韓国軍国防白書2020の北朝鮮ミサイル比較図から大きさ推定値
2021年2月2日、韓国軍が2年ごとに発表している国防白書が発表されました。2年前の白書では新型としか記載されていなかった北朝鮮の新型短距離弾道ミサイルに、韓国軍独自のコードネームが割り振られています。
대한민국 국방부:2020년 국방백서(大韓民国国防部:2020年国防白書)
(左)韓国軍コードネーム、(右)アメリカ軍コードネーム
- 19-1 SRBM・・・KN-23 (イスカンデル類似)
- 19-4 SRBM・・・KN-24 (ATACMS類似)
- 19-5 SRBM・・・KN-25 (超大型ロケット弾)
※SRBM(短距離弾道ミサイルの略語)
比較図より大きさの推定
国防白書2020では北朝鮮のミサイル比較図が掲載されていますが大きさの数値は掲載されていません。そこでこの比較図からミサイルの大きさを推定してみました。
以下に記載したミサイルの大きさの数値はこの記事での独自の推定ですので、注意してください。
SRBM(短距離弾道ミサイル)
- スカッドB/C・・・全長11m 直径88cm
- 19-1 SRBM・・・全長8m 直径110cm (イスカンデル類似)
- 19-4 SRBM・・・全長5.8m 直径70cm (ATACMS類似)
- 19-5 SRBM・・・全長8.25m 直径60cm (超大型ロケット弾)
本家ロシア版イスカンデルが全長7.2m・直径95cm、本家アメリカ版ATACMSが全長4.0m・直径61cmであるのと比べると、北朝鮮の新型ミサイルは参考にしたミサイルよりも大型化しているというのが韓国軍の分析です。
ただし新型ミサイルの大きさ推定値はアメリカの研究者の間でもバラつきがあるので、これもあくまで推定値であり確定した数値とは言えません。大型化しているだろうという点については、ほとんどの研究者・研究機関でも一致しています。
超大型ロケット弾について北朝鮮は「超大型放射砲(多連装ロケット砲)」と自称しており、形状も確かに細長い典型的なロケット弾なのですが、大きさがもはや短距離弾道ミサイル並みなので韓国軍はロケット弾扱いしていません。これは日米など他国でも同じ対応です。
MRBM(準中距離弾道ミサイル)
- スカッドER・・・全長12.5m 直径100cm
- スカッド개량형(改)・・・全長12.5m 直径100cm
- 북극성(北極星)・・・全長8.7m 直径150cm
- 북극성-2(北極星2)・・・全長8.7m 直径150cm
- 노동(ノドン)・・・全長15.5m 直径125cm
- 북극성-3(北極星3)・・・全長8.7m 直径150cm
北極星シリーズはアメリカの研究者の間では大きさがそれぞれ若干異なっている推定も多いのですが、韓国軍の国防白書の図ではどれも同じ大きさです。厳密な図ではないので描きやすいように微妙な差を揃えた可能性があります。
MRBM左から2番目の「スカッド개량형」の言葉の意味は「개량형(改良型)」であり、スカッドの前方に操舵翼を追加した精密誘導型です。アメリカ軍のコードネームは「KN-18」。当初は「KN-17」であると報道されていましたが、後にKN-17は火星12のことであると訂正されています。
スカッド改ことKN-18についてはアメリカの研究者の推定では通常型スカッドと同じ大きさとする場合が多いのですが、韓国軍は大型化したスカッドERと同じ大きさとしています。
北極星シリーズの大きさの揃え方もそうですが、スカッドERとスカッド改の大きさが揃っているのは少し疑問があります。
IRBM(中距離弾道ミサイル)
- 무수단(ムスダン)・・・全長12m 直径170cm
- 화성-12(火星12)・・・全長17.5m 直径140cm
ムスダンと火星12は全長が大きく異なるにもかかわらず、車載移動発射機は6軸12輪の同型が用いられています。なおムスダンはここ数年パレードでも登場しておらず、北朝鮮のIRBMは火星12に絞られた可能性があります。
ICBM(大陸間弾道ミサイル)
- 화성-13(火星13)・・・全長18.75m 直径210cm
- (추정)화성-13개량형・・・全長17.5m 直径210cm 推定、改良型
- 화성-14(火星14)・・・全長19m 直径210m
- 화성-15(火星15)・・・全長21.5m 直径210cm
- 대포동(テポドン)・・・全長30m 直径300cm※
テポドンはICBMに分類されていますが衛星打ち上げロケットです。なお衛星打ち上げロケット銀河を含むテポドンの系統は最大のものでも直径240cmという推定が多く、韓国軍国防白書2020の比較図から推定できる直径300cmはかなり過大な数値です。※
そうなるとやはりこの比較図はあくまで大雑把なものでしかなく、厳密なものとして扱うことは避けるべきでしょう。
火星13はパレードでは姿を見せましたが発射成功を報じられたことはなく、2016年のムスダン発射の一部が実は火星13で、発射失敗したので伏せられているという推測があります。
(추정)화성-13개량형・・・(推定)火星-13改良型
火星14と火星15は発射試験の詳細が北朝鮮から公表されています。なお火星13および火星14用の8軸16輪の移動発射機は、火星15用の9軸18輪の移動発射機が登場して以降は姿を見せていません。火星15用に全て改造された可能性があります。ただし姿を見せていないだけで別途に隠し持っている可能性も有り得ます。
なお韓国軍国防白書2020の比較図では火星13、14、15の直径が同一で描かれていますが、実際には米韓の研究者や研究機関での推定では火星15は直径2m以上、火星13と火星14は直径1.8m前後という推定が多いので、やはりこの比較図は厳密なものではないようです。図を描きやすいように揃えてあり、微妙な差は表現されていない可能性があります。
そしてこの比較図には、2020年10月10日に行われた北朝鮮軍事パレードに登場した11軸22輪の移動発射機の新型ICBMの図は掲載されていません。分析が間に合わなかったのでしょう。(文章中でパレードの写真と共に簡単に言及されているのみ。)