。予習なしで受けた授業で、驚いたり感心したことは、きっと長く記憶に残るだろう。

以前NHKで偶然見た映画(おそらくヨーロッパのテレビムービー)。とても印象的で、生き方に影響を与えるような映画だった。タイトルも何も覚えていないのが、原作は見つけた。「おじいちゃんの口笛」。有名な絵本だった。

私たちは、情報を集め、時間やお金が無駄にならないように、最適なものを探し、最適なものだけに触れようとする。しかし、それが本当に最適かどうかはわからない。

買うべき本が決まっているなら、ネットで購入するのは便利だ。調べたいtことがあり、キーワードが頭に浮かんでいるなら、ネット検索は合理的だ。しかし、本屋や図書館をぶらぶらと歩きながら、ふと出会う本もある。

街を歩きながら、ふと立ち止まった映画館で、情報なしで映画を見ることも、かつてはあった。かつては。

ジブリ映画「君たちはどう見るのか」を情報なしで

今回、全く情報なしで見た。何年ぶりだろう。何十年ぶりだろう。物語は、まず設定がある。時代、国、SF、ファンタジー、なんでもありだ。

「ここは動物の国」「ここは江戸時代」「ここは千年後の宇宙船の中」。読者、観客はそれを受け入れる。ここはどこで、いつなのか、これからどんな物語が展開されるのか、主人公は誰か。どんな人間関係か。

これをまず理解しないと、その後の物語についていけない。

何しろ全く情報なしだ。目が離せない(もしも早回しができたとしても、情報なしでは早回しもできない)。

バネがきしむ感じ、古い木の板質感。いつものジブリ映画らしい、丁寧な描写。見ていて心地よい。

さて、映画を見終わって(映画に関する話は当然割愛です)

そう、私は死ぬのが怖くなくなりました。

そして、生きることも、怖くなくなりました。

これが、映画の感想。

そして、このページの内容が、映画の感想。

みなさまも、ぜひ情報なしで。緊張感の保てる映画館でのご鑑賞を。

        ***

えー、優れた作品はたしかに人生観に影響を与えますが、しかしアニメで人生が創られては困るでしょう。そんなことは、宮崎駿監督も望んでいないはず。アニメは、エンターテインメント。

宮崎監督自身が、「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」と語っています。

たしかに分かりにくい点はありますね。すでに、ネタバレを含む解説のページも公開されています。けれども、何でも説明すれば良いとは思いません。音楽を聴くように、美術館を歩くように、その時々の音楽と映像を楽しみましょう。自分なりに感じましょう。

そうして楽しくアニメ映画を観て、ジブリの世界に浸り、そして私たちは現実の世界で生きていきます。私たちはどう生きるのかと、思いを巡らせながら。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

心理学であなたをアシスト!:人間関係がもっと良くなるすてきな方法

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

心理学の知識と技術を知れば、あなたの人間関係はもっと良くなります。ただの気休めではなく、心理学の研究による効果的方法を、心理学博士がわかりやすくご案内します。社会を理解し、自分を理解し、人間関係の問題を解決しましょう。心理学で、あなたが幸福になるお手伝いを。そしてあなた自身も、誰かを助けられます。恋愛、家庭、学校、職場で。あなたは、もっと自由に、もっと楽しく、優しく強く生きていけるのですから。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

碓井真史の最近の記事