排外主義団体のヘイトの「文脈」を無視した「難民受け入れ反対デモ」報道
「難民反対デモ」に「反ヘイトの市民」が対抗?
在日コリアンらに対するヘイトスピーチが大きな社会問題となってきた在特会などの排外主義団体による、「難民受け入れ反対」を掲げた「デモ」が11月29日、各地で行われた。同日付のデジタル朝日新聞は「難民受け入れ反対派がデモ 『差別反対』の抗議行動も」という見出しで、次のように報じた(ちなみに当初の見出しは「難民受け入れ、賛否両派デモ」だったが、アップ後しばらくすると変更されていた)。
表面的な主張だけが流布される危険性
記事の後半は省いたが、「(難民の)受け入れに反対する市民団体」が難民・移民の受け入れ反対を主張したと書いてあるだけで、彼らがこれまでどのような主張を掲げ、何をしてきたのかという「文脈」に関する情報は一切ない。だが、今の日本で難民受け入れ反対という主張を掲げて街頭でデモまで行う団体の性格、つまりは「文脈」を報じる義務はあるのではないだろうか。
実際にこの日も、各地で難民受け入れ反対を主張する一方で、これまで同様の在日コリアンらに対するヘイトスピーチをまき散らしていたという。表面的な「難民受け入れ反対」という主張だけが流布されることで、排外主義団体への「支持」や「共感」が広がってしまいかねないことを危惧する。
実態に触れず新たな問題の枠組で報道
カウンターと呼ばれる抗議行動を取り上げることでその辺をフォローしようとしているようにも見えるが、向こう側の実態について触れないと、なぜ参加者たちが「『難民問題に名を借りた差別だ』として反対する人たち」であり、ひいては「在日コリアンらへのヘイトスピーチに抗議してきた市民ら」なのかが、よくわからないだろう。
つまり、今回のデモも従来からの排外デモの文脈の話なのに、「新たに持ちあがった難民受け入れをめぐる問題」という枠組で報じているのだ。一時の勢いは失ったものの、今も毎週のように各地で排外デモがあり、カウンターの市民らも集まっているが、今回のように報じられることはほとんどない。「新たな難民問題」だからニュースバリューがある、ということなのだろうか。
(『週刊金曜日』2015年12月18日号「メディアウォッチング」)
以下、追記。
3週間後、都内で大規模ヘイトデモ
それから3週間後の12月20日、在特会らによる大規模な嫌韓ヘイトデモが東京都内であった。同日夜の韓国SBSニュースによると、警察の許可のもとで180余人が参加し、新宿のコリアンタウンにも久しぶりに足を踏み入れた。カウンターと呼ばれる抗議の市民らも多数駆けつけたが、11月29日の「難民受け入れ反対」デモのように大きく報じられてはいないようだ。
法務省、在特会前会長に勧告
なお法務省は22日、20日の新宿ヘイトデモの中心でもあった在特会の桜井誠・前会長が2008~11年に東京都小平市の朝鮮大学校前で行ったヘイトスピーチが「違法な行為」であり、「在日朝鮮人を犯罪者と決めつけ、憎悪と敵意をあおり、人間としての尊厳を傷つけるもので、人権擁護上看過できない」として、反省とともに今後は同様の行為をしないよう勧告した。
自主的な改善を促すもので強制力はないが、法務省がヘイトスピーチを「違法」「人権侵害」と認定してこのような勧告を初めて行った意義は大きく、これについては翌日付の各紙とも大きく報じていた(識者コメントなどの解説が充実した朝日、閲覧注意だが「法務省が公表した街宣の内容」が添付されている毎日、など)。
各メディアは、11月29日に「難民受け入れ反対デモ」を行ったのもこのような団体なのだという認識を強く持ち、それを踏まえた報道をしてほしい。