「第4回GOOD ACTION」受賞取り組みとAI時代の経営者の役割
転職情報サイト「リクナビNEXT」が主催する「GOOD ACTION」という表彰制度がある。2014年にスタートし、2月13日に第4回目の授賞式が開催された。
「GOOD ACTION」とは働きやすさや、やりがいの向上に寄与する企業独自の取り組みを指す。特に今回は、「働くあなたが主人公」というコンセプトを掲げ、「現場から生まれた活動」や「担当者の強い想い」などを重視して8つの取り組みを選出したという。
受賞式にて8つの取り組みの内容や背景にある担当者の想いなどを聞いていると、AIが多くの仕事を担うと言われるこれからの時代に「人間の仕事」や「経営者のやるべきこと」とは何かについて考えさせられた。
”人間の感情”に注目した取り組みの数々
受賞した8つの取り組みは以下の通り。
1.小さなエビ工場の人を縛らない働き方
(株式会社パプアニューギニア海産)
2.グローバル全社員が仕事をしない日!?
世界中から"ヌーラバー"が集まるイベント「General Meeting」
(株式会社ヌーラボ)
3.社員同士が、少額の成果給と感謝の気持ちを、
リアルタイムに送り合うことができるピアボーナス制度
(Fringe81株式会社)
4.社員間コミュニケーションを活性化する社内通貨ウズポ!
社内ファンディングによる新規事業の立ち上げ実績も
(株式会社UZUZ)
5.渋谷から健康、元気、活力の輪を!働く人のための健康経営推進!
「渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム」
(渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム)
6.一企業の枠を超えた、"業界"活性化の一大ムーブメントを興す
業界初の若手有志組織を設立
(一般社団法人建設コンサルタンツ協会(若手の会))
7.Yahoo! JAPAN 公式アナウンス部の立ち上げと発展
(ヤフー株式会社)
8.全社員でオフィスをつくる:自分事感を高める
「境界線が曖昧なオフィスリノベーション」
(株式会社CRAZY)
※番号は筆者が便宜的に振ったもので、受賞順位ではない。
1番のパプアニューギニア海産については、以前にも以下の記事で紹介している。
同社のエビの加工工場における取り組みは、「事前連絡無しで自由に出勤・欠勤できる」ということや、各自に作業の好き嫌いのアンケートを取り、嫌いな作業はやらないことを基本とすることなど、常識破りな制度が驚きとともに注目されることが多い。だが一番注目すべきは、工場長の武藤さんの「スタッフが気分良く働ける」ということをどこまでも追求していく姿勢だと思う。
詳しくは著書『生きる職場』(イースト・プレス)を読んでいただければと思うが、自由な出勤制度も嫌いなことをやらなくてよい仕組みも、そのルールを導入して終わりではない。うまくいくように改善を重ね、従業員のひとりひとりが嫌な思いを抱かず気持ちよく働けるよう、細やかに気を配り、働きかけているのだ。そうする理由には、武藤さんが授賞式で語った、次のような人間感がある。
「基本的に『人は争うものであるし、信用できない』ということを元に、色々なことを考えています。そんな人間だからこそ、どうすればまとまっていけるのか? その結論として、僕らは『縛らない』、『管理しない』ということに行き着きました」
近年、従業員の定着率が大幅に向上し、採用コストも大幅に下がったというのは、武藤さんの目指すものが実現しつつあることの証拠だろう。
2番目のヌーラボの取り組みは、年に1度、国内外の全社員が福岡本社に集結し、1週間、家族も参加できるイベントを通じて思い出づくりをするというもの。そのために2017年度は700万円を投じたというから、やはり型破りだ。
きっかけは、担当する仕事の違いから生じる不公平感や、国を越えてのカルチャーやマインドの違いによるコミュニケーションのしにくさなどを解消したい、という思いだったという。一緒に思い出を作ることで、その後は離れた場所にいてもコミュニケーションが取りやすくなる。パプアニューギニア海産とは異なるアプローチだが、これも社員がいかに気持ちよく働けるか、特に人の感情の部分に注目した取り組みだ。
3番目のFringe81、4番目のUZUZは共に、社員が感謝や称賛の気持ちを独自のポイントで送り合う制度が表彰された。たまったポイントは、Fringe81の場合は給料に、UZUZの場合は事前決裁が不要な経費として使えるというのもユニークだ。これも、個々の社員の貢献に光を当て、社員の相互理解やコミュニケーションを促進したり、社員のモチベーションを上げるという効果を生んでいる。
今後、職場の人間関係や働く人の心理状態を逐次モニタリングするようなAIが次々に出てくるだろう。モニタリングするだけでなく、それを改善するための提案もしてくれるかもしれない。そういうシステムは大いに活用すれば良いと思う。
しかし、「AIがやれと言ったから」と新しいことを始めて、果たして社員は納得するだろうか。AIの提案をヒントにしても良いが、最終的に何をすべきかを決めるのは経営者や想いのあるリーダー達であるべきだ。職場の風土は仕組みや制度といったツールを導入すれば変わるというものではない。むしろ、「私達はこんな組織になりたい。だから、こういうことをやっていこう」という意図や本気度をどれだけ伝えられるかが肝だ。それは人間にしかできないことで、今後の経営者が一番やらなければいけないことではないだろうか。
合議やロジックでは生まれない“自分事感”
受賞した取り組みの5〜8番目は、いずれも“この人がいなかったら始まらなかった”と言ってもいいようなものだ。
例えば、「渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム」という複数企業によるコンソーシアムを立ち上げた平井孝幸さんは、勤務するディー・エヌ・エーで同僚たちの姿勢の悪さ、その結果生じる不健康や生産性低下に強い問題意識を持ち、同社で健康サポート専門部署CHO(Chief Health Officer)室を立ち上げたところから今に至る。
今は「健康経営」という言葉もよく聞かれ、社員の健康サポートが企業に求められている時代ではある。しかし、平井さんがいなければ、ディー・エヌ・エーおよびコンソーシアム参加企業の健康に対する取り組みは全く違ったものになっていただろう。「健康経営が注目されているし、人事部で情報収集して福利厚生制度を見直しましょう」程度にとどまるところが多かったのではないだろうか。
どの取り組みも、「◯◯の問題を解決するには」といったテーマで複数の人が検討し、「これをやりましょう」と決まるようなものではない。「選択と集中」を是とするならば、「他にもっとやるべきことがある」と切り捨てられてしまいそうなものもある。
ほとんどありえないだろうが、AIが「社内にCHO室を作り、他社とコンソーシアムを作る」という提案をポンと出してきたらどうだろう。タスクとしては一緒でも、そこに「熱意をもった発案者」がいなければ、きっと成功しないのではないか。
築60年の町工場だった場所を社員全員の手でリノベーションし、自分たちのアイデンティティが感じられるオフィスに作り上げるというプロジェクトを主導したCRAZYの林隆三さんは、オフィスを“与えられるもの”ではなく自分達で作ることで、「自分の存在や居場所に誇りをもつ」という狙いがあったという。そういった“自分事”をどれだけ生み出せるかというのも、仕事がAI化、機械化していく中で非常に重要なことだと感じた。
受賞した各取り組みの詳細についてはこちら:GOOD ACTION 2017