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注目の若手女優が見せてくれる、少女たちの「大切な場所」

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

誰にも、自分にとっての「大切な場所」があるものです。注目のCMで、注目の若手女優が見せてくれる、少女たちの「大切な場所」とは!?

いつもの自販機、世界一の「カフェ」

大学にとって、2月は入学試験の月です。現在の入試は、推薦やAO(アドミッション・オフィス)など様々な種類があり、年間を通じて入試が行われている感じです。

2月は、「一般入試」と呼ばれる旧来の試験があり、多くの大学がある東京には、全国各地から、たくさんの受験生がやって来るのです。

コカ・コーラの「自販機」キャンペーンCMは、北陸のどこかにある町が舞台となっています。

そして、登場する2人の女子高生(古川琴音&紫乃)にとって、海辺にあるバス停のベンチは「特別な場所」です。座るのも寝そべるのも自由で、自販機があるから、たった130円で、まったりとお茶できちゃうわけですから。

それに、周囲には誰もいないので、お互いの秘密を打ち明けても大丈夫です。

「ねえ。やっぱし東京にするわ、大学」と琴音さん。それを聞いても、平静を装いながら、「ほうけ(=そうなんだ)」と応じる紫乃さんです。

ずっと一緒だったのに、間もなく、遠くへ行ってしまう友・・・。

「ほやけど、ここが世界一のカフェやわいね」と琴音さんが続けると、紫乃さんはすかさず「オーシャンビューやし」と笑いかけます。

さらに琴音さんが、海に向かって「東京オ~、待っとれやア~!」と叫びます。すると紫乃さん、やはり海に向かって大声で「この娘(こ)、頼むさけなア~!」。いい友だちですよね。

かけがえのない故郷の親友も、いつもの自販機が待つカフェも、2人にとって世界一の存在。2人の個性的な少女と、あたたかみのある方言が印象に残ります。

特に古川琴音さんは、今年の注目株です。昨年の『凪のお暇』(TBS)や『サギデカ』(NHK)、今期の『絶対零度』(フジテレビ)などで、その姿を見た人もいるかと思います。

現在23歳だそうですから、「少女」と呼ぶのはやや躊躇してしまいますが、少女も自然に演じてしまう資質と演技力を持った女優さんと言えるでしょう。今後の活躍に、期待大です。

CMより(左・古川琴音さん、右・紫乃さん)
CMより(左・古川琴音さん、右・紫乃さん)

「路上」から、誰かを励ます

雨が降る夕暮れ。駅前の路上で、一人の少女(清原果耶)がギターを抱えて歌っています。しかも、その曲は、B・J・トーマスが歌った「雨にぬれても」。

1970年2月に日本で公開された、映画『明日に向かって撃て!』の挿入歌だったのですが、世界的に大ヒットしました。

『明日に・・』では、伝説のギャングを演じたポール・ニューマンとロバート・レッドフォードはもちろん、2人に愛されたキャサリン・ロスの笑顔も忘れられません。

それにしても50年前の曲です。少女の世代とこの選曲のギャップが意外で、また懐かしいバカラック・サウンドということもあり、もしも通りかかったなら、つい足を止めてしまいそうです。

こちらは京王電鉄のCMなのですが、「頭に雨つぶが落ちてくる。そんな憂鬱にも私は負けたりしない」という歌をバックに、画面に映し出されるのは、線路を守る人、車両を点検する人など、列車の安全運行を陰で支える人たちの姿です。

ホームで待っていれば、決まった時間に、いつもの電車が入ってくる。そんな「日常が日常であること」のありがたさを、ふと思わせてくれる映像です。

清原果耶さんが演じる、路上のギター少女の歌は続いています。そこは、見知らぬ人たちが通過していく場所。しかし何人かの耳に、自分の歌を届けることのできる「貴重な場所」です。

雨も相変らず降り続いています。でも、彼女が言うように、やまない雨はありません。

どんなに冷たい2月の雨だって、やまない雨はない。そう思うと、見ているこちらも、ちょっと元気が出てきます。

CMより(清原果耶さん)
CMより(清原果耶さん)
メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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