『オッペンハイマー』種々要因がハマって好スタート。より大ヒットへのカギは「多摩川を越える」こと?
3/29にようやく日本で劇場公開となった『オッペンハイマー』は、最初の週末に興行収入3億7800万円を記録。この数字は、今年に入ってからの洋画としてはナンバーワン。上々のスタートとなった。
3/11(日本時間)にアカデミー賞授賞式が行われ、『オッペンハイマー』は作品賞など7部門を受賞。『ゴジラ-1.0』や『君たちはどう生きるか』などの受賞で例年以上に日本でも関心を集めたアカデミー賞で頂点に立ち、そこから18日後の劇場公開ということで、タイミングとしては最適。アカデミー賞受賞を見越しての日程は吉と出た。
昨年、アカデミー賞作品賞の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、授賞式が3/13で日本公開が3/3だったので、アカデミー賞受賞で観客数が「微増」という結果。近年でアカデミー賞効果が顕著だったのは、2019年に作品賞受賞の『グリーンブック』で、授賞式が2/25、日本公開が3/1という完璧なタイミング。週末3日間で興収2億9000万円を記録した。
『オッペンハイマー』はアカデミー賞効果に加えて、作品自体への注目度も異例で、アカデミー賞翌日のNHK「クローズアップ現代」におけるクリストファー・ノーラン監督インタビューや、そのノーラン監督とアカデミー賞受賞の山崎貴監督の対談企画など、メディアでのプロモーションもこれ以上ないほどに効果を上げた。さらに広島・長崎での先行試写会によって、作品への様々な反応も多くのニュースとして伝えられた。
前述の『グリーンブック』は最終興収が21.5億円で、その年の洋画作品では年間15位。週末の数字で単純に試算すれば、『オッペンハイマー』は『グリーンブック』の130%なので、最終興収は28億円くらいなのだが、この後、どこまで観客を集められるかに係ってくる。日本と深い関わりのある作品で、しかも延び延びになって満を持しての公開なので、年間を代表するヒットにつながるのか?
ハリウッド大作の宣伝を手がける人たちにとって、特大ヒットとなるかどうかの分かれ目として、あるフレーズを聞いたことがある。それは「多摩川を越えられるか」。明らかに“例え”なのだが、要するに大都市だけでなく、いかに全国で観客数を伸ばせるかがカギとなる。『トップガン マーヴェリック』や「ミッション:インポッシブル」シリーズ、あるいは「ワイルド・スピード」シリーズなどは、大都市圏だけでなくローカルの数字が好調で、年間を代表する大ヒット作の地位を手に入れてきた。マリオやディズニーのアニメ作も同様。
作品のジャンルとして、アクションやエンタメ系ではない『オッペンハイマー』が特大ヒットを達成するのは現実的に難しいかもしれない。しかし話題性という点では群を抜いているので、ポテンシャルは備えている。『パラサイト 半地下の家族』のように時間をかけて異例の興収(47.4億円)を上げる例もあった。
『オッペンハイマー』ではIMAXでの鑑賞が人気で、大都市圏ということで、都心でIMAXのメッカといわれるグランドシネマサンシャイン池袋では、平日の昼間の回でも満席に近い状態が続いている。
これは4/3(水)の15:55の回を11:00の時点での売れ行き。ほぼ完売に近い(赤が予約済み)。
一方で同館の通常のスクリーンの16:35の回は……。
またTOHOシネマズ日比谷では、4/3(水)のIMAX20:00の回が、23:15終映にもかかわらず、11時の時点でかなり埋まっている。
これが「多摩川を越える」と、たとえばTOHOシネマズららぽーと横浜のIMAXでは、4/3(水)16:30の回が、11時でこのような状態。
さらに足を伸ばして茨城県のシネマサンシャイン土浦となると、IMAXの4/3(水)16:05の回が、11時では寂しい状況。
大都市とローカルのシネコンの集客率を単純に比較できないとはいえ、『オッペンハイマー』は明らかに都市型の興行となっていることがわかる。
原爆の惨状が直接描かれていないことや、描かれていることすべてを理解するにはハードルの高い作品であることから、日本で公開されてからも様々な論議が起こり、メディアでも多く取り上げられている『オッペンハイマー』。この注目度が全国的に広がることで、大ヒットにつながってほしいと思う。「多摩川を越えて」多くの観客を集めることができるのか。日本人としては観るべき映画なので、時間がかかっても大きな数字に到達することを願う。
『オッペンハイマー』画像:(c) Universal Pictures. All Rights Reserved.